第20話 Aを超越した異能
運動を全然しない僕はあまりにも久しぶりに全力疾走をしている。
夜の暗い学園。廊下を走り階段を駆け上がり、生徒会室がある学園の3階まで到達した時だ。
生徒会室から出てくる瞬間の扇雀累の姿が目に入る。
遅かった。
「リンカに何をしたお前ェェ゙エ゙!」
自分の喉から出たとは思えない程怒りの籠もった声が静かな学園に響く。
「うるさいな。止まれ……っ!?」
僕の強く握り締めた拳が、大きく助走を付けて扇雀の顔に強く撃ち込まれる。
扇雀が大きく吹き飛ばされ倒れ込んだ所を、更に馬乗りになって顔面を殴りつける。
「僕のッ! リンカにッ! お前ッッ!!」
「まっ――待てっ――ぐっ! お前ッ――」
ひたすら怒りのままに、拳から血が出ている事すら気付かず殴り続ける。
もはやカケルは正気を失っていた。
「カッ、カケル!? 何してんだおい!」
「へ……?」
突如腕を掴まれカケルの視界にリンカの姿が現れた。
「え? なん……で?」
無事なリンカと、申し訳無さそうにする扇雀累の顔を交互に見て、僕の頭は急激に冷静さを取り戻す。
――――少し前――――
「嫌いだ」
ルイのその冷たい声と同時に、床へ押し倒される。
だらけきっていた私はそのまま両手を上に拘束されルイにのしかかられる。
「どっ……どど、急にどうしたんだ……?」
突然の出来事に、思わずルイから目を背ける。
「氷坂凛華。何故抵抗しない」
「え……? っ……」
更にルイの片手が喉元を締め始める。
「君ならば僕の手を振りほどき反撃する事など簡単に出来るはずだ」
「がっ……か……っ~~」
そのリンカの顔は、頬を赤く染めて嬉しそうに微笑んでいた。それを見たルイはパッと手を離し立ち上がる。
「あっ……」
「やはりな。氷坂凛華、君は生粋のドM。そうだろう?」
手が離れた事で寂しげな声を出したリンカを、心底楽しそうにルイは見下ろす。
「ふん……バレていないと思っていたか? 下手くそなSの真似事をする君を見て……本物の僕が分からないと思うか?」
「なっ、何を……」
「誤魔化すのは辞めろ。氷坂凛華、お前はドMだ。自らが苦しみ、僕のような人間に虐められるのを喜ぶ醜いマゾ豚だ」
「あっ……」
誤魔化す事が出来ない。ルイが本を読みながら片手間でいじめられている状況に、私のドM心が喜びを隠せない。
生まれ変わって初めて酷く罵られた事で、下腹部がキュンキュンとうずく。
「いい加減自分に嘘をつくのは辞めろ。気持ち悪い欲望に素直になれ」
疼く下腹部をズンッとルイの足が踏みつける。それと同時に甘い声が漏れ出る。
その気持ちよさに脳内を快楽物質が駆け巡り、無意識に異能が床を凍らせる。
「その欲望を抑え込み始めた君が、実につまらなかった。それで氷坂凛華、君は人生を本気で生きてられるのかね?」
強く下腹部を踏みにじられるも、冷静さをなんとか取り戻しルイの呼びかけに口を開く。
「抑えてたんじゃない……っ。私の人生を生きる為に捨てただけだ」
「言い訳は辞めろ」
「はぁっ……♡ ぐっ」
ルイの足先が秘部をグリグリと押し付けられて声が漏れるも、反論を返す為にこらえる。
「近くにいるカケルを悲しませない為……だろう? 君はカケルを悲しませたくないから欲を閉じ込めた。本当は気持ちよくなりたい。それなのに勝手に勘違いしたカケルが悲しむ」
まるで全てを知っているかのように、ルイの言葉は痛いほどリンカの胸に刺さる。
「まあいいだろう。この事は秘密にしてやる。だが――――
ルイが初めて本から目を離した。その瞬間、身体が呼吸を止める。
いや、世界が。この世の何もかもの時が止まる。唯一意識と目の前のルイだけが停止した世界に存在していた。
「僕が本を読んでいるのは力を抑える為だ。欲望を、願いを開放した時だけ僕の異能はAを超える」
再びルイが本に目を戻すと再び世界は動き始める。
「氷坂凛華。僕はこれを伝えにきただけだ」
「……驚いた……」
ルイのAランクを超えた異能の片鱗を味わったリンカ。ルイが離れてようやく、ハッと今の自分が惨めに床に倒れているのを思い出しすぐに立ち上がる。
「僕の元々の異能は ”視界にいる対象の動きを5秒間止める”。だがさっきのは違う ”僕の近くの意識以外の時を止める”」
その力はAランクを有に超える。あまりにも強力過ぎる力ゆえに、今まで隠していたとルイはそう語った。
「もう分かっただろう。今日僕らが倒せなかった相手も恐らくAランク以上の異能力者だ。氷坂凛華、君が異能を使いこなせない限り大事な物を守る事は出来ない。期待しているよ」
ルイはそういうと、軽く手を振り生徒会室から出ていった。
――――――――
詳しい話は伏せたが、事の経緯をカケルに伝えた。そして何故カケルがこんなに取り乱しているのかも、鼻血を流しているルイに問い詰める。
曰く、カケルに私の足を引っ張らせないよう異能の覚醒を促した。その際に私を殺すと脅しを入れた事で、カケルは私の身を案じ激昂。ルイをボコボコに殴るという事態が発生したのだ。
「ふっ……どうやら少し虐め過ぎたみたいだが……結果として不思議な異能に目覚めたみたいだな」
ルイはハンカチで鼻を抑えながら、カケルが ”
「……わざわざありがとう……ございますッッ!!」
カケルはお礼を言いながらも再びルイの顔面を殴りつけた。
まあいくら理由があるとはいえ……カケルの気が済むまで殴らせてやろう。
「お前ッッ! 早速ッッ! 使いこなしやがっ――! 待て! もういっ――――――――」
何度目かの殴打の後、ルイはついに気を失ってその場で崩れ落ちた。
清々しくルイを見下ろすカケルと、そんな暴力的なカケルを見て下腹部を疼かせるリンカであった。
――――――――――
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