第9話 悪い奴らに乱暴されるナミ

   ナミは、ケンに会いたくて、ケンの部屋を訪れると、ケンは留守だった。

   そこへ運悪く、麻薬の運び屋のバイト仲間達がやって来るシーン。


 男A 「どーれ、ケンはいるかな」


 男C 「ケンの奴、こんな所で一人暮らししているから、俺達との仲間意識なくすんや」


   ナミは、ドア越しに、バイト仲間達と遭遇してしまう。


 ナミ 「あっ、それじゃ、あなた達が麻薬の運び屋の…… 」


   ナミは、思わず言ってしまい、口を手で押さえる。


   すると、特に、タチの悪そうな男Bが言う。   


 男B 「まずいぜ、この女、秘密知ってるぞ」


 男A 「さて、今日は俺達が可愛がってやるぜ」


 ただ、このシーンで、僕が、男Bに無理に関東のイントネーションを強要したため、険悪な雰囲気になり、撮影が中断してしまった。

この関西の地で映画を作ることになった僕は、関西弁の科白がシナリオに書けなかった。

「しんどぉー 」とか「ほんまにぃ? 」とかは、言えるようになっていたが、関西のイントネーションは、難しくて真似できなかった。

 (なぜ、関東弁に拘った? 協力して出演してくれている仲間は、全員、関西の人なのに、おまえが関東人だからと言って、なぜ拘った? )


 (でも、映画『ほほえみ』を、フィルムからDVDに変換して、何度も見ると、みんなの表情といい、科白といい、すごく良い。俺は、今になってわかったよ)


 そして、僕は、悪い奴らに乱暴されるナミを、カメラのファインダー越しでも見たくなかったし、悪い奴らがナミを強く乱暴する演出は、しなかった。

だから、画そのものも、迫力に欠ける中途半端なものになってしまった。

ナミを、ストーリーの中の人物として客観視できなくなってきていた。

ナミ、イコール、郁子さんとでも言うのだろうか……


   ケンの住んでいるアパートの屋上でのナミの人間不信モノローグ。


 ナミ 「人間って、いったいなに? 私にはもう、わからない、いったいなにを考えているの? 」


 ナミ 「ふだんは、自分をかくして何くわぬ顔で生活し、ある時、その頭角をさらけ出す、この世の中は、そんな汚らしい人間の集まりなの? 」


夕方の撮影で、郁子さんに、アイランプの照明を当てたり、扇風機の風量を”強”にして髪を乱したり、映像表現に工夫を凝らしての撮影だったが、郁子さんは、ガチャガチャとした照明や扇風機に文句も言わず、カメラの前で演じてくれていた。


人間不信になってしまったナミに、追い打ちをかけるような、ナミの友達のシーン。


 (郁子さんの友達のM川女子大学演劇研究会の智恵子さん登場だ)


郁子さんの実際の友達、智恵子さんは、だいぶ大人っぽい女性だった。

しかも、科白の感情の入れ方が上手で、流石、演劇研究会だと思った。

吸えない煙草で演技してもらうのが、たいへんな事なのに、僕は、自分が煙草を吸うので、全然、気にもしなかった。

 (おまえ、まだ未成年だろ)


 友達 「ナミィ、あなた頭が固いわね、もっと楽しく生きなさいよ」


 友達 「みんな陰では、案外楽しんでいるものなのよ…… 一生一度の青春でしょ? 若いうちね、老いたら終わり」


 (純粋なナミが友達からも裏切られるという表現が出来たな。智恵子さんのおかげだ)

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