給るホヴィロン 5
「は?」
彼の表情はまさしく、「何言ってんだこいつ?」である。
「む、聞こえなかったか?では、もう一度・・・・・・」
「違う違う違う!そうじゃなくて・・・・・・何?魔術師ィ?」
「そうだ。なんだ、聞こえてるではないか」
「聞こえてるさ、ただ、なんというか・・・・・・ファンタジーすぎる」
「ファンタジー・・・・・・」
「そう、そうだよ!これはそうなんだ、夢なんだ!丸一日掛けて寝るとか、どんだけ眠いんだよ、俺は!」
「おい・・・・・・」
彼はすっくと立ちあがると、ふらふらと歩き回りだしたかと思えば、身振り手振りで自身に、今の状況に対する理解を求めた。
「あぁ!きっと今頃は昼を過ぎてるだろうか?遅刻だ、大遅刻だ!」
「小僧・・・・・・わたしの話を・・・・・・」
「スマホには鬼のように電話が来てるだろうなぁ!なのに、なんで起きないんだよ、俺!」
わたしはため息を吐いた。両腕を組み、首を左右に振って見せた。
わたしはこの手で彼の頭を掴むと、グイッとこちらへ引き寄せ、顔を近づけて睨むように告げた。
「たった今死にかけておいてこれが夢とはな、お気楽なのは今を乗り越えてからにしろ、小僧!」
カラ元気はどこかへ消え去り、小動物のように彼は首をこくこくと縦に揺らしてみせた。
「よろしい、だが、時間はあまりかけられん。お前には今から魔術について教えてやる。死にたくなければすぐに覚えろ」
「し、死ぬって・・・・・・さっきも言ってたけど、あいつはなんなんだよ!」
「あいつも魔術師だ。以前から変わらない、愚か者の水の魔術師さ」
「水の・・・・・・」
彼の脳裏には、公園での出来事がフラッシュバックしていた。
噴水が吹き上がり、舞い上がった水が弾丸の如く襲い掛かってくる光景だ。
「だが安心しろ。やつは、わたしが知る限りでは、ハッキリ言って弱い」
「あ、あんなすごい攻撃をしてきたのにか?」
彼の発言に、わたしは噴き出してしまった。
「すごい?すごいだって!?ふははははは!小僧!お前、面白いなァ!」
「だ、だってあんなの見たら誰だってそう思うだろ?!」
「くふふふ・・・・・・あんなの、魔術において初級も初級。覚えたてのひよっこどもですら出来るぞ?」
そう言われた彼の顔ときたら・・・・・・恥ずかしかったのか、真っ赤になっていた。
「だが・・・・・・そう思えることはよいことだ。魔術師たるもの、興味を持つことは大事だからな」
「興味・・・・・・」
「あぁ、そうだ。好奇心というやつさ」
「それが、お前の言う魔術ってのに繋がるのか?」
「そうとも。呑み込みが早いな、ならば次だ」
そう言ってわたしは、両手の平を広げて見せると、そこに炎を生み出してみせた。
彼の小さな瞳には、わたしの炎が放つ閃光が映えていた。
「魔術とは、イメージだ。もとより、形を持たぬ魔力に形を与える。それが、魔術なのだ」
「イメージ?」
「そうだ。故に、好奇心が与える、イマジネーションが強いものこそ、何者よりも勝る魔術師となるのだ」
そう言われた彼は、自身の手の平を見つめていた。おそらく、今になってようやく、自身の持つ能力の意味を理解したのだろう。
その時、わたしは外から聞こえてきていた風になびく木々の枝がすれる音が、全く聞こえなくなっていることに気が付いた。
それは、やつが来たという合図でもあった。
「小僧」
「ん?」
「早速だが・・・・・・実践だ」
突如、体育館の壁が、一部吹き飛んだ。
人が一人通れるほどの穴を、そいつは潜り抜けて侵入してきた。
「あ、あいつ・・・・・・!」
水の魔術師、魔術師としての義務を捨てた愚か者。
彼の初めての死闘の相手としては、これほどまでにうってつけの者はいなかっただろう。
身構える彼の背中を軽く押した。
「がんばれ、小僧。死にたくなければ、な」
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