涵養のスヴィズ 3

「それでは、最後の返答を頂いたということで、”賛成”が六名、”反対”なしのため、これより、ゴエティアを開催いたしましょう」

 最悪の空気の中、魔女はゴエティア開催の宣言をした。

 それをよそに、風の魔術師と小僧は睨み合っていた。さきほどまでのビクビクした態度は、いつの間にか勇敢なものとなっていた。

「のう、魔女よ。ひとつ提案したいことがあるのじゃが?」

「何でございましょう、闇の魔術師様?」

 手を上げた闇の魔術師はゆっくりと立ち上がり、こう言った。

「いやな、そこのヒトの子はまだ魔術師になって日が浅いとみられる。そんな子と戦うのは、あまりにもハンデがあるような気がしてな。そこでどうじゃろ、少しばかりこの新たな炎の魔術師殿に、魔術について教えを与えたいのじゃが?」

 闇の魔術師の提案は、まさかの小僧の鍛錬だった。

「それはつまり、闇の魔術師様がお教えになられる、ということでよろしいでしょうか?」

「うんむ、わしが教えよう」

「テメェ、クソジジイ!何考えてやがる!こんなクソったれに何を教えるってんだ!?」

 クソガキが闇の魔術師に食って掛かった。

「わしらとは年季が違う。それを倒してしまっては、後味が悪いというもの。せめて、わしらと同等くらいにはなってもらわねば、と思ってな」

「必要ねえよ!こんなやつはな、惨めに死んだ方がお似合いなんだよ!」

「お主も聞き分けのないものじゃのぉ、まさかとは思うがお主よ、負ける可能性が出てくることにでも怯えておるのかな?」

 そう言われたクソガキは、浮き出た頭の血管がピクピクと痙攣するほどに、激昂していた。

「ねえわ・・・・・・負けるわけねえだろうがァ!!」

「ほっほっほ、感心感心。それで、魔女よ?いかがかな?」

「わたくしは構いません。儀式さえ執り行われれば、それでよいのです」

「あい、わかった」

 そして杖をつき、ゆっくりとした歩みで小僧の前まで歩いてきた。

「改めまして、ヒトの子よ。わしは、闇の魔術師じゃ。これからお主に、魔術師の戦い方について、手ほどきさせてもらうぞい」

「あ、どうも・・・・・・でも、シアに戦い方は教えてもらったんですが・・・・・・?」

「そうじゃったのか?」

 闇の魔術師はわたしの方を向いた。

「いや、戦い方は教えていない。魔術の使い方のみを教えてある。のみこみは良い、すぐにものにするだろうさ」

「それならば安心じゃな、では、ゆくとしようかな」

「行くって、どこに?」

「魔術が及ぼす影響は大きい。それにお構いなく使えるところじゃよ」

 そう言うと闇の魔術師は、持っていた杖を一振りすると、目の前に歪んだ空間を作り出した。

「わぁ、すげぇ・・・・・・」

「空間を繋ぐ魔術じゃよ。ささ、ゆこうか」

 さきに入っていった闇の魔術師の後に、彼も続いて入っていった。

 わたしも続こうとした時、ふと、部屋の中に視線を配った。

「あのクソガキめ、いつの間にいなくなった?」

 部屋の中には魔女しかいなかった。用心はしておくべきだろう、あのクソガキがいつ、どこからか不意打ちをしてきても不思議ではないからな。

 そして、わたしもその空間の中へと侵入した。

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