涵養のスヴィズ 9

 岩の戦士の戦闘能力は、先ほどまでのゴーレムとまるで違うものだった。

 動きが遅いゴーレムに対し、岩の戦士はその巨体からは想像できないほどに速かった。大地を抉るそのひと踏みは、轟音と共に烈風を纏い、瞬きする間もなく彼を攻撃射程範囲に捉えた。

 岩の大剣が、容赦なく振り下ろされる。彼もさすがにこれを危険なものと判断したのか、これまでよりもより遠くへと回避した。

 大剣が大地にたたきつけられた。その圧倒的な力量に、大地は爆ぜた。何十メートルにわたって、大地が割れた。

 その光景を目の当たりにして、彼は唖然としていた。

「いや、いやいやいやいや!なにそれ!?」

 破壊の化身と呼ぶべきか、あまりにも加減がない。

 岩の戦士はその大剣を持ち上げ、再び彼へと向き直る。ゆっくりと、ゆっくりと。

 この場の空気はあまりにも静かなものだった。殺風景な部屋、客のいない博物館のそれに近しい。

 故に・・・・・・その岩の戦士はおぞましかった。

 それに”意思”はない。それに”感情”はない。それに”生命”はない。

『命令されたことのみを行う傀儡』、ならばやつは今、闇の魔術師に何と命令されているのか。それはおそらく、こうだろう。

『ヒトの子を、殺せ』

 闇の魔術師め、鍛錬として意識していたのは初めの内のみだったか。やつはそういう性格だったからな。

「小僧、今やそいつはお前に容赦はないぞ。確実に殺すはずだ」

「は?!鍛錬って言ってたじゃん!?」

「残念だったな、魔術師というのは我が儘で自分勝手な生き物なんだ」

「ふざけ・・・・・・おわぁ!?」

 わたしと話すことに意識を向けたせいか、岩の戦士の攻撃への反応が遅れた。

 直撃こそ回避できたものの、その衝撃波が彼を襲った。

 水の魔術による防御こそすれども、それまでのものとは格が違った。水の魔術の防御膜は一瞬で剥がされ、剥き出しになった体に無数の砂利が襲い掛かる。

 その細腕で人体の急所である頭部を守ったが、その体はたった一撃でボロボロになった。

 被害甚大。そこらの魔術師ならば、大抵はそれだけで戦意を喪失するというもの。

 だがそれでも、彼は膝をつくことはなかった。

 泥だらけのその顔は勇ましく、歯を食いしばり、キッと岩の戦士を睨んでいる。

 わたしはそんな彼から、妙な気配を感じた。それはあの時、水の魔術師との戦いのときにも感じたものに似ていた。

 彼は―――――この状況を楽しんでいたのだ。

 逆境を受けておきながら、その戦意は高揚している。

 それと同時に、彼の魔力が上昇していた。

 彼は使うつもりだった。”名前を与えられた魔術”を―――――

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