涵養のスヴィズ 8

 ゴーレムとの戦いの中で、彼の魔術師としての才覚は確かに磨かれていた。

 ヒット&アウェイの戦い方は、ゴーレムの弱点を看破すると同時に、猛烈至極なものへと変貌した。

 ゴーレムの体に入った亀裂を伸ばすために、水の魔術を重点的に撃ちこむ。勢いに乗ったのか、カウンター気味に振り下ろされるゴーレムの腕すらも、ついには炎の爆発のみで押し返すほどになっていた。爆発の衝撃が、平原を揺らす。

 砕け散ったゴーレムの破片が、パラパラと闇の魔術師のもとにまで降り注ぐ。

 ゴーレムの体は見る見るうちに砕かれ、その亀裂はやがて、弱点の”核”へと達した。

 ”核”を砕かれたゴーレムは、その活動を停止。魔術によって連結していた岩の体は、その力を失くし崩れ落ちてゆく。

「か、勝った?」

 勝利への疑い。いや、勝利の確信を得ようとしているのだろうか。動かなくなったゴーレムに、彼はもう一度集中した。

「魔力は・・・・・・うん、ない!」

 彼の言うとおり、すでにゴーレムには魔力はなかった。それは、魔術により生み出された生物の”死”を意味している。

 だが・・・・・・所詮はそういう生物なのだ。例え死を迎えようとも、そんな存在にはその意味をなさない。

「ほーっほっほ!すごいのう、ヒトの子よ。感心感心」

 遠くで闇の魔術師が笑っている。それに彼を誉めているようだが、それと同時に、更なる好奇心を覗かせてもいた。

「これならば・・・・・・もうちっとだけ、

 そう言うと闇の魔術師が、再びその杖を掲げた。平原に一陣の風が吹く。

 先ほどまでの綺麗な星空には、黒い雲が覆い始める。

 風が冷たくなった。草木が風に鳴き始めた。生命のないこの平原に、”死”が舞い降りた。

 バラバラに崩れ落ちた岩が宙に浮き、またひとつにまとまりだす。小さく砕けた破片すらも。

 集まった岩同士が激しくぶつかりだした。わざと砕いているかのようだった。

 岩は細々とした破片へ変わり、密集し始める。そして同じように、それらは再び”生命”を得た。

 先ほどまでの不細工な人型ではなく、筋骨隆々な人型となった。

 その体にはさらに、岩で作られた鎧を纏い、岩でできた大剣を握っている。

 伝承に伝わる巨人の戦士をかたどる、まさに『岩の戦士ギガース』だ。

 圧倒的な存在感を放つそれは、主の命令を待っていた。

「のう、ヒトの子よ。わしはな、お前さんにひとつの可能性を見出しておる。きっとお前さんなら・・・・・・いや、無粋かのぉ」

 闇の魔術師が岩の戦士に杖を掲げる。岩の戦士の眼が怪しく輝いた。その体に魔力が流れ込み、起動したことを告げるものだった。

「とにかく。わしから言えることはただひとつ。”期待しておる”」

 岩の戦士がゆっくりと立ち上がる。その巨躯を起こし、彼を圧巻して見せた。

 そして―――――吠えた。

 咆哮が平原を揺らす。天に広がる雲を吹き飛ばす。草木が泣いた。

 彼も負けじと身構える。こんな時、彼が読んでる漫画だったらこうだろうか?

『第二ラウンド、開始—――――』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る