給るホヴィロン 10
「魔力で出来てるって・・・・・・それじゃああいつは・・・・・・」
「どちらにせよ、生きていたとしても風前の灯火、お前がやらなくとも誰かにやられていただろうさ」
彼はうなだれていた。
「魔術師って・・・・・・そこまでするほど、魔術にこだわってるのかよ」
「こだわりではない。そしてそれは、魔術『に』ではない」
「分かんねえ・・・・・・どういうことだよ?」
「我々魔術師が生来、その一生をかけて追い求めるもの、それは・・・・・・『魔法』だ」
すると、彼は不思議そうにしてみせた。
「魔法って・・・・・・魔術と一緒じゃ・・・・・・」
わたしは彼のその言葉にすぐさまピシャリと返した。
「魔術と魔法を一緒にするな、たわけ」
「ど、どう違うって言うのさ」
まったく・・・・・・魔術と魔法を同じものと思っていたとは・・・・・・人間というのは末恐ろしい。
「魔術師がその魔術に磨きをかけるのは、探究する魔法へと辿り着くためだ。元来、魔術師たちはその魔術を培い、自らの後継者にその魔術を受け継がせることで、それぞれの『原初』、つまり、魔術のルーツである『魔法』を知ることを目的としている」
「魔法を知って・・・・・・その次は?」
「分からん」
「その先の目的はねえのかよ!」
「当然だ。今の今まで誰一人として、魔法へと辿り着いた者はおらんのだからな」
果てしない道のりだ。わたしも、そこへと辿り着く”手段”を講じてみたのだが・・・・・・それが、今のこのありさまなのだからな。
「あっ」
「どうした?」
「魔法を追い求めてるってのはさ、俺が倒しちゃった水の魔術師も同じなんだよな?」
「そうだな、いや、そうだったんだ」
「そうだった?」
「ああ、わたし達魔術師にはな、『旧き友』がいるのだ」
「旧き友?」
「お前たちもよく知っているはずだ。『死』だよ」
「シ?シって・・・・・・死ぬの『死』?」
「うむ、我々魔術師もいずれは死ぬ。それは魔力が尽きた時、または此度のように戦い、その命を散らした時だ。我々を、死が迎えに来る」
「迎えに来るってことは・・・・・・死神?」
「違う、分からんやつだな、友なのだ。かけがえのない、旧き友だ。だというのにあの水の魔術師は、どれほど昔になるかはわからんが、その旧き友を拒絶したのだ」
「死にたくないから?」
「そうだ。『死』を恐れたのだ。恐れるということは、魔法の探究を”辞める”という罪でもある」
「探究と死は繋がってる・・・・・・だからあの時、弱いって言ったのか・・・・・・」
「だが・・・・・・やつは最後に、その過ちを認め、旧き友を迎え入れた。あの瞬間、立派な魔術師の一員になったのだ。お前の指を見てみろ。右手の人差し指だ」
彼はそう言われると、右手を見た。
「なんだこれ・・・・・・指輪?」
銀のリングには、深い海色をした宝石が埋め込まれている。
「そいつは魔術師たちが選ばれた証、代々引き継がれる『継承の証』と呼ばれるものだ。お前が拾ったわたしの『メダル』もそうだ」
「どうしてそれが俺の指に?」
「お前が水の魔術師を倒したからだ。力は、より強者へと受け渡される」
「受け継いで俺にどうしろってのさ?」
「それも今ここで答えたやってもよいが・・・・・・窓の外、さきほどの爆発音を聞きつけた誰かが通報したんだろう、ほれ、警察や消防士があわをくってきたぞ」
彼が恐る恐る窓から外を見ると、赤いランプが夜闇を裂いてこちらへと向かって来ているのを確認した。
「やっ・・・・・・べぇ・・・・・・」
「一先ずここから離れるぞ。この騒ぎ、説明するだけ無駄というものだ」
彼とわたしは警察たちとは反対方向、体育館の裏手から外へ飛び出し、草の中を背を低くして這い、その場を後にした。
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