第14話 錬成魔法とブロック運び

 石堀り現場は洞窟のような印象だったが、こちらの錬成現場は地下なのに講堂のような開けた空間になっていた。


 そのおかげで魔素の濃度が一気に上がる危険性が少ないのだろう。地下なのに看守が配置されている。


 この地下空間の奥では一人の女性が魔法で地下の石をくりぬいて、大小様々なブロックに加工している。

 そうしてできた石ブロックを他の奴隷たちが地上へと運び出しているようだ。これが錬成魔法か。便利な魔法があるもんだな。


 しかしこの女性の顔、どこかで見たことがあるような…


 「お疲れナッカ。体調は問題ないか」

 「あ、パパ!昨日はここに来なかったから心配したわよ」

 「パパ!?」


 この美人なお姉さんがゴッダさんをパパと呼んだぞ。

 たしかに言われてみれば髪色はたしかに同じオレンジ色をしている。

 だがこのおじさんの子にしては美人すぎないか。


 「紹介しよう。こいつはフルヤのあんちゃん。昨日はこいつの面倒を見て石堀りしかしてなかったんだ」


 「そうだったの。よろしくフルヤ。あたしはナッカよ」


 「こちらこそよろしく。あの、ホントにゴッダさんの娘なの?」


 「それはどういう意味だあんちゃん」


 「アハハ、よく聞かれるけどちゃんと血は繋がってるわよ。あたしが可愛くてパパより背が高いのは、美人なママの遺伝なの。人族のね」


 「ああ、どおりで」


 「だからあんちゃん、それはどういう意味だ」


 「おい!喋ってないで早く働け!」


 「痛っ!」


 雑談をしていたら看守から鞭が飛んできた。しかも俺だけに。

 しかし反射で「痛っ!」と言ってしまったが、実際は大したことなかったな。”魔力付与”で常に魔力を回復できるようになってから、”攻撃・守備力強化”の効果も上がっている気がする。


 「あちゃー、じゃあまたね」


 そういって俺たちは軽トラくらいの石ブロックを渡されると、他の4人の奴隷と合わせて計8人で運ぶことになった。


 「ゴッダさんってあんな美人な娘さんがいたんですね」


 「ああ、俺の唯一の宝だ。妻はもう病で死んじまったからよ」


 「そうだったんですか…」


 「俺が脱獄に乗り気じゃないのもあの子のことがあるからな。あの子には特別な才能があるから監視が厳しいんだ。俺だけ逃げるくらいならここで一緒に奴隷として生きて、たまに顔を合わせれる方が幸せなのさ」


 「そうだったんですか…」


 暗い話ばかりされるから、そうだったんですかという反応しかできない。

 というか俺が脱獄したら、俺の教育係であるゴッダさんが処刑されるなんてことも可能性としてあるのではないだろうか。


 この親子の幸せを奪ってまで俺は自由になるべきのだろうか。

 俺はどうするべきなのだろうか。


 「ジュウリ様。さっきは鼻の下伸ばしすぎですよ」

 「近くに二人も美人がいるのに」

 「の、伸ばしてねーし!」


 俺が真剣に考えているってのにこの二人は。まあ難しいことは後で考えよう。

 まずはこのバカでかい石をどう運ぶかだ。


 

 「どうするんだこれ!どう考えても人数が足りてないんじゃないか!」


 他の奴隷が声を上げる。後ろからは看守がニヤニヤと近づいてくる。


 「なんだお前らぁ。奴隷のくせに俺の采配に文句を言ってるのか?」


 おそらく「ちゃんと運べ!」と鞭を打ってくる気だろう。そのためにわざと少ない人数で持たせたのか。


 「全然動かない。このままだと昨日みたいにいたぶられちゃう」


 「あんちゃん。他の4人に支援魔法をかければいいなじゃないか」


 「それは名案ですね。お願いしますジュウリ様」


 「もう使ってるんだけど…」


 8人全員に”身体能力強化”をかけているのに運べない。人数設定が鬼すぎますね。

 ”弾性”も”粘着性”も今は使い道ないしな…


 そうだ!


