幕間のウイトラコチェ 4

 時刻は午前十時、町中は人でごった返していた。ある者は恋人と共に、ある者は知人と楽しく買い物を、周りの人間たちはいつもと変わらない『日常』を過ごしていた。

 その中を彼は、決意に満ちた面持ちで進む。

 友人との待ち合わせ場所は、駅前だった。最近になってそこには小さな広場が設けられており、そこが待ち合わせ場所だ。

 広場では子供たちが元気よく走り回っていた。近くには親と見られる大人もおり、こちらも仲良く談笑している。

 そんな中で、ひときわ目立つ者がいた。髪はボサボサ、無精髭を生やし広場のベンチに腰掛け、横には大きな紫色のリュックサックを無防備にも置いている。はたから見れば不衛生な浮浪者と見まごうほどだ。

 彼が広場でその人物を見つけると、相手も彼に気が付き手を振り立ち上がった。

 リュックサックを背負い、こちらへと駆け足でやって来るその姿には、背中に背負ったものを何とも思っていないように見えた。

「おー、進。久しぶりじゃん!元気してたかぁ?」

「久しぶりだなー、希望のぞみ!」

 友人の名前は『瓶内かめうち希望のぞみ』、男のくせに女みたいな名前だが、それを言うと彼はへそを曲げる。

「つーかそのリュック、まーたシール増えてね?」

「シールじゃねーよ、ステッカー!」

 希望は旅行に行くたびに、旅行先の土産物売り場かなんかで、地元を描いたステッカーを必ず買っており、それをリュックサックに貼り付けている。

 実際、彼のリュックサックに貼られているステッカーは、何年か前に見た時の倍ほどに増えている。知らない者が見れば、そういう柄と思ってしまうだろう。

 しばし二人は談笑した。希望の旅先での思い出話や、彼の職場での珍事など、話のタネは尽きることが無かった。

 わたしは彼の胸ポケットの中、メダルの中でひっそりと彼らの話を聞いていた。中でも一番興味が惹かれたのは、希望が旅先で聞いたという民族の魔術師の話しだった。なんでもその魔術師は、病気で死んだ家畜を蘇らせることが出来るのだとか。人間のくせに魔術が使えるのか・・・・・・いやいや、目の前に該当する者がいたな。ただその話、希望が言うには『客寄せ』らしい。要は、そんな魔術師は存在しないというオチだ。非常に残念だった。

 話しながら二人はレストランに入っていった。全国に展開しているチェーン店だ。

 店員に案内された席に着き、各々食事を注文した。

 小僧の方は麻婆豆腐を、希望は旅先の食事が影響しているのか、従来の三倍の三ポンドステーキだった。見ただけでもおぞましいほどの分厚さだった。

 二人は食事を楽しんだ。そこにあったのは、単なる『日常』でもあった。

 だが、彼は噓を吐くのが苦手だったようで、希望はそれを見抜いていた。

「どったの?さっきからちょいちょい浮かない顔してっけど?」

「あー、まぁ・・・・・・」

 歯切れの悪い返答、そしてすぐに、諦めたように言った。

「飯・・・・・・飯食い終わったら話すわ」

 そんな友人の返答を受けて、希望もまた、「そっか」と無理強いはしなかった。

 お互いに思うものがあるのだろう。二人の間の空気は、賑やかなファミレスの中で浮いていた。

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