涵養のスヴィズ 4
思えばわたしは、闇の魔術師が使って見せた空間を作る魔術を使ったことがなかった。歴代の炎の魔術師が残した魔術の中には、同じように空間を作る魔術があったが、わたしはそれを必要としたことが無かったからだ。自分にとって有利な環境、それは、炎の魔術ならばいともたやすいもの。
故に・・・・・・その空間には驚かされた。
どこまでも続くだだっ広い平原には、そよ風が吹いていた。
「ほう、闇の魔術で作るわりには、意外にも穏やかじゃないか」
「わしも歳をとったからのぉ。それに、あまり厳つい空間ではな、今でもとっておる弟子たちが委縮してしまってな」
「弟子がいるんですか?」
「うんむ。未だに闇の魔術の習得には及ばないが、みな相応に腕を磨いておる」
「へー。シアは弟子とかいなかったのか?」
「いない。それ以前に、いらぬ」
彼の質問で、昔の事を思い出した。
わたしが炎の魔術師を継承した後に、弟子入りを申し込んできた青年がいた。わたしが拒否してもしつこく頼み込んでくるので、「火山でひと月生活してこい、そうしたら考えてやる」、そう言ってわたしはそいつを火山に送り込んでやった。結果は言うまでもない。魔術師を目指すものはみな、馬鹿がつくほど真面目だからな。一週間後に様子を見に行けば、案の定、”炭”になってたよ。
「そやつの性格じゃ、弟子をとったとしても、育つ前にみな死んでしまうわい」
「ハッ!貴様に言われたくはないな」
三人で雑談しながら歩き続けると、大きな岩の転がった広場に辿り着いた。円を描くように置かれた岩を前に、闇の魔術師が言った。
「ヒトの子よ。今からお主には、この岩をすべて燃やしてもらおうかな」
「岩を燃やす?それだけ?」
「うんむ。まずはお主の魔力を測りたいのじゃ」
言われるがままに彼は、一つの岩へ向けて手をかざした。岩と彼の間には、おびただしいほどの熱が沸き上がり、剥き出しの草地は焦げ、やがて岩はマグマのように赤く燃え上がった。
ドロドロに溶けた岩が、容赦なく草地を飲み込んでゆく。
「ほー、見事なもんじゃ」
「でしょうとも!」
彼は誇らしげだった。こちらとしては、こんな程度で誇るなど恥ずかしいにもほどがあったが。
「では次は・・・・・・こやつを倒してもらおうかの」
そう言うと闇の魔術師は、持っていた杖を岩へと振りかざした。
すると、ただ転がっていただけの岩たちがゴロゴロと動き出すと、一カ所へと集まりだした。
積み上がっていく岩は、徐々にヒト型へと変わり、そして―――――
「こ、これって・・・・・・」
「ふん、舐められたものだ。子供騙しの訓練用生物か」
岩が積み上がり産まれたそれは、大地を揺るがすほどの一歩を踏み込んだ。
「ご、ゴーレムだー!!」
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