第9話 恋情

 私は神楽カグラカエデ。稲生学園の2年生で研究員としても頑張っている。


 九州の田舎の方に住んでいた私は、もっと色んな事を知りたいというただの探究心で都会の稲生学園に入学。都会を楽しみつつ研究員として異能について調べている。


 来たばかりの頃は都会に上手く馴染めず、友達も少なかった私。

 それでもなんだかんだ楽しい学園生活を過ごせていたのは、カケル先輩のお陰だった。


 先輩はいつも熱心に考え事をしていて、最初は怖いな~と思って近寄りすらしなかった。


 でもある日の事、亀裂によって現れたモンスターの記録書類を誤ってシュレッダーにかけてしまった事があった。

 その書類の持ち主だったカケル先輩に謝りに行くと、酷く怒られると思っていた私を笑顔でヘラヘラと許してくれた。


 でもそんな先輩が酷く疲れている顔をしているのに私は気付いた。

 

 研究熱心でいつも頑張っている先輩の姿を見ていた私は、そんな先輩の表情を見て心が痛くなる。

 それからは毎日のように先輩が辛そうにしてるとコーヒーを買ってあげたり、何かと世話を焼くようになり。気付けばそんな先輩に恋心を抱いてしまっていた。


 ……そして私の初恋でもあった。


 カケル先輩は、ここ稲生学園の生徒会長である氷坂凛華先輩の為にずっと頑張っているらしい事を他の先輩から聞いた。


 リンカ先輩の過去。そしてカケル先輩の想い。


 だから私は、カケル先輩にそんなに想ってもらっているのにいつも冷たい態度を取るリンカ先輩が憎かった。

 それでも、カケル先輩がリンカ先輩について相談してきた時、カケル先輩の事を好きだった私は真面目にアドバイスをしてあげた。いくらリンカ先輩が憎くても、カケル先輩の事を応援してるから。


 そうして最近、ついにリンカ先輩の心の氷が溶けた。カケル先輩に私のアドバイスのおかげだよとお礼を言われた時は複雑な気持ちだったけど、喜んでいるカケル先輩を見て私も嬉しくなった。


 でも……今更カケル先輩とリンカ先輩が楽しそうにしているのを見て胸が苦しくなった。

 

 今までカケル先輩に寄り添って助けてたのは私なのに。

 ずっと前からカケル先輩が好きだったのに。

 なんでリンカ先輩には私に見せたこともない笑顔を見せるの?

 なんで……?


 気付けば私の中でリンカ先輩は敵になっていた。


 そうしてある日、無理矢理二人の間に割り込んでリンカ先輩にカケル先輩の事をどう思っているのか聞いた。


 「……なるほどね。君はカケルの事が好きなのか」


 不意をつかれた。カケル先輩にはまだ私の恋心を伝えていない。だって伝えてしまったら先輩を困らせてしまうと分かってるから。

 でもリンカ先輩はまるで心の中を見透かしているかのように言い当てた。


 本人のいる前で私の恋心を見抜かれ、恥ずかしさで私は逃げるしかなかった。


「っ〜〜〜! それでもっ! 諦めちゃいかんカエデ! 頑張るばい!!」


 自分に言い聞かせる。

 だってまだカケル先輩とリンカ先輩が付き合っている訳じゃない。私にもチャンスはある!

 いいや、もし付き合ってたとしてもいつかカケル先輩が振り向く女になる!!


 田舎娘のしぶとさば舐めちゃいかん!!


 ……カエデは案外タフだった。



 ――――――――



 休日になり私――氷坂凛華は今、1人でショッピングモールにやってきていた。


 ロールプレイを辞めると誓ったあの日から、少しずつ色んな事に興味を広げている私が今興味を持っているのは――ファッションだ。


 今までは特に気にもしてこなかった私服だが、折角私はスタイルも良い美少女なんだ。オシャレに気を使わなければいくら元が良くても損である。

 様々なファッション雑誌を読み漁り、入念に勉強してきた今の私ならばきっとスーパーモデルのようになれるだろう!


 〜数分後〜


「こちらの服なんかもお似合いですよ〜! お姉さんは見たところブルベなのでこういった色の服が――――――――」

「?????????????」


 〜更に数分後〜


「それと今のトレンドがこちらの色になんですけど――――」

「ほお?」

 

 〜更に更に数分後〜


「わぁ〜スタイル良いですねぇ〜! それじゃあまずバストから測りますね〜!」

「は、はいぃ……」


 〜更に更に更に数分後〜


「こんな下着もいかがでしょうか〜!」

「ひえっ……!」


 〜更に更に更に更に数分後〜


「沢山のお買い上げありがとうございました〜! またのご来店をお待ちしております〜!」

「…………」



 なんか凄いのいっぱい買わされちゃった……。


 店員さんもやけに盛り上がってまるで着せ替え人形のように色んな服をオススメされ、気付けば財布はすっからかんになっていた。

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