第13話 大上映会
◯N之島中央公会堂の上映会
うちの大学と付き合いのある、映画上映フィルムの貸出会社が、骨を折ってくれて由緒あるN之島中央公会堂で映画『ほほえみ』の上映が出来るように取り計らってくれた。
もちろん、一般公開で無料上映だけど、ポスターを作ったり、雑誌にも上映のご案内を載せて頂いた。
いくら学生が作った映画でも楽曲著作権とか、いろいろな問題をクリアしてくれていたことを、僕は、感謝する事もなく平然としていた。
ただ、僕は、映画を完成させた、その、成し遂げ感と、燃え尽き感でいっぱいだった。
(おまえは、人への感謝というものが足りなかった)
宣伝の効果は絶大で、黄昏時のN之島の上映会場は、観客で満たされた。
こんなにりっぱな晴れ舞台なのに……
郁子さんは、どういう訳か来てくれなかった。
僕は、彼女に直接連絡をとることが出来ないから仕方ないと思った。
撮影時は、あんなに頻繁に会うことが出来たのに、撮影が終わって、次回撮影シーンを彼女に告げることが無くなった今、彼女は、僕のところへは来ない。
彼女への誠意としては、映画出演に関する以外のことは、要求しないこと。
生真面目にも程があると、人からは言われそうだけど、撮影が終わってからの僕の心は、だんだんに変わって来ていた。
彼女が、都合悪くて来ることが出来ないのか、映画を観たくないのか、僕は、考えあぐねるだけだった。
(女優さんの中には、自分の出演した映画は、完成しても観ないという主義の人もいるが、郁子さんは、何かの都合があったのだろう)
しかし、M川女子大学の映画研究会部長の友子さんは、大勢の部員達を引き連れて来てくれた。
友子さんが言うには、
映画『ほほえみ』の楽曲である『涙のトッカータ』が聞こえて来ると、
郁子さんは、「これこれっ、この曲! 」と言って、嬉しそうにしていたとのことだった。
それを聞いて、僕は、嬉しかったけど、嬉しかった以上に、凄く寂しかった。
この寂しさは、いったい?
(映画の完成したとき、出演してくれた郁子さんに正式なお礼を、おまえは、一言も言ってはいなかったんだ)
郁子さんは、M川女子大学の映画研究会部長の友子さんに、お願いして紹介してもらった女優さん、あくまでも、自主制作映画の女優さんとして接することが友子さんへの誠意であると僕は考えていた。
(友子さんへの映画完成の正式な報告も、おまえは、一言も言っていなかった)
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