第10話 ラストシーン

 いよいよ、映画『ほほえみ』のクライマックスというか、山場を迎える!

僕としては、愛するが故に、どうにもならなくなった究極の精神状態で、死を選ぶみたいなイメージがあった。

そして、ナミだけの死では無くて、ケンをも刺殺してしまう。

刃物は、包丁では無く、殺せるはずもないハサミで刺す。


 (おまえは、映画館で観たATGアート・シアター・ギルドの映画の影響を受けていた。そして、ATGのような作品を頭に描いて撮影していた。きっと、今の時代におまえがいたら、こんな過激なシーンは作らなかったと思う。それだけ、おまえの時代は平和だったのかも知れない)


ケン役には、赤い血を付けてもいいようなシャツを用意してもらった。

さらに、ナミ役の手は、トマト・ケチャップまみれにしてもらった。


僕は、楽曲に合わせた尺のカットで撮影することに全力を注いだ。


◯シーン14・カット7

   ナミは、両手でハサミを持ちかがんでいる、死を意味する目で身構えている。

 ナミ 「オ・シ・マ・イ・ヨ」


◯シーン14・カット8

   ナミは、ケンの胸めがけてハサミで刺す。

   ケンは、ナミを受け止めて抱く。

   ナミがハサミを抜くとケンは壁に寄りかかったまま崩れる。

 ケン 「おしまい」

   ケンは、ほほえみ、涙をためている。


◯シーン14・カット9

   ナミは、ケンの血のついたハサミを床に落とす、悲しいほほえみ。


◯シーン14・カット10

 ナミ 「死ぬの…… こうなるよりほか、しかたなかったの…… 」


◯シーン14・カット11

   ナミは、ケンの足元にひざまずき、手はケンの肩に。


◯シーン14・カット12

   ケンは、白い粉の入った小さなビニル袋を手前に差し出し、袋を傾けると白い粉は溢れ出す。

   ケンは、寂しくほほえみ、そして、力尽き腕を落とす。


◯シーン14・カット13

 楽しかった二人の思い出カット。


◯シーン14・カット14

   ナミは、涙をためている、しだいに目がとろんとしてくる。そして、目をつむり床に崩れるように倒れる。


◯シーン14・カット15

   カメラは、床に倒れているケンとナミの二人から、奥の部屋に置かれているコップと、ナミが飲んだ大量の睡眠薬をとらえる。


◯シーン14・カット16

   ケンと、ケンに寄り添うナミの二人の画面は、真っ白になっていく。


   終。


ラストシーンは、監督、助監督、カメラ、照明、みんな真剣そのものだった。

ケン役もナミ役も涙をためての演技だった、目薬も使わずに真剣に演技してくれた。


僕は、監督としても感無量だった。


 (自殺、心中などは、美しいことでは無い。今は、こういう事件が発生すると、必ず、自殺予防相談窓口が紹介される)

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