第16話 潜在
「カケル先輩とリンカ先輩遅いですね~」
カエデとイチは既に保健委員会会長の
「ふんっ! こんな奴と一緒だと知っていれば来なかったんだがな」
タカネはマリアを見て不機嫌そうに鼻を鳴らす。
――成城寺 高峰。風紀委員会の会長であり鬼の高峰と恐れられる3年の女子。おでこを広く出して明るく見せているが、その鋭い眼光は少しの風紀の乱れも見逃さない。腰には本物なのか分からない刀が差してある。
「あらあら、どうしてこんなに嫌われちゃったのかしらねえ?」
――糺明院 聖愛。保健委員会の会長であり微笑みの聖女と呼ばれる3年の女子。常に微笑みを崩すことなく、柔らかな雰囲気で人を助ける彼女は聖母とも呼ばれ親しまれている。金髪に白いベールを顔にかける彼女の姿はさながらシスターだ。
「2人とも仲良くしてください!」
「すまないカエデ君。今回だけはこいつとも協力すると努力しよう」
「あら? 私はイチちゃんが可愛いからついてきただけよ?」
「ママ~……」
「貴様……殺されたいみたいだな……」
タカネが刀に手をかけたその時、丁度カケルと
「皆さん遅れてしまってすみません!」
「謝ると僕達が悪いみたいじゃないか」
――扇雀 累。図書委員会の会長。普段から図書館に籠もっているので存在を知らない生徒も多い。度の強い眼鏡から覗く瞳は常に本を読んでいないと落ち着かない活字中毒者。
「後はリンカ会長が来るのを待つだけ。ママ、一緒に寝て待とう?」
「イチちゃんは甘えんぼさんね。お姉さんと個室に行きましょうか」
「待てマリア! 会長が帰ってきた時にここに居ないのでは意味がない。その嫌らしい手を1年から離せ」
「ふ、2人ともまた喧嘩しないでください!」
そんな騒がしい4人を見てカケルは背後にいるルイの気配に怯える。
「……」
「……?」
だが特に騒がしいのを咎める事なく静かに本を読むルイに、カケルは少し驚く。図書館での恐ろしかった雰囲気がまるで嘘のように消えていた。
「……と、とりあえず皆さん。ここでリンカを待つくらいなら皆で迎えに行きませんか?」
「そうね。カケルの言う通りリンカ先輩を迎えに行きましょう。おそらくまだ体育館の地下にいると思います」
するとマリア、タカネ、ルイの3人は揃って嫌そうな顔をした。それぞれ筋肉ダルマだとか男臭いだとか騒音の肉塊なんて悪態をついている。
しかし早く呼びに行く事に満場一致で賛同が得られたので、6人は共に体育館地下にあるトレーニングルームへ向かう。
――――――――
「どうした! 自慢の筋肉はその程度か!?」
「全国大会優勝者のこの俺ですらお遊びにしかならないとは! やはり氷坂凛華ァ! その美しい筋肉を磨くべきだァァ!」
体育館地下トレーニングルームにて。互いにレスリングユニフォームを着て盛り上がっている氷坂凛華と
「おっ、どうやら皆を待たせてるみたいだ。ここらで勝負を終わらせようゴクモン」
互いに汗をかいているが明らかにリンカは息切れせず余裕そうにしている。対してキョウジは肩を上下に動かし呼吸を必死に整えている。
「行くぞッ!」
刹那、リンカが強烈なタックルをお見舞いする。全国大会優勝者のキョウジは既に体力が切れてしまっているのか倒されるも、必死に喰らいつき肩をマットにつけないよう耐える。
汗ばむ身体が密着し、次第にキョウジの身体を支える足がプルプルと震えだしたかと思うと、ついに力負けし両肩がマットに沈み1秒経過した。
「くそおおおおおおおおおおおおお!!」
キョウジの悔しさが滲んだ叫び声に、唖然と立ち尽くしていた6人はようやく勝負が付いたのだと息を吐く。
「お疲れ様ですリンカ会長♡」
「ああ、ありがとうマリア」
頬を染めながらいつの間にかタオルをリンカに渡すマリア。いつもは閉じている瞳がギョロリとリンカの肉体を舐め回すように見つめるが、リンカは気付くことなく汗を拭き取るとマリアにタオルを返す。
「あぁっ! リンカ会長の汗っ……んっ♡」
「気持ち悪いぞマリア……」
マリアはどうやらそっちの気があるらしい。タカネが気持ち悪そうに距離を取る。
「どうやら皆無事に集める事が出来たみたいだな」
「リンカって運動神経が良いのは知ってたけど……」
「全国大会優勝者に勝てるなんてどういう身体してるんですかリンカ先輩」
「昔から完璧を目指していたからな〜」
見た目では明らかにリンカの方が細身だ。筋肉の量も、更には男女差を考えた上でも余りあるリンカのその強さにカケルとカエデは圧倒されていた。
リンカは勉強もしかり、男女差を埋めるほど運動を頑張っているとはいえその実力は計り知れない強さがまだまだ隠れている。
4人の仲間を集め終えたリンカ達。リンカとキョウジが汗を流し着替えるのを待った後、事件の概要と作戦の説明を始める為に改めて生徒会室へ帰る事にした。
その道中、顔色が優れないカケルにリンカは気付いた。だが何かあれば直接言ってくれるだろうと気にせずリンカは作戦を脳内で確認するのであった。
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