涵養のスヴィズ 10

 岩の戦士の攻撃をなんとかかいくぐり、彼は距離をとった。

 次の攻撃までの合間に、その魔力を集中させ始めた。

 水の魔術師との戦いの際に行ったように、祝詞を唱えようとした彼だったが、それを許す事無く岩の戦士は攻撃を加えてきた。

 一連の流れを見た闇の魔術師が、彼にささやかな助言を言い渡した。

「この状況で祝詞とはのぉ、よっぽどなお調子者と見える。隙を作るだけじゃぞ、ヒトの子よ」

「だってアレって、そういうの必要じゃないの?!」

 その返答を受けた闇の魔術師は、大口を開けて笑いだした。

「ほーっほっほっほ!!”名前を与えられた魔術”に、祝詞が必須じゃとぉ?だぁれがそんな世迷言を言うたかね?」

 そう言われた彼がわたしの方に顔を向けた。

「なんだ?そんなこと、わたしは一言でも言ったか?」

 すると今度は小恥ずかしそうに小声で聞いてきた。

「もしかして・・・・・・いらない?」

「悠長に祝詞を唱える魔術師なぞおらん。そんなやつはよっぽどなお調子者として笑い者だ。それに、お前が小さい頃に見ていた特撮ヒーロー、あれの悪役というのは優しいものだな。ヒーローの変身を”待っていてくれる”。だが残念なことに、は”待たない”」

 彼のその時の顔ときたら、それはもう真っ赤だった。まぁ、すぐに青くなったがな。なぜなら、喋っているうちに次の攻撃が繰り出されていたのだからな。

 間一髪で回避こそしたが、その一撃の余波が彼を傷つける。傷だらけの体をなんとか奮い立たせるも、彼にはやはり”攻め手”に欠ける。

「小僧」

「なんだよ」

「まぁそうふて腐れるな。別にお前の行いを笑ったわけではないだろう?」

「べ、別にふて腐れてなんて・・・・・・!」

「いいから聞け。お前はまずこの状況を、いや、この環境を利用するべきだ」

「環境?」

「そうだ。お前が思っているであろうその”攻め手”が、最も奴に致命的なダメージを与えるその”環境”を作らねばならん」

「つ、つまり?」

「分からんやつだなぁ・・・・・・イメージしろ、あの巨体にとって、もっともな障害はなんだ?」

「障害・・・・・・障害・・・・・・あ!」

 どうやらなにか思いついたようで、水の魔術を構えた。

 そこに、岩の戦士の次の攻撃が振り下ろされる。彼は再び回避行動を―――――

 

 彼の体が、もろに岩の戦士の攻撃を受け、叩き潰された。

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