給るホヴィロン 7

「真髄?それって何さ?」

「知りたいか?ならばまずはやつの魔力を追ってみろ」

「追う?」

「山から水が流れ、川となる。同じように、やつの魔力に集中し、その行きつく先へと向かうのだ」

「あいつの魔力・・・・・・」

 彼は瞼を閉じ、集中し始めた。

 水の魔術が持つ魔力は、やはり水の流れそのものである。清流のせせらぎ、急流の荒々しさ、そして―――――

「なんだ・・・・・・これ・・・・・・」

 彼はどうやら水の魔力が集まる先へと辿り着いたようだ。そこにはすでに、膨大な魔力が集められている。

 それは『渦潮』。巨大な水塊の如きそれは、体育館を余裕で飲み込むほどだった。

「魔術師の持つもっとも強大な魔術、お前にわかるように例えるならば、『必殺技』、名前を与えられた魔術ネームド・アーツだ」

「必殺技って・・・・・・つか、さっき”弱い”って言ったじゃん!」

「弱いの意味が違うのだ。それは、あの魔術を受ければよく分かるはずだ」

「無理無理無理無理!死ぬって!!」

「呆れたなあ・・・・・・

 そう言われて彼はハッとした。

「もしかして・・・・・・それも魔術に繋がるのか?影響とか?」

「無論。故に、『負けるはずがない』とか、『捻り潰してやる』とか、そういったプラスのイメージだけを意識しろ。敗北は心の弱さからくるのだ」

「心を強く持つこと・・・・・・」

「そうだ。だが、今のお前でも少々心もとないものだろう」

 そろそろ頃合いだろう。わたしは、彼の持つ炎の魔力と、わたし自身が保持していた僅かばかりの炎の魔力を同調させた。

 彼の赤い炎の魔力と、わたしの黒い炎の魔力が混ざり合い、揺らぎ、閃光を伴って爆ぜた。

 わたしたちの炎の魔力が繋がった。

 わたしに彼の持つ魔力の一部が流れ込む。

 骨の体には炎が肉付き、久方ぶりの肉体を得た。

「お、オオカミだ・・・・・・」

 彼はわたしを見てそう言った。

「ふう、やはり良いものだな、体があるということは」

 うんと背伸びした。固まった筋肉をほぐすように。

「さて・・・・・・これでお前にも流れ込んだはずだ」

「流れ込んだって・・・・・・何が?」

が培ってきた、”炎の魔術”だ」

「特に体とかに違和感とかないけど?」

「阿呆が。魔術はイメージという基本を忘れるなと何度・・・・・・ニワトリの方がまだ覚えるぞ」

 小馬鹿にされた彼はムッとして見せた。

 そして、ついにその時は訪れた。

 水の魔術師の魔術が解き放たれようとしていた。

 水塊は頭上で荒れ狂っている。かの者の怒りが、憎悪が宿っているのが見て取れる。

 水の魔術師は天に向かい手を伸ばすと、祝詞を唱え始めた。

「私は背く。迎え入れる友を捨て。歩む道はぬかるみ、なおも進むことを許せ。憤怒を、憎悪を、激情を!我が敵へ落ちる鉄槌と成りて、”潰せ”!!」

 突如、天井が軋み、崩壊・・・・・・いや、その魔術に飲まれた。咀嚼、怪物がその巨大な口で飲むように、迫る魔術に砕かれ、潰され、消えてゆく。

 すぐにその姿があらわれた。巨大な渦潮だった。轟々と唸り、落ちてくる。

喰らい、落とせメイルシュトローム!!」

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