第14話 上方古典落語

◯M川女子大学語研究会主催の寄席

 師走、M川女子大学落語研究会の寄席がN宮市勤労会館で行われるということで、M川女子大学映画研究会部長の友子さんから連絡があった。

僕は、いつかの演劇公演でLナホールへ行ったときに使ったH神電車に乗った。


入口でもらったプログラムには、M川女子大学上方古典落語研究会部長である郁子さんのあいさつ文が冒頭にあった。

落語研究会顧問のM川女子大学教授より前に、彼女のあいさつ文が印刷されていた。

僕は、その時にはじめて、正式には、上方古典落語研究会であることを知った。


 (俺は、そのときに会場でもらったプログラム、仕舞い込んでいた、そのプログラムを探し出した。

俺は今になって、

~どんな木や花もあるという植木屋で、客が花に名前を聞くと、花が名前を答える。

だが、ある花だけは答えず、それはクチナシ(口無し)だったという落語『くちなし』~

という古典落語を知った。

あのとき、彼女に落語のことを聞いたり、おまえに、もっと、彼女と落語について会話して欲しかった)


郁子さんのあいさつの一部には、「この鼻であなたを魅了します」と書いてあった。

彼女の愛嬌のある顔立ちは、まさしく、その可愛い鼻にあった。

僕は、なるほど彼女らしい自己紹介だなと、思った。

でも、M川女子大学上方古典落語研究会の部長としての自信が文面に現れていた。


舞台中央の高座で快活に落語を演じる着物姿の彼女は、映画『ほほえみ』撮影の時とは、全くの別人だった。


僕は、堂々と演じる彼女に、それこそ、魅了されてしまった。

僕は、に魅了されてしまった。

彼女の可愛らしい声で落語を演じると、いたずらっぽい感じで惹きつけられる。

彼女の科白の言い回しや演技が上手だったのが、良くわかった。

そして、会場の観客から、盛んに笑いを取っている彼女だった。

落語を演じる力は、素人とは思えない、どこかの噺家のお弟子さんのようだった。

そんな彼女が別世界の人のように見えた。

彼女が遠くに見えた。

そして、撮影時の彼女のあらゆる表情が、僕の頭の中で走馬灯のように、ゆっくりと巡った。

今まで、近くにいた人が、遠いところに行ってしまったような、

また、これが、彼女の本来の姿だったような、

僕は、彼女への尊敬と強烈な寂しさを感じた。


それ以降、僕は、彼女に会うことは無かった。


(また、おまえは、勝手に人を好きになっていたんだ。しかし、恋とは違う感情だったんだ)

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