涵養のスヴィズ 11
呆気なかった。先ほどまではからがら回避できたとはいえ、ここにきてなぜ避けられなかったのか?思考を巡らせる。彼が潰される瞬間、不敵に笑っていたのが見えた。
期待外れと思ったのか、闇の魔術師は頭を抱えていた。
だが・・・・・・岩の戦士は未だ、起動していた。
ふと、わたしの顔に雫が落ちてきた。
雨だ。小雨程度だが、雨が降って来たのだ。
その雨は次第に勢いを増し、霧のように広がり視界を遮り始めた。
わたしはその雨に安堵した。ああ、これがお前のイメージなんだな、と。
霧の中、誰かが大雨を切り裂くように、岩の戦士へと接近するのが一瞬見えた。その影は瞬時に岩の戦士の背後へと回り込み、無防備な首へと攻撃を与えた。
彼だった。彼は生きていたのだ。
「なんと!?」
闇の魔術師は驚いていた。たしかに彼の魔力は感知できなかったのだから。
「生きていたか、小僧!」
「死んでたまるかよ!」
「どうやってみせたんだ?わたしはお前の存在を感知できなかったんだぞ?」
「お前がよくさ、漫画漫画言うから、漫画に出てくるような技を真似してみたんだよ。分身ってやつさ!」
分身、分身か!初級魔術に該当するものだな、子供騙しにもほどがある。だが逆に、単純な行動しか出来ない存在相手ならば、それは脅威というものだろうな!
それにこの雨!この雨粒一粒一粒に、彼の魔力を感じる!
「分身で岩の戦士を陽動したのか。それにこの雨、これは岩の戦士をかく乱するためのものだな?」
「それもそうだけどさ、狙いはもう一つ!」
大雨に込められた彼の魔力が、岩の戦士を翻弄する。岩の戦士も、ただ闇雲に攻撃するしかなかった。それでも、わずかな魔力の高まりを感知しているのか、その攻撃はほんの少しだが遅れて、彼のいた場所へと振り下ろされ続けていた。
だが、その攻撃のどれもが、先ほどまでの威力を持っていなかった。
ふと、岩の戦士の足下を見た。あの凄まじい攻撃により、その足下は雑草が剥げ土が剝き出しになっている。そこに雨が溜まり、ぬかるみへと変化していたのだ。
岩の戦士の咆哮が、大雨の降り続ける平原に響く。岩の戦士は狙いをつけ、ここだと定めた場所へと渾身の一撃を振り下ろそうとした。
そこに彼はいた。”名前を与えられた魔術”を発動しようとしていた。
「避けろ、小僧!!」
わたしの呼びかけなぞに、彼は耳を傾けなかった。その顔は、自信に満ちていた。
岩の戦士は渾身の一撃を叩きこむべく、一歩踏み込んだ。そして・・・・・・
その屈強な足が、ぬかるみにとられた。
姿勢を崩した岩の戦士は、彼の前に膝をつく体勢になった。
完全に無防備だった。掴んでいた岩の大剣も、意味をなしていない。
振り続ける雨粒が、彼の前に集まりだした。
集まった雨粒が、洗練された水の塊となり、その姿を変えてゆく。
それは、大海の化け物。凶暴さに誰もが怯える、『マッコウクジラ』だった。
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