《見えざる脅威編》

第14話 《見えざる脅威編》開幕

 ここ最近、稲生いのう学園周辺でとある事件が多発している。


 被害者達は軽症の者から重症の者まで、年代性別関係無く無差別に刃物で切られたような怪我を負っている。


 そして被害者達は口を揃えてこう言った。


 ――見えない何かがいる。




 〜第1章 母の海〜《見えざる脅威編》




「そこで、A5の異能力者として有名な私に事件解決の協力をお願いされて今回みんなを呼んだという訳だ」


 とある日。私――氷坂凛華は斎木サイキ カケル神楽カグラ カエデ益城マシキ イチの3人を生徒会室に呼び出した。


「ぼ、僕は手伝うけど……なんでカエデと1年生も?」


 カケルが疑問に思うのも仕方ないだろう。カケルとカエデは戦闘能力のない異能力者で、イチは2人にとって初対面である。


 正直私も転入してきたばかりのイチを誘うか迷いはした。だがイチは私よりも高ランクの異能力者。戦力として確実に欲しい人材だった。


「この子はイチ。こうみえてA4エーフォーの異能力者だ」

「可愛い〜!」

「リンカ会長、そして先輩方。よろしくお願いします」


 イチはポチを抱えながらペコリと頭を下げた。

 本当はイチは男だぞと伝えたいのだが、イチを誘う時に本当の性別を黙っていてくれるならという条件を出され仕方なく受け入れてしまったのだ。


 イチは相変わらず女装姿で、学園指定の制服すら女物を選んでいたらしい。黒い女子制服を着るイチ。言われなければ男だと分からない。カケルとカエデには申し訳ないがしばらくはイチの女装癖に付き合ってもらう。


「事件解決の為に集まってくれた皆にまず、改めて犯人の情報を伝える」


 敵はおそらく単独犯であり、事件が起きた範囲はそこまで広くはない。

 街の防犯カメラで確認したがやはり姿は透明。凶器は不明だが刃物のような物で被害者は傷付けられている。


 事件当時、被害者は人気のないところに居たわけでもなく、いつどんな場所でも犯人は犯行を行っている。


「そしてだ。とある被害者女性が咄嗟に反撃をした時の犯人の声らしきものが防犯カメラに入っていた」

「リンカ先輩探偵みたい……」

 

 近隣住民に協力をお願いして手に入れた映像をスマホを使い3人に見せる。

 そこには昼の住宅街の様子が映し出されていた。


 そして聞こえてきたのは男の野太いうめき声。


「被害者は背後から刃物で切りつけられ、咄嗟に異能で攻撃したらしい」


 声からして成人男性。それも少し歳のいったおっさんだ。


「とまあこんな感じで、犯人は人間。透明になるような異能を使い犯行を行っている」

「異能が判明しているなら、異能力者協力に連絡すれば探してもらえそうな気も……」


 カケルの言う通り、全世界の異能力者が異能力者協力にデータベースとして保存されている。つまりそのデータベースから透明になる異能と大体の年代を絞り探せば見つかるはずだ。

 

「勿論連絡した。すると返ってきたのはそもそもそんな異能を持った人間は存在しない。らしい」


 その言葉で一気に緊張感が走る。

 

「つまり今まで上手く異能を隠してきた人間。もしくは――」

月鯨つきくじら……」


 イチがぼそりと呟く。


「月鯨……?」


 カケルもカエデもピンと来ていない様子だったのでイチに説明してもらうことにした。


「ある宗教組織の名称です。彼らは月鯨という神を信仰していて、神により人類に異能が与えられたと信じてて、その異能を使って悪さをしてるんです」


 私も月鯨について知ったのはたまたまだった。正直イチが知っている事の方が驚きである。


「異能力者協会の管理から外れ、秘密裏に活動を行っている。…………私が知ってるのはこれだけです」


 最後にニコリと微笑んでイチが話を終えた。


「…………帰っていいですか」

「私も急用を思い出したので……」


 どうやらカケルとカエデを不必要に怖がらせてしまったみたいだな。


「安心してくれ。月鯨はただの都市伝説みたいな話だ」

「怖がらせちゃってすみません……」


 イチが申し訳無さそうにぺこりと頭を下げ、そしてカエデに抱きついた。


「私が守ってあげますから、先輩は安心してください」

「っ! かんわいいいいい! そうよね! イチちゃんとリンカ先輩がいるなら100人力よ!」


 カエデは相変わらずのチョロさでイチを抱き締め髪の毛をクンカクンカしているが、カケルは少し心配そうにしていた。


「都市伝説とはいえ、危険な犯罪者に僕らが手を出す必要があるのかな……」

「カケルの言い分もよく分かる。相手は少なくともAランク上位の未知の異能を持った異能力者だ。このまま無策に首を突っ込んでも何の手かがりも得られないか反撃を受けて危険な目に合うだろうな……。

 だがAランク上位の支援を待つ猶予もない。またいつどこで犯行が行われるか分からない以上、早急に犯人を捉える必要がある」


 私も何の考えもなしにこの事件の協力依頼を受けた訳じゃない。A5の私とA4のイチ。その他にも協力者を集める必要がある。

 そうして3人に私の考えを説明する。


「これから、この学園で上位のランクを持つ異能力者を集める。それぞれ手分けしてこの4人をなんとか仲間に引き入れるんだ」


 テーブルに生徒の情報が書かれた紙を広げる。


 

 1人目……風紀委員会長、成城寺セイジョウジ 高峰タカネ


 2人目……保健委員会長、糺明院キュウメイイン 聖愛マリア


 3人目……図書委員会長、扇雀センジャク ルイ


 4人目……体育委員会長、獄門ゴクモン 凶寺キョウジ


 

「全員この街で有数のBランク上位の異能力者だ。皆それぞれ仲間に出来れば心強い異能を持っている」


 全員なかなかの曲者揃いで皆には苦労をかけるだろうが、相手は何度も事件を起こしている犯罪者だ。少しでも戦力を揃えて挑まなければ不測の事態が起きた時私とイチだけでは厳しい。


「このメンバーを揃える事が出来れば、いくらAランク上位の相手でも多勢に無勢。依頼を無事に遂行し異能力者協会からの報酬も期待できる」

 

 なんとしてもこの事件を解決し、この街と稲生学園の生徒の安全を守る。それがこの街にいるAランク異能力者である私の責務だ。




 ――――あとがき――――


 《見えざる脅威編》開幕です

 いよいよここから大きく物語が動きます

 

 頑張って書いていきますので

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