第24話 人狩りの最期

 「おい!そこの奴隷!貴様が僕を蹴った犯人だな!お前もすぐに処刑してやる」


 王子の声で再び意識がこちらの戦場に戻る。

 なんて答えようか。嘘ついてもバレるかな。とりあえず言い訳でもしとくか。国に目を着けられたら厄介だし。


 反乱を起こしたからもう手遅れかもしれないけど、できることはやっておこう。帝国だけでなく、この中央王国にまで目を着けられるとか洒落にならないから。


 しかし王子が俺の言い訳を聞くことはなかった。


 グルフが王子の胸を剣で突き刺したのだ。


 「え…なっ!人狩り、これは、どういう…」


 「お前みたいな権力者が俺は元から大嫌いなんだよ。俺が生き残るための踏み台になって死ねや」


 そういって人狩りはそのまま剣を振るい、王子を俺の方へ投げ飛ばした。


 「ぎゃーーー!!」


 「えっ!ちょっ!大丈夫!?」


 俺は王子を受け止めた。

 だが彼の目からはもう光が失われていた。これでは俺でもサフランでも治すことはできない。


 「なんてことを… あ、人狩りは?」


 周囲を見渡して人狩りを発見する。奴は傷ついた足で一心不乱に走り去っていた。そんなんで逃げ切れるとは思えないが。


 いや違う。

 あの方向は門の方角じゃない。


 あの方角は…


 「サフランたちが狙いか!」


 ナッカの錬成魔法でつくった怪我人の安全地帯。人狩りの目的はそこのようだ。サフラン達を人質にして逃がしてもらうって魂胆だろうか。

 それとも死ぬ前に俺の知り合いを道連れにするつもりなのかもしれない。


 「あいつ…!!」


 俺は人狩りの後を追う。

 まさか戦闘を放り出して怪我人や女性を狙うとは。怒りでどうにかなりそうだ。


 サフランたちは錬成された壁の向こうにいるので、人狩りに気づいて逃げることはない。俺がなんとかしなければならない。


 だが安全地帯はすぐそこだ。追いかけても間に合いそうにない。


 俺は自分の足で追うのを諦めて、”形状付与”で人狩りの前に壁を作ることにした。この施設を囲む壁と同じような巨大な壁を一瞬にして生み出す。

 戦場で戦う奴隷や看守たちも、この一瞬は戦うのを忘れてこの壁とそれを生成した俺に見入っていた。


 奴隷たちは「俺らには救世主様がついている!」と士気をあげる。

 看守たちは「あんな化け物に勝てるわけがない」「見ろ、あの人狩りもやられてるぞ」と大いに士気を下げていた。


 人狩りが俺に余計なことをさせたせいで、戦況が大きく奴隷側に傾くことになったようだな。

 

 「痛っ!これは!」


 人狩りが壁に激突したことでようやく追いついた。


 「また貴様の仕業か!なんなんだお前のその魔法は!でたらめすぎるだろ。人質も取れずに俺がこんなとこで終わるなんて」


 やはりこいつの目的はサフラン達を人質にすることだったか。その作戦のために非戦闘員の王子の命まで利用しやがって。


 戦いとは無縁な日本人である俺は、他人を殺すことにもちろん抵抗がある。こいつに更生の余地があるなら逃がそうかとも思っていた。


 だがこいつは超えてはいけない線を越えすぎた。


 ここで逃がしたらいつか俺へ復讐しにくるかもしれないし、サフラン達が狙われるなんてこともあるかもしれない。


 殺らなきゃ殺られるのだ。責任を持って俺が片を付けなければ。

 奴隷を焚きつけて命がけの戦いをさせてるのに、自分の手だけ汚したくないってのも虫がいい話だと思っていたしな。


 「よかった。お前がどうしようもないクズで。これなら思いっきりやれる」


 俺は体にさらなる負荷がかかるのを承知で、自分への強化の出力をあげる。”魔力付与”で周囲から集めた魔素が、白いオーラとなって俺の体に纏わりついてくる。


 「なんだその魔力は…!この化け物がぁぁぁっ!」


 人狩りが最後の力を振り絞って俺に剣を振り下ろした。

 俺はこの剣を片手で白刃取りする。


 しかしこの剣は今までと違い炎を纏っていた。人狩りの技だろう。この炎は一瞬にして俺の体全体に燃え移った。


 「油断したなぁバカめ!この火炎斬りは普段は魔物相手でしか使わないんだが。お前は特別だ。俺に本気を出させたことを誇りながら死ね!」


 だが俺は一向に炭にならない。反射的に”火炎耐性付与”を使ったからな。帝国での楠木さんとの訓練の賜物だ。

 ちょっと指先が焼けたが、これくらいなら”自己治癒力強化”ですぐ治せるだろう。


 俺はそのまま人狩りの剣を音もなく粉々に砕いた。


 「え、なっ!俺の剣が!なんで炎も効いてねえんだ!」


 ”脆性付与”。対象を脆くする魔法で、これによって硬い剣も簡単に壊せるようになる。地下から脱出するために付与術をかけまくっていた際に生まれた技だ。

 ちなみにこの魔法で俺とリーメルの鎖を外すことができた。


 俺は”形状付与”で首を一撃ではねるための斧を生み出して構える。


 「ちょっと待ってくれよ!俺は仕事で仕方なくやったんだ!こんなに怪我したしお相子でいいだろ。なっ!」


 「今度は命乞いか… たしかに以前俺を蹴飛ばしたのは所長からの命令って話だったな」


 「そ、そうなんだよ…!俺だって生きていくための仕事だから」


 「だが王子を殺すのも上からの命令だったのか?それはお前の意思だろ。なんならこんなしょうもない仕事を選んだのも自分の意思。そもそも雇われる前から人狩りなんてクソみたいな活動を楽しんでたんだろ」


 「く…それは…」


 「それにたとえ仕事だとしても、サフランやリーメルを誘拐して傷つけたことを、仕事だから仕方ないで済ませるつもりは毛頭ないしな」


 「…」


 人狩りは言い返せなくなったようだ。

 しかしまだ反撃のチャンスを伺っているようにも見える。


 「冥途の土産に教えてやるよ。この俺の才能は”付与術師”だ」


 「これがそんな凡才なわけないだろ!ちくしょう!馬鹿にしや、がっ!」


 叫びながら炎の拳で殴りかかってきたので、”形状付与”で人狩りを空に吹っ飛ばした。さっきの倍は高く飛んだだろう。


 本当は一思いに首をはねてすぐに終わらせようと思ってたんだけど。

 

まあサフランやリーメルなど、こいつが苦しめてきた人たちのことを思えば、これくらい苦しんで死んでも文句は言えないだろう。


 「ぐわーーーーー!!!」


 人狩りが恐怖の叫び声を上げている。 

 ただの落下死でもいいが、せめてもの情けで俺の魔法で殺してやることにしよう。これは俺なりのケジメだ。


 俺は先ほどナッカたちを守るために展開した土壁を一点の凝縮させ、それを空に向けて巨大な槍のよう伸ばした。


 空への加速が終わった人狩りにはもう抵抗する力は残っておらず、そのまま大地の槍へ胴体から突き刺さった。


 伸ばした土槍に再び”形状付与”をかけて元の平らな地面に戻す。人狩りの遺体も土の中へ飲み込まれていった。


 人狩りとの戦いの痕跡はもう残っていない。


 こうして人狩りのリベンジ戦は幕を閉じた。

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