第21話 本性
「カケル先輩! あ、リンカ先輩と扇雀先輩も!! 大丈夫ですか〜!?」
カエデ、マリア、タカネが慌てた様子で私達の元にやってきた。
どうやらカケルの様子から何かあったのだろうと思い追い掛けてきたのだろう。
「あらっ? ルイさんがどうして倒れて……?」
「これは……説明してもらおうか」
顔面をボコボコに殴られ気絶しているルイに気付いたマリアと、
拳から血を流し息を切らしているカケルに気付いたタカネ。
どう説明するべきか迷いながら、なんとか事の経緯を伝える。
「ほう。異能にそんな事が……」
「ルイさんの怪我は放置するとして、それは初めて知りましたわね」
やはりルイ以外は誰も知らない様子。
その新たな異能の性質。欲望や願いの強さにより強力になり、ルイの場合はAランクを超える力を手に入れる。
上手く扱う事が出来れば私達はもっと強くなれるのだ。
「今回カエデ達が遭遇した敵も、おそらくはAランクを超えた異能を使っているらしい。だから私達はそれに対抗する為、異能を改めて調べないといけないな」
カケルは、実は元々小さな火を指先に出すだけの異能だった。それが願いの力によって、異能を無効化する異能を発現させた。
ただ単に異能が強化されるのではなく、完全に新たな異能として力を手に入れるのだろう。
それが願いや欲望から生まれる異能ならば、理論上どんな異能も手に入れることが出来る。
「――へぇ、厄介な能力だね」
「えっ……?」
突如、その声と同時にカケルの胸を何かが貫いた。
「カケルっ!!」
「ガッ…………っ!」
「先輩!!」
口から血を吐き出し倒れるカケル。そしてその背後には……。
「ありゃ、無効化されちゃったか」
保健室で寝ているはずのイチが、血濡れた刀を手に立っていた。
「イチ!? お前ッ!」
「バレちゃった♪」
「貴様ァッ!!」
タカネがすぐさま腰の刀を抜いてイチを斬りつけるが、ひょいと優雅に避けると再びイチは姿を消した。
「まさか……クッ!!」
再び攻撃を受けぬよう、私はすぐに全員を氷で覆った。
カケルはすぐにマリアが回復を行っているが、意識を失っており倒れたまま。
カエデは何が起きてるのか分からず啞然と立ち尽くしている。
「透明な異能力者はイチなのか……?」
かくいう私も、すぐには現状を理解出来ずにいた。
イチが水を操る異能なのは、転入初日にこの目で確認している。
「……いや、触れている物も透明化できるならあれは……」
「リンカ会長! 一先ず生徒会室に逃げましょう! 奴の能力を考えるのは後です!」
「っ……そうだな」
タカネの言葉になんとか意識を眼の前のことに戻し、全員生徒会室に入れて鍵を閉める。
「あぁ〜あ、つまんないなぁ〜?」
外からはイチの声が聞こえ、ドアノブをガチャガチャと回している。
「イチ! 全てお前だったのか!?」
「えぇ? どうだろうね〜?」
クススと馬鹿にしているような声色に、私は怒りを覚える。
まさか本当に、これまでの犯行をイチが行ったと言うのか?
だがそれではカエデ達が襲われた時の辻褄が合わない。
「どういう事……? イチちゃんは私達を守って……あれ?」
「ああ、そう思ってはいるがうまく思い出せない……」
カエデとタカネが混乱している。
まるであの時の記憶にモヤがかかっているかのように、2人は必死に記憶を呼び起こす。
「早く出てこないと楽しくないよ〜?」
イチの普段通りの声色が、今は苛立だしい。
幸いイチの攻撃はカケルの心臓を避けており命に別状はないが、異能を無効化する力を手にしたカケルが真っ先に狙われ意識を失っている今、見えないイチを相手するのは厳しい。
「何やら騒がしいな……」
その時、ルイが目を覚ました。
ルイのあの能力ならばきっと。
「ルイ、今は説明する余裕がない。部屋の外に透明になったイチがいる」
「……なるほど」
その一言で大体を察したのか、割れた眼鏡をクイッと上げ直し立ち上がる。
「残念だけど〜……僕は透明だから視界に入れる条件は満たせないよ?」
「問題無い」
時が止まる。
全ての動きが、音が消え。ルイはゆっくり生徒会室から外へ出る。私達は意識だけが残って、そのルイの姿を見つめる。
しばらくすると再び時が動き始め、部屋に縄で拘束されたイチとルイが入ってきた。
「…………」
あまりに呆気ない。
ルイはイチを蹴り飛ばし、自由を奪われたイチはなんなく倒れる。
だがその顔には余裕の笑みが残っていた。
「ルイ。警戒は怠るな。まだ何か隠している」
「言われずとも警戒しているよ。氷坂凛華」
「っ……!」
ルイがこちらを向いた瞬間、私の身体が石のように硬直した。
「な、何をしているんですの!?」
「黙れ」
「キャッ!!」
「きさ――――っ!」
ルイはマリアを蹴り飛ばし、タカネの動きを封じた。
カエデはただ怯えて座り込んでいる。
そしてすぐに私の身体を縄で縛る。
「――っ、お前――」
「暴れるな」
5秒の時間経過と共に動けるようになるも、再びルイの力で動きを封じられる。
そのルイの目は、いつもの鋭い目つきではなくどこか虚空を眺めたようにボーッとしている様子だった。
「流石だね! これで形勢逆転だ!」
完全に身体を縛られ動けなくなった私とは対象的に、ルイに拘束を外されたイチが私の前でニコりと微笑む。
「ルイに何をした……?」
「僕の異能、知りたい?」
明らかにルイはいつもと様子が違う。
イチが何かをやったのは確かだ。
「……聞いたところで素直に明かすのか?」
「え? 勿論! だって明かしたところでリンカ会長は――僕を倒せない!」
その自信に溢れた笑みは、いつもの物静かなイチと違って活き活きとしていた。今まで本性を隠していた。ということか。
気付けば、周りにいたカエデとマリアとタカネも虚ろな目をしてイチの後ろに立っている。
対して動けない私と、意識不明のカケル。
「はっ……」
詰み……か。
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