幕間のウイトラコチェ 2

 明星とシアが束の間の休息に着くころ、彼らの住む世界とは別世界、そこにある魔術工房でとある魔術の実験が行われていた。

 大きな円卓の中央に広げ魔術符スクロールの上には、異なる色の魔力が球状になって浮かんでいた。

 それらを操作し混ぜ合わせようとしているのは、風の魔術師だった。

 手をかざし、自身の魔力を集中させる。

 そこへ一人の人物が現れた。コツコツと靴音を鳴らし、杖をついていた。

「んだよ」

 魔力の集中を研ぎらせることなく、風の魔術師はその人物の気配に気づくと、そう言ってのけた。

「ほう、にあのように言われていじけていると思っていれば、そんなことはなかったか」

 これが癪に触ったのか、「ああん!?」と怒りをあらわにした。

「テメェ、嫌味言いに来ただけかゴラァ!?」

「すぐに激昂するのはいかんぞ、ほれ、魔力が乱れておる」

 感情に揺さぶられたのか、魔術符の上の魔力がブレている。

 風の魔術師は舌打ちを打つと、すぐさまその魔力を再び集中し始めた。

「・・・・・・で、なんだよ?」

 少し落ち着いたのか、風の魔術師はその人物に問いかけた。

「いやなに、貴様が作ろうとしているな。彼は、という報告をしに来てやったのだよ」

「はあ?!」

 風の魔術師は再び感情をあらわにした。魔術符の上の魔力はついに、その魔力の集中が途切れてしまい、弾けて消えた。

「ん・・・・・・っだよそれ!ありえねえだろ?!人間だろうが!!」

「ああ、そうだ。わしも驚いたよ。つくづく人間という存在は、我々の理解を越えてくるやつらだ」

「ねえわ!ねえわ!!」

 テーブルに何度も拳を振り下ろし、感情を叩きつける風の魔術師。悔しさというよりは、魔術師としての誇りを傷つけられた、ということへの『怒り』の感情が現れており、叩きつけられた拳からは、血がにじみ出る程だった。

「貴様はどうする?」

 その人物が問うた。

「決まってんだろ・・・・・・」

 血のにじむ拳を魔術で癒し、彼女はマントを翻し工房から出てゆこうとした。

「どこへ行く?」

「”材料探し”だ。今ので二つ、ダメにしたからな」

 彼女は不敵な笑みを浮かべそう言うと、烈風を纏ってどこかへと消えてしまった。

「相変わらず疾風のような女だ」

 突然訪れたその客人は、家主が留守にした工房を後にした。

 工房の外には二つの亡骸が、無造作に置かれていた。死んでから日が浅いのか、それらは小綺麗だった。

「またか・・・・・・悪戯に殺しおって」

 それらの死体の正体は、まだどの魔術も継承していない『魔術師見習い』のものだった。歳も若く、未来ある見習いたちだった。

 客人は持っていた杖を掲げると、それらの下の土が蠢きだし、死体を飲み込むように埋めていった。最後に手近にあった石を魔術で削り出し、小さな十字架に象りそれを乗せた。

「お主らに、旧き友との安らぎがあらんことを」

 祈りをささげると客人は、自身の魔術により作り出したゲートをくぐり、同じようにどこかへと消えていった。

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