第11話 新発見
『やめっ! ちょっ……どこ舐めっ……ひゃっ!!』
異能力実験室で特殊な壁に包まれた部屋の中、リンカと異形のモンスターはまるで飼い主とペットのように触れ合っていた。その様子を防御ガラスの外から眺める僕――斎木翔と他の研究員達。
様々な指示をリンカに出してモンスターの様子を見ているのだが、今のところ普通の犬のように振る舞っていて更に興味深い。
食べ物も試しに犬用のビーフジャーキーを与えたところ喜んで食べていた。どうやらあのモンスターの顔は犬の顔の形をした部位で合っているのだろう。他にも小鳥のくちばしなんかもあるが、そこは見た目だけで機能していないらしい。
黒いパンツ履いてるんだ……意外とリンカって……ハッ!
時々リンカのパンツがチラッと見えてしまうが集中しなくては……。
「あのモンスター、なんかリンカ先輩に凄く懐いてますよね」
カエデの発した言葉に僕も頷く。
「本当に犬みたいだ。……見た目は凄く気持ち悪いけど」
『こ〜ら! 待て! おすわり!』
『ワフッ!』
にしても懐きすぎではないか?
疑問に思った僕はとある事を試してみることにした。
――――――――
『リンカ、1度部屋から出てくれ。別の人間にどのような態度を取るのか実験する』
「ああ、分かった。ポチ! 大人しく待ってるんだぞ!」
「ワンッ!」
大人しく言う事を聞く小型モンスターに名前まで付けた私――氷坂凛華は、ポチをお座りさせて1度実験室から出て隣の観察室へ入る。
「お疲れリンカ。はい、タオル」
「ああ、ありがとう。何か分かったか?」
カケルから受け取ったタオルでポチの唾液を拭き取る。
「うん。今のところモンスターは顔として振る舞っている部分によって、よりそれらしい態度を取る。感情があるとはまだ断言出来ないかな」
「そうか」
ガラス越しにポチを観察すると、大人しくお座りをしている。このガラスはマジックミラーになっており向こう側からこちらは見えない。
つまり周りに人がいなくても振る舞いは変えていない。いや、意外と知能が高くてこちらに気付き本性を隠している可能性もあるのか。
「っと、入ってきた。みんなしっかり観察するんだ」
部屋に研究員の男が入った。念の為その研究員には防具服を着てもらっている。
『よ、よ〜しよし。おいで〜』
『…………』
男が膝をついて呼び掛けるが、完全に無視されている。
「相手によって態度を変える……その条件はなんだ?」
研究者モードのカケルとその他研究員達が色々と仮説を立て合っている中、カエデが何かを思い付いたのか手を挙げた。
「あの、試したい事があって……私が行ってもいいですか?」
少し相談して女の子1人なら危険だからと、今部屋にいる男となら行ってもいいと言われたカエデは気合を入れて向かっていった。
ポチのいる部屋に入ったカエデ。早速、何度か呼び掛けているが変わらず無視されている。
『では……何かあったらリンカ先輩お願いします』
そういうとカエデは少し深呼吸をして手に力を込める。
何をしているのか気になり注意深く見ていると、ポチがピクリと何かに反応した。
私はすぐ助けに駆け付けれるように準備をする。
それからしばらく見ていると、カエデの手の平から小さな花がぴょこんと現れた。
するとポチはトコトコとカエデに歩み寄り、その手の平と花をペロペロと舐め始める。
「なるほど……!」
「……?」
研究員達は何やら驚いている様子だが、私はさっぱり分からなくて困惑する。
すると他の研究員が何やら眼鏡のような物を持ってきた。そしてそれを渡されたカケルが眼鏡をかけてカエデとポチを見る。
「……そういう事か。リンカにやけに懐いていた理由が分かったよ」
「どういうことなんだ?」
「まあ待って。……二人とも帰ってきていいよ」
ポチの部屋にいる2人を呼び戻すと、何か分かった様子のカケルが説明を始めた。
曰く、ポチは異能の力やその源である魔素に反応している。という事。
カケルが使った眼鏡は魔素を視認する事が出来るらしく、どうやらカエデが異能を使い手の平に花を咲かせた。そこにある魔素をポチは舐めていたらしい。
私に異様に懐いていたのは、私には身体に纏っている魔素の量が多いらしく異能の力も強いことから身体中の魔素を舐められていたんだとか。
私のように魔素を多く纏っている人間。つまり異能の力が強い人間程ポチに懐かれる。
「モンスターの食糧事情は分からないが、濃厚な魔素を好んで寄ってくるというのは何か新しい発見に繋がるかもしれない」
それからは研究員達はそれぞれ解散し、カケルは今回分かった事を資料にまとめて次の実験内容を考える為に忙しくなるらしい。
そこで、しばらくポチを連れて過ごしてくれないかとお願いされた。何かあればすぐに殺していいから次の実験が始まるまでポチを近くで観察し気付いた事でもなんでもいいから報告してほしい。とのこと。
「分かった。任せてくれ」
「リンカ先輩! リード作ったので使ってください!」
そういってカエデが植物で作ったリードを手渡してきた。それもかなり丈夫そうな物を。
早速ポチの首?にあたる部分に装着すると、ポチは嬉しそうに私に飛び付いてきた。
「私、植物系の異能が使えるんです。といっても戦いには向いてなくてD4ランクなんですけどね」
「ありがとう。だが噛み千切って逃げられたら困るから念の為抱えて行く」
「そうですか。ふんっ……」
あら、またカエデちゃんを不機嫌にさせてしまったみたいだ。
「これやるから今度カケルを誘いな」
「っ! 仕方ないですね……」
こっそりと遊園地のチケット2人分をカエデに渡すと、すぐに受け取り満更でもないように呆れた顔をする。だが喜びを隠しきれていない口元を見てやっぱりチョロいな〜と思う私であった。
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