第26話 反乱の後処理

 反乱の後片付けをすることになった。


 まずは負傷者の治療。重傷者から順にサフランの回復魔法で治してもらう。


 1000人近い奴隷対200人ほどの看守と騎士との戦い。

 これほど大きな戦いだったというのに、なんと奇跡的に味方陣営から戦死者が出ることはなかった。


 やはり奴隷たちに”攻撃・守備力強化”だけでなく、”硬性付与”もかけて体の強度を上げておいて正解だった。


 ”攻撃・守備力強化”は敵の闘気である程度中和されてしまうと人狩りとの初戦で知っていたので、さらに”硬性付与”で守備面に保険をかけておいたのだ。


 それでも訓練された騎士が相手とあって怪我人はかなり出たらしいが、全てサフランが治癒してしまったらしい。サフランはこの短時間で回復魔法をかけすぎて、歴戦の僧侶並みの回復速度になっていると誰かが言っていた。


 戦いが過熱した後半でも、即死でなければかなりの重傷でも一命を取り留めるところまで治癒できてしまったらしい。大手柄である。


 もちろん錬成魔法で負傷者を守って避難させたナッカや、最も危険な隊長騎士を一人で相手取ったリーメルも大手柄だった。


 もちろん俺に従って剣を取ってくれた、全ての奴隷たちの手柄でもある。本当にみんなよくやってくれたなと思った。

 


 皆が負傷者の世話をしている間、俺は生け捕りにされて運ばれてきた所長と話をする。


 人狩りが俺にやられた時点で逃げ出す敵がいてもおかしくはなかったと思うが、所長がそれを許さず最後まで徹底抗戦し、その結果全滅という最悪な形になってしまったようだ。


 おかげで逃げた敵兵が一人もいないため援軍を呼ばれる心配がなく、まだここから俺たちが逃げるまでに余裕があるそうだ。


 所長は自分がこの度の反乱の大戦犯であると泣きわめいていた。自分が責任者である施設で反乱を起こして、そこで王子が命を落としてしまった。ゆえに国に帰っても処刑されるだけだから、いっそここで殺してくれと懇願された。


 殺さず逃がして俺たちの事を報告されても厄介なので、所長のその願いを聞き届けることにした。所長に家族を殺された元奴隷なんかがその役割を買って出た。どんなことをするのかは聞かないでおこう。


 奴隷たちに連れ去られる直前に所長はこう言い残していった。


 「国を敵に回すなんてどうかしている。お前らはこれから一生国に追われ続けるんだ。この愚か者が」


 奴隷たちはこれに対して「救世主様になんて口を!」と大変激怒していたので、所長がどんな目に合ったかは想像に難くないな。


 しかし俺はこれがただの負け惜しみとも思えなかった。

 やはり反乱の首謀者ってことで俺は命を狙われるのだろうか。


 敵は一人も逃がさなかったのでそこから報告されることはないだろうが、解放した千人ものの奴隷からはいずれ俺の情報が漏れるだろう。


 今の俺に勝てる存在がこの国にそう何人もいるとは思えないが、国に追われるというのは中々大変そうだ。どうしたものか。


 とりあえずこれからは偽名でも名乗るかな。名前から俺が特定されても厄介だ。

 

 救世主、付与術師、古谷柔理、フルヤジュウリ…


 うーん、なんかいい響きの名前はないかな。


 「国を敵に回す愚か者ねぇ。愚者… フールでいいか」


 古谷ともかかってるし、これからはフールと名乗ることにしよう。サフラン達にも後で言っておかないとな。


 所長の処遇は他の人に任せて、次は敵の死体の処理だ。これはナッカに手伝ってもらって二人でやることにした。


 「やっぱ埋めるのは可哀そうだよな」


 「人狩りはともかく、この騎士たちは仕事で戦っただけだから。後で遺体は家族に帰してあげた方がいいわよね。ついでに看守のも」


 ということで俺の”形状付与”とナッカの錬成魔法を使って地面から土の棺桶を作り、そこに彼らの遺体を入れておくことにした。大人数で大変なので、棺桶に入れる作業は全て”方向付与”で済ませる。罰当たりかもしれないが許してほしい。


 「氷魔法なんかが使えたら冷やして腐敗を防ぐこともできたんだけど」


 「氷ねえ… そういえば看守たちは夜中に管理棟でキンキンに冷えたお酒とか飲んでたわよ」


 「冷えたお酒を?こんなとこで?」


 ファンタジー世界なのに冷蔵庫があるとでもいうのだろうか。


 「あ、信じてないわね。嘘じゃないから、一緒に管理棟に見に行きましょ」


 ナッカに言われるがままに管理棟についていく。

 管理棟は石作りの建物なのだが、中は以外にも涼しかった。部屋の隅を見てみると四角く加工された鉱石がいくつも設置されており、そこから冷気が出ているようだ。


 そういえば車輪労働で地下から回収した魔素は街灯や冷房に使われると説明を受けた記憶がある。おそらくこれがその冷房の魔道具なのだろう。


 冷房があるなら、冷蔵庫があってもおかしくはないな。


 「てかナッカは毎晩こんな涼しいとこで寝てたの?俺たちは寝苦しい屋外の檻の中だったのに」


 「なによ、錬成魔法が警戒されてたんだから仕方ないでしょ。そういえば看守が地下から食べ物を持ってくるの何回か見たことあるわね」


 「じゃあ地下を探すか」


 ナッカが管理棟暮らしだったことがここに来て活きたな。


 敵の残党がいないか警戒しながら地下へ降りていく。ビンゴだ。

 地下は明かりも冷房もガンガンに効いていて、丸々冷蔵庫のような空間だった。


 「こっちの方に氷があるわよ」


 「お、これで遺体を冷やしてあげることができるな…  って、あれは」


 本来の目的である氷の次に目に入ったのは、部屋の奥に積まれる食料の山だった。ナッカもその宝の山に気づいたようだ。


 「に、肉とか魚まで保存されてる…」


 「や、野菜スープ以外の食べ物…」


 俺たちはゆっくりと顔を見合わせると二人一緒に一目散に地上に戻り、皆に反乱成功の祝宴を開く提案した。


 1週間ぶりのちゃんとした食事にありつける!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る