第16話 消息不明
◯失踪した訳でも無く連絡のつかない女優
公園で麻薬の受け渡しシーンの撮影時、僕が、カメラのセッティングをしていると先輩が、郁子さんと話しているのが聞こえてきた。
「何処から来ているの? 」と先輩が、聞いた。
「M木市から…… 」と郁子さんが、小さな声で答えた。
「えーっ! 」と先輩は、驚いていた。
僕は、M木市って何処なのか知らなかった。
ただ、そのとき、郁子さんは、M木市という所から来ているんだ、と思っただけだった。
(おまえ、彼女が何処から来ているのかも知らないで出演してもらっていたのか? えーと、今、グーグルマップで見るとK戸市の山側だぞ。ずいぶん遠くから来てくれていたんだな)
僕は、M木市のことより、郁子さんに聞いてみたいことがあった。
それは、撮影中には、聞くことが出来ずにいたことだった。
「なぜ、郁子さんは、僕の映画に出演してくれたんですか? 」
「僕と、この映画を、郁子さんはどう思っていますか? 」
僕の前から、いなくなってしまった郁子さんに、もはや聞くことは出来ない。
(きっと、郁子さんは、おまえが友子さんに女優をお願いしたときから、一生懸命だけど、背伸びしているおまえを友子さんと見ていた筈。そして、郁子さんは、そんな、おまえを後輩のように思って、この映画製作に協力してくれていたんだと思う)
(俺は、ネットの電話番号情報により、郁子さんの家の電話番号を調べてみたが、すでに転出していて、連絡不可能であることもわかった。俺も、彼女のことを何も知らずにいた。今は、もう無いが、おまえの実家も田舎で店を営んでいた。店の電話という物が、おまえにも良くわかると思う)
(終活により、廃棄される荷物の中の一つだった映画『ほほえみ』の上映フィルムから蘇った記憶、もう俺が忘れてしまっていたおまえ…… そして、今)
(あれから47年が経った)
(おまえは、関東在住。関西のみんなとは、離れたままだ)
(跨線橋は無くなり、電車は地下を走っている)
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映画を完成させる! と、決意させてくれたK星女子大学演劇研究会の万里さん。
ナミ役に郁子さんを紹介してくれたM川女子大学映画研究会部長の友子さん。
ナミを演じてくれたM川女子大学落語研究会部長の郁子さん。
郁子さんの友達のM川女子大学演劇研究会の智恵子さん。
O阪電通大学映画研究会の仲間や先輩。
多くの人の協力により完成できた映画だったと言える。
今、映画『ほほえみ』のストーリーは、娘たちには、今一つの評価だが、唯一嬉しかったのは、
孫 「じいじぃ。僕は、このシーン好きだよ」と言ってくれたこと。
ナミがケンを、ハサミで刺すラストシーンは観せてないが、
跨線橋でのケンとナミのシーンを、高評価してくれた。
世代を飛び越えて映画『ほほえみ』を、上映できた。
俺にとって、きみの作った映画は、俺の一生の宝物になった。
そして、今も映写機には、フィルムが掛けられたままになっている。
エンドレスフィルムが。
きみの作った映画 ~映写機にはエンドレスのフィルムが今も~ がんぶり @ganburi
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