第23話 人狩りとの再戦

 先手を取ったのは人狩り。

 闘気で飛ぶように距離を詰めて俺の胴体を蹴りを入れてきた。


 俺は直前に新技の”動体視力強化”を自分に施して難なくこの攻撃を見切り、”弾性付与”をした両手でガードすることに成功する。


 重い蹴りだな。ガードしたのにちょっと体が飛ばされたぞ。


 常に魔力が全回復するようになったことで湯水のように魔力を消費することができるようになり、俺の”身体能力強化”の性能も格段に向上している。

 だがどれだけ強化しても反応速度が伴っていないため宝の持ち腐れになっていると以前から思っていた。


 そこで生み出した魔法がこの”動体視力強化”なのだ。


 俺を蹴飛ばした人狩りはというと、俺のそばに落ちていた自分の剣を拾ったようだ。俺への攻撃ではなくこちらが目的だったか。


 「反応速度が前と段違いだな。お前本当にあの時の奴隷か?」


 人狩りは剣を取り戻してもなお、俺への警戒を怠らない。俺の異質さを不気味に思っているのだろう。


 「全ての奴隷の強化なんてあまりにも規格外な魔法だ。こんな大規模な魔法ができるのはこの国の宮廷魔導士くらいだと思っていたが」


 宮廷魔導士っていうと、この施設周囲の壁を一晩で作ったっていう化け物か。そこまでの評価をされるとは驚きだな。


 人狩りは俺との間合いを見計らうかのように、俺の周りを大きくまわりながらジリジリと距離を詰めてくる。


 「無詠唱なのを見るにお前はおそらく支援魔法系の才能持ちなんだろ。さっきの蹴りもそれなりによかった。だが決め手に欠ける。それだけじゃあ俺には勝てねえぞ」

 

 「ほんとにそれだけか確かめてみろよ」


 俺は足の裏と地面への二重の”弾性付与”で猛スピードで飛翔する。


 「魔法職のくせに突っ込んでくるとは!基本がなってねえな!」


 人狩りは正面から迎撃する構えだ。この速度でも反応できるとは流石だ。

 

 俺の衝突に合わせて人狩りは剣を振り下ろす。

 だが奴の剣が俺を斬ることはなかった。



 剣の射程に入る直前で俺は自分へ後ろ向きに”方向付与”をして急ブレーキをしたのだ。


 「くっ!くだらない小細工を!」


 人狩りはそこから踏み込んで俺への追撃を試みるが、”粘着性付与”で足が地面にくっついて体勢を崩した。


 俺はその隙をついて人狩りに腹へ膝蹴りを食らわす。


 「おらっ!」


 「ぐっ!こ、この威力は…闘気だけじゃないのか」


 以前こいつに闘気で蹴られたときに、付与術師の俺にとっての闘気である”攻撃・守備力強化”がほとんど意味をなさかなかった。闘気の練度に差がありすぎたため、中和されてしまったのだろう。


 だが今の俺は”魔力付与”によって”攻撃・守備力強化”も格段にパワーアップしている上に、”硬性付与”でさらに殺傷力のある膝になっているのだ。

 致命傷とはいかなくても、それなりに重い一撃だろう。


 そこからさらに俺は”浮力付与”と”方向ベクトル付与”による高速ムーンサルトで追撃する。俺の硬化したつま先が人狩りの胸元を捉えた。


 「げはっ」


 「この前のお返しだ!」


 以前車輪の労働中にこいつにやられた腹への膝蹴りと胸元への前蹴りをそのままやり返してやることに成功した。

 

 「やはりあのときの奴隷と同一人物なのか。なぜこんな短期間でこれほどの力を… だがなんてことはない。小細工を見切って一太刀浴びせれば俺の勝ちだ」


 「たしかにこれじゃ勝ち目はないかもな」


 人狩りは俺の攻撃力は大したことないと見たのか、余裕そうである。さすがA級冒険者とあって分析力が高い。それに思っていたよりも頑丈だ。


 「ほう、降参でもする気になったか。今さら遅いけどな」


 「んなわけないだろ。戦い方を変えるだけだ」


 たしかに近接戦ではこいつの方が強いのかもしれない。

 

 だが俺は付与術師。


 ここからは魔法職としての戦い方を見せてやろう。今の蹴りはただ以前の仕返しのためにやっただけのことなのだ。他の戦場の面倒もあるし、すぐに終わらせることにする。


 「今度はこっちの番だ!」


 再度人狩りが突っ込んできた。高速でジグザグに走って俺を翻弄しようとしてくる。


 だがそんなの俺が付き合ってやる義理はない。

 俺は人狩りの前方の地面に”滑性付与”をする。


 「なにっ!」


 人狩りがこけた。それも盛大に。


 「来ないのか!じゃあ次はこっちの番だな」


 人狩りは流石の体幹ですぐさま起き上がるが、俺はその一瞬の隙を見逃さない。

 奴の下の地面を”形状付与”で高速で上に押し出す。それによって人狩りは上空に飛ばされてしまった。


 「なんのこれしき…!」


 「まだ攻撃はこれからだぞ」


 さらに俺は追撃として、周囲の地面から数百本の槍を作り出し、”方向ベクトル付与”で高速回転させてそのまま射出した。もちろん付与で硬くしてあるし、さらに”質量付与”で重くして弾きにくくしてある。


 数百本の土槍が空中で無防備な人狩りを襲う。これだけ強化した槍なら、いくら闘気を纏っていてもまともに喰らえばひとたまりもないだろう。


 「舐めるなぁぁぁ!!」


 「まじか…」


 それでも人狩りは剣を使ってなんとか致命傷はさけているようだ。空中に飛ばされているというのに凄まじい剣舞だ。

 だがさすがに数百本の槍全てを捌ききることはできないようで、体中がズタボロになっていく。


 そのまま人狩りは胴体から地面に落ちた。

 すぐさま立ち上がるが全身、特に下半身が土槍でボロボロになっている。左目も失っているようだ。


 自分でやっといたなんだがえげつない攻撃だ。


 「これで決着を着けたかったんだが… お前ほんとに強いんだな」


 「奴隷のくせに上から物言ってんじゃねえ!ち、ちくしょう… なんでこんな強い奴が奴隷なんかやってたんだ。こんな仕事受けるんじゃなかったぜ」


 満身創痍だが何をしでかすか分からないので、早く終わらせてしまおう。そう思った時だった。


 立ち上がった人狩りの後ろにある壊れた馬車から人が出てきた。さっき俺が人狩りとセットで蹴り飛ばしたボンボンだ。生身で馬車に突っ込んだということで、頭や手足から血を流している。


 「お、おい人狩り!これは何が起きているんだ!隊長はどうした」


 「あ?あー王子ですか。危ぶないんで下がってろ」


 「なんだその口の利き方は!?男爵と父上に言いつけるからな。この下賤な一般庶民如きが!」


 あいつ王子様だったの!?

 俺とんでもない奴に怪我させたんじゃないの。


 ということはあの見慣れない騎士団は王子の護衛だったってことか。反乱を起こすにしても大分不利なタイミングにしてしまったな。


 人狩りとの激しい戦いのせいで、周囲からは敵も味方も離れていってしまっている。

 遠くにいると付与を掛けれないし、戦況も分からない。特にリーメルの相手が隊長騎士というのがさらに心配になってきた。


 やはりすぐに決着をつけなければ…



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