 俺は新たな付与術を石ブロックに施した。するとさっきまでほとんど動かなかったブロックが徐々に動き出した。


 「な、動かせるのか!?」

 

 これにはいじわるな看守もびっくりなご様子。舐めんなよクズが。


 「またジュウリの力?」

 「もちろん。これは今作った新技”滑性付与”。対象をツルツルと滑りやすくする魔法だ」

 「自由すぎますね、ジュウリ様の魔法は」


 ゴッダさんや他の4人の奴隷も称賛の声をくれる。

 でも俺の魔法を看守や他の奴隷たちの前で見せてよかったのだろうか。まあ今さら後悔しても遅いし、聞かれたら闘気ってことにして誤魔化すか。


 ゴスッゴスッ


 あれ?急に石ブロックが動かなくなったぞ。


 「地上への坂道で進めなくなったみたいですね」


 「おーのー」


 どうしようか。坂道を使って上げるとなると”滑性”はむしろ逆効果だ。滑り落ちていってしまう。

 しかし滑性がないと動かないしな。これは詰みかな?


 背後では看守が今度こそと鞭をプラプラしながら近づいてくる。みんなはどうするんだと俺を見ている。

 いっそ全員に”攻撃・守備力強化”をして鞭叩きをしのぐか?でもそこからヒートアップして剣での処刑とかになったら、さすがに守り切れないしな。なにより鞭で打たれるのは屈辱的だから嫌なのだ。


 そうだ!別に付与するのは”性質”である必要はないのではないか。

 ここに落ちて最初に得た能力が”弾性付与”だったため、性質の付与に固執してしまっていたが、俺のこの力なら他のこともできるはずだ。”魔力付与”なんてこともできているわけだし。


 「じゃあどうしようか。”質量付与”!あー、逆に重くなっちゃった。解除解除!」


 「無理なら無理でも大丈夫だぞ。鞭に打たれるのなんて日常茶飯事だからな」


 ゴッダさんたちはそうは言ってくれるが、俺は看守に負けたくないのだ。

 えーとえーと

 そうだ!”浮力付与”というのはどうだろうか。風船のようにフワフワと浮かばせるイメージだ。


 「今運べるようにするので、ちょっと待ってくださいね。エンチャント!」


 俺はすぐさま石ブロックに浮力を付与する。すると石ブロックはさっきまでの重さが嘘のように、簡単に上へ持ち上げることができるようになった。俺の魔法の練度では風船のようにとはいかず、持ち上げる補助程度の力だが今はこれで十分だろう。


 看守は「軽い石だったのかな」と首をかしげながら持ち場へと戻っていった。命拾いしたな。もし俺が石をフワフワ浮かべることができたたら、お前の上に落としてペチャンコにしてやってたぞ。


 地上へ持ち上げると”浮力付与”を解除し、再び”滑性付与”をする。


 「驚いな。これお兄さんの力かい」

 「というかあんた空から落ちてきた人だろ」

 「神から遣わされた救世主って噂は本当だったんだな」

 「この力のことは看守には言わないから安心してくれよ」


 四人の奴隷たちが嬉しそうに話しかけていた。なぜかサフランとリーメルが自慢げな態度をしている。

 というか救世主とか言ったか。その噂のせいで昨日は人狩りに殺されかけたんだけどな。


 「でもやっぱ看守の前で見せたのはまずかったですかね」

 「まああの看守はこんなことをいちいち上司に報告するほど優秀じゃないから大丈夫だろ。所長の前では隠した方がいいとは思うが」


 よかったセーフのようだ。新しい魔法が増えていくのが楽しくて、少し手の内をさらしすぎた感があったからな。


 ちなみに今もこっそり新技を使っている。”方向付与ベクトルエンチャント”という技で、”浮力付与”が上向き限定の力だったのに対して、こちらは任意の方向に力を付与することができる。魔力の消費が激しくてずっとは使えないのが難点だが。


 こうして俺たちは”滑性付与”と”方向付与”によって簡単に石ブロックを運ぶことが出来たのだった。

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