第10話 未知

 満点の青空、温かな日の光! しかし、今日は久しぶりに亀裂が発生し私――氷坂凛華はモンスター駆除に駆り出されていた。


 「はぁ~……結局こいつらは何の為に生まれて何をしにきてるんだ?」


 小型モンスターを前に大きくため息を吐いて手の平から氷槍を出現させる。


 「ワン!」

 「っ! 犬!? どこだ!」


 近くから犬の鳴き声が聞こえて辺りを見渡す。私の異能が犬を凍らせてしまうと飼い主が悲しむ。生徒会長としてそんな事態を避けなくては……。

 しかしいくら周りを見渡しても犬の姿は見当たらない。


 「ワンワンッ!」

 「ん……?」


 鳴き声のする方をちゃんと確認するがそこには小型モンスターしかいない。左右非対称で黒い異形のよくみるモンスター。まさかこのモンスターが鳴くはずないよなと思いつつモンスターを見つめる。


 「ワンッ!」


 眼の前の異形がぴょんと跳ねて鳴き声を挙げた。


 「え…………」

 「居たぞ! 既に交戦中だ!」

 「ま、待って!!」


 遅れてやってきた異能力者グループ4名を咄嗟に引き止める。


 「君はA5エーファイブの……何があった?」


 私の顔を見て格上と気付いた体育会系リーダーのような男が、後ろで警戒するメンバーを止めて冷静に状況を把握する。


 「モンスターが鳴き声を挙げた。犬の鳴き声だ」

 「なにっ? そんな事あるわけが……」


 そう。モンスターが鳴き声を挙げるなどありえない。これまでに出会ってきたモンスターも鳴き声なんて発さなかった。世界的に見ても全く前例のない信じられない状況なのだ。


 「ワオン!」

 「危ないっ!!」

 「っ!?」


 初めての事例に混乱していた私は虚を突かれ、突如飛び掛かってきたモンスターにのしかかられる。


 「今助けるっ!」

 「ま、待て! あはっ、あははは! くすぐったい! やめっ」


 しかし私は攻撃を受けるでもなく、犬の顔の形をしたパーツに顔をベロベロと舐められる。そのくすぐったさに反撃を忘れ、それを見た異能力者グループも唖然とした様子で眺めていた。



 ――――――――



 「という訳なんだ」

 「だからってモンスターを連れてきたのか!!?」


 その小型モンスターを抱きかかえ事情を説明した私に当然の如く研究所にいる者達は大きく混乱する。

 それもそのはず。研究所は低ランクの異能力者や、戦闘経験のない研究員ばかり。ましてや大事な資料や設備が整っている場所にモンスターを連れてくるなど異例中の異例である。


 「すまない、だが今の所こいつは敵意が感じられない。それに何かあれば私が即座に処分する。だからしばらくこいつを調べてくれないか?」

 「ワンッ!」


 そう私がお願いするも研究員達は渋い顔をして互いを目を合わせる。

 中にはモンスターを初めて生で見る者もいるから警戒されても仕方ない。だがやはりこいつは他のモンスターとは何か違う気がするのだ。


 「リンカッ! そ、それが例のモンスターか」

 「ワフッ」


 話を聞きつけたカケルが急いでやってきて、心配そうな顔をしつつも私が抱きかかえて鳴き声をあげたモンスターを見て目を丸くする。


 「心配かけてすまないなカケル。何か起きれば私が責任を取る」

 「う~ん……」


 これまで世界でモンスターを直接調べた研究機関は1つとして存在しない。何度かモンスターを捕獲し調べようとした所もあったようだが、それらは尽く暴れるモンスターを制御出来ずに中止された。


 だが今回の件は他とは何かが違う。敵意の感じないモンスターが鳴き声を発するという前代未聞の状況。私の勘ではあるが危険はないと思っている。


 「厳しいだろうか……?」

 「うっ……」


 訴えかける瞳に押し負けたのか。少し悩んでカケルが口を開く。


 「分かった。僕としてもモンスターを直接調べる事が出来るのは貴重な機会だ。それにA5のリンカが側にいるなら学園で最も安全な場所だと保証出来る」

 「よかった……ありがとうカケル」

 「うん。僕は参加するが他の皆には強制しない。向こうの異能力実験室なら何か起きても外部に被害は出ないだろう」


 初めて研究者モードのカケルを見るが普段と違い凄く真面目に指揮を取っている。


 前例のない鳴き声をあげるモンスターに前例のない実験。これが上手く進めばモンスターの感情や目的が分かるかもしれない。そんな予感を感じたのか、幾人かの研究者は未知の探求に胸を弾ませ私達についてきた。カケルも同じく、どこかワクワクした様子だ。


 「あれ、君もついてくるのか」


 バレないようについてこようとしてたカエデを見つけて声をかける。


 「悪いですか!? 私も研究員なんですけど!?」


 その可愛らしい反応に相変わらず加虐心が刺激される。

 私からすると可愛い娘のように感じるカエデをからかいながら、今新たな未知が解明される事への期待に胸を膨らませる。



 ――――――――



 「ここが稲生学園……楽しみですね」


 稲生学園校門前。稲生学園の黒い制服ではなく白い制服を着た白髪の人物は微笑みを浮かべ、優雅に歩を進める。


 「おいあれ、どこかのお嬢様校の子か?」

 「可愛い……あ、目が合った。今の時期なら転入生かな」


 ひそひそと話しをする生徒にも気にせず笑顔を振りまくその姿に、近くにいた男子生徒は一瞬で心を奪われた。

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