第25話 勝ち取った勝利
よし、人狩りにはなんなく勝つことができたな。次は他の戦場の援護に向かわなければならない。
特にリーメル。彼女の相手は王子の護衛の隊長騎士らしいので、心配で仕方ない。
俺は周囲の奴隷たちを強化し直しながら、戦場を見渡して遠くにリーメルを見つける。
彼女は二刀の剣舞で騎士団長相手に渡り合っていた。王子の護衛隊長というくらいだから人狩りグルフに匹敵する強さはありそうなもんだが、ほぼ互角にやり合っている。
いや、リーメルの方がやや押し気味か。まだ余裕がありそうなので救援に向かわずに、俺は周囲の奴隷への付与を優先する。
「こ、この!小娘風情が!あまり調子に乗るなよ!」
隊長は剣を振るうがリーメルは紙一重のところで避けるか、剣で受け流すかして凌ぐ。そしてその隙を狙って少しずつ敵にダメージを入れているようだ。
いや強すぎでは。
俺の付与のおかげってよりもリーメル自身の闘気が凄まじい感じだ。死の淵から舞い戻ったことで得た闘気は通常の闘気とは質が違うのだろうか。
だがいくら闘気が強いからといって、女の子が騎士相手に勝てるものだろうか。戦闘の技術が伴わなければ勝負にならないと思うのだが。
というか相手の隊長が本調子ではなさそうな感じだな。なんか足元がおぼつかないというか、ベタベタと動きにくそうにしているというか。
あれは”粘着性付与”か?あんな遠くの地面までやった覚えはないが。まさかリーメルが使ってる…?
「そんなバカな…!この俺がっ!」
そのまま俺の助けが必要になることはなく、リーメルは一人で難なく隊長の首を落としてしまった。まさか俺の手助けがなしで勝つとは。
リーメルが俺を見つけて駆け寄ってきた。闘気によって凄まじい速さになっている。
「ジュウリお疲れ。さっきの地面の魔法すごかった」
「え?ああ、リーメルの剣技も凄かったぞ。というか騎士の相手しながら俺の魔法見てたんだ」
「なんか私すっごい強くなれた。次はどこの助けに向かえばいい?」
「いや、もう大丈夫そうだぞ」
俺が人狩りを圧倒したことで大きく士気が奪われ、さらに今リーメルが騎士の隊長も倒したとあって、敵はもうまともに士気を保つことすらできずに次々とやられていった。もうこの施設内に立っている敵は一人もいない。
この反乱の勝敗が決したのだ。
いやー勢いで戦いが始まっちゃったけど、なんとかなったようで一安心だ。こっそり脱獄作戦がまさかこんな大反乱になるとはな。
そんなことを考えていると、周囲の奴隷たちが全員俺のことを見ているのに気が付いた。最初はリーメルのことを見てるのかなと思いこもうとしたが、やっぱ俺を見ているようだ。
「なんかみんなジュウリのこと見てる」
「そうみたいだな。これ逃げた方がいいかな」
「あいつらも斬る?」
「いやそれは止めておいて」
なんだろうか。
まさか今度は俺に対して反乱を起こすつもりじゃないだろうな。あなたたちとは戦う理由がないんですけど。
奴隷たちの視線にドキドキしているところに安全地帯にいたサフランとナッカがやってきた。ゴッダさんは安静にしてきたようだ。
「こ、これは…!ほんとに勝ってしまったんですねジュウリ様」
「そうみたいだな。でも奴隷の皆が俺を凝視してくるのが気がかりなんだけど。俺なんかまずいことしたかな。反乱させたことを怒ってるとか?」
「そんなわけないでしょ。みんなあなたの言葉を待ってるんじゃないの?」
あーそういうことか。
奴隷たちをよく見てみれば、その表情に戦意はなく、喜びの笑みを我慢しているといった感じだ。
ようは俺の勝鬨ってやつを待ってるのだろう。リーメルが奴隷を斬るのを制止しておいて本当によかった。
しかし奴隷たちになんて声をかけたらいいだろうか。こういった場面でする挨拶のテンプレートとか知らないんだけど。
「どうしたんですかジュウリ様。この反乱の発端であるジュウリ様が締めないと」
「そんな小難しく考えなくていいんじゃない」
「たしかにそうだな」
ナッカの言うように、小難しい挨拶みたいなのは今はいらないな。
勝手にこの世界に召喚されて、身勝手な理由で殺されかけ、助かったと思ったら奴隷になり、そこでも散々虐げられてきた。負けてばかりの1週間だった。
しかしようやくこの世界に来て初めて俺は自分の力で勝利を勝ち取ったのだ。
彼らも奴隷として奪われていた自分の人生を自分たちの力で勝ち取ることができたのだ。
この喜びを分かち合うのに長い言葉は必要ないだろう。
「俺たちの勝利だぁーーー!!!」
「「「「「うおぉーーーーーーーーー!!!!」」」」」
こうしてダンジョン都市開発施設の奴隷の反乱は、俺たち奴隷側の勝利で幕を閉じた。
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