第6話 奇跡の女優

◯H神電車U田駅長室前

 M川女子大学映画研究会部長の友子さんから連絡があり、女優が見つかったとのこと!

なんて僕は、幸運な人間なのだろう。

もう感謝しか無い。

友子さんの友達が出演してくれることになったとのこと。

その人は、M川女子大学の落研おちけんの部長。

映画研究会の中では、出演してくれる人がいなかったのだろうか?


落語研究会……


どうもナミのイメージから離れるような。

 (おまえ、贅沢言うなよ。ノーギャラで出演してくれる女優なんていないぞ)


とにかく、H神電車U田駅長室前、午後1時30分待ち合わせで、出演してくれる女優と、ご対面ということになった。

I丹の人との待ち合わせは、H急電車U田駅のK伊國屋書店前だったので、すぐに頭に浮かんだけど、H神電車U田駅の駅長室前は、見当もつかなかった。

H神電車を利用するM川女子大生のU田駅待ち合わせ場所の定番は、駅長室前なんだと、僕は思った。


女優の名前は、郁子(いくこ)さん。

一応、彼女の連絡先電話番号も教えてもらった。

ただし、彼女の家は、お店しているので、電話を受けることが出来ないとのことだった。

彼女は、薬学科と聞いていたので、家は薬局やっているんだ、きっと、そうだ。

店の電話だから家族が勝手に使えないんだ。

僕は、彼女と直接連絡をとることは出来ないと思った。

彼女との連絡方法は、僕が、M川女子大学映画研究会部長の友子さんの自宅に電話して、翌日に学校で友子さんから彼女に口頭で伝えてもらうものと思い込んだ。

したがって、学校が夏休みに入ると連絡がとれなくなると思い、夏休み前に撮影を終わらせるつもりでいた。


◯ナミ、現る

 初対面の女性と待ち合わせに僕の心臓は、もう高鳴るばかりだ。

僕は、30分前の午後1時から待っていた。

駅長室前で突っ立っている僕は、緊張し、行き交う女性をじろじろと目で追っていたと思う。

要するに、危ない人の様だったかもしれない。


しばらくして、セミロングの白いスカートの女性が、にこにこしながら僕に近づいてきた。

ノースリーブに健康的な二の腕をしている。


 「ストッキングが伝線しちゃったから、買ってくるから、ここで待ってて」と彼女。


彼女は、踵を返し、駅の売店の方へ行ってしまった。

僕は、「はじめまして」とか挨拶を考えていたのに、最初の言葉が「ストッキング」かぁ。


可愛らしい声と愛嬌のある顔立ちの女性だ。

以前、何処かで見たことあるような。

そして、ずっと前から知り合いだったみたいな。

人見知りな僕としては、安心した。

だから、かしこまった挨拶や、自己紹介など完全に頭の中から消えてしまった。

しかし、僕より一つ歳上だから、失礼のないように接するんだ、と心に決めた。


 (今思うと、俺も郁子さんには、感謝しかないよ。出演引き受けてくれたのは、奇跡だと…… )

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