第12話 転入生
ポチを膝に乗せながら生徒会に送られてきた資料に目を通す私――氷坂凛華。生徒会の仕事全てを1人でこなしてきた私にとってこれらの処理をするのは慣れた物である。
だがドMロールプレイを辞めて興味ある事も増えてきたし、そろそろ人員を増やしてみるのもありかもしれない。
生徒会室までポチを抱えてくる間、事情を知らない生徒達にギョッとした目で見られていたが学園一の異能力者である私なら問題ないかと特に騒ぎが起こる事もなく来ることができた。
ポチはずっと私の側を離れず今は膝の上でスヤスヤ眠っている。こうしてみると今まで駆除してきたモンスターにもそこまで恐ろしくない奴が居た可能性もあったのだろうか。
――コンコン
「入れ」
学園内設備の老朽化についての資料に目を通していると部屋の扉がノックされた。資料を一度脇に置いて入ってきた人物に目をやると、柔らかな印象の見たことのない生徒が入ってきた。そしてポチもムクリと起き上がるとその生徒を見て興奮したように息遣いを荒くする。
「はじめまして。稲生学園に新しく転入する1年の
白い女子制服を着たその子はそう名乗ると優雅にスカートを持ち上げ丁寧に頭を下げる。
「転入生か。えっと……」
「ワンッ!」
「あっおいポチ!」
「わっ!」
転入生についての資料を探していると、もう待ちきれないとばかりにポチが飛び掛かり少女をペロペロと舐め回す。ビックリした少女も、最初は驚きこそしたものの危険はないと判断したのか興味深そうにポチを見つめる。
ポチがここまで懐くという事は強力な異能を持った異能力者だという証拠。すぐに資料を見つけて目を通す。
「ふむ、益城 壱16歳。……男?」
資料には男と書かれているが、当の本人は小柄で白髪の可愛い少女にしか見えない。制服もこの学園の制服ではないものの純白の女子制服を着ている。
「その、お恥ずかしながら女装が趣味でして……」
と赤面し説明するもやはり女の子にしか見えない。
「あっ……確認されますか?」
「ま、待て大丈夫だ! そういう趣味があるのは仕方ないが、学園指定の制服が届いたらちゃんとそれを着るように」
「はい」
スカートをめくりあげようとするイチを咄嗟に止める。ギリギリまで上げてたから本当に見せる気だったみたいだ。
更に資料を目に通す。
「ふぅ。それで異能は……水を操る能力……
「はい。コップをお借りしますね」
イチがコップに手の平をかざすと、どこからともなく水がとぽぽとコップに注がれる。コップ一杯に水が満たされると今度は両手をかざし水が真ん中で綺麗に左右に分かれる。
「ほう。まるでモーゼが海を割ったようだ」
「ええ、能力の扱いには自信があるのでモンスターが現れたらお任せください」
確かに水を操るのは私の氷よりも使い勝手が良さそうだ。それに私より上の
「優秀な1年が来てくれて嬉しいよ。これから共に戦い、助けてもらう事も度々あるだろう。よろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします。それでこちらのモンスターは……?」
先程からずっとイチの顔や首周りをペロペロと舐めているポチがいい加減気になったのだろう。
「それは今私が監視している鳴き声で意思疎通が出来るモンスターだ。強力な異能力者によく懐く」
「へぇ~」
地下にある研究施設についてはおいそれと外部には明かせないので私個人が監視している事にした。
イチは目を丸くしとても興味深そうにモンスターを見つめる。
やはりどう見ても可愛い女の子にしか見えない。これが本物の男の娘か。
「ポチに懐かれれば異能の強さは折り紙付きと言っていい」
「……ふふっ、こうしてみると意外とモンスターも可愛いのかもしれませんね」
「はっはっは、そうだろう。私も思わずポチと名付ける程だ。だが今の所謎も多い。私や君のような高ランクの異能力者の側で常に監視しなければ何か問題が起こった時に対処できない。だからこうして私が預かっている。…………ほらポチ、いい加減戻りなさい」
「クゥ~ン……」
名残惜しそうに引き剥がされるポチを見て、イチは可愛らしく笑みを浮かべる。なんだか今日は可愛いモノを沢山見る日だな。
「またねポチ。それでは会長、お忙しい中失礼しました」
「ああ。何か困った事があれば生徒会にすぐに伝えてくれ。といっても生徒会は私だけだがな」
ふふふと笑いながらイチが部屋を出ていくと、しばしイチのスカートの中に思いを馳せながらイチの資料に目を通す。
「A4……期待が高まるな」
おそらく生徒会に誰かを誘うとしたらイチは男の娘属性だし欠かせないな。勿論、戦力も含めてな。
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