第13話 新技で快適な奴隷ライフを

 翌日。今日も朝から石堀りをするようだ。


 昨日の労働と人狩りからの暴力のせいで全身がひどい筋肉痛だ。しかも昨夜も今朝も穀物と野菜の切れ端の入った薄いスープしか食べさせてもらっておらず、力が出ない。


 ここから脱獄して旨い飯を食える日が来るといいんだが。


 「じゃあ今日はこの辺を掘っていくぞ。昨日と同じようにある程度石が溜まらないと外の空気を吸いに行けないからな」


 「頑張りましょうね」

 「程よく手を抜く」


 今日はゴッダさんの他にサフランとリーメルも一緒に労働することになった。彼女たちは昨日はブロック運びという別の仕事をしていたらしいが、今日は俺と同じ石堀りをやることになったということで一緒の場所でやる提案をされたのだ。


 俺たち3人は短い片手用のピッケルをゴッダさんから受け取った。これがまあ使いにくいんだよな。


 俺は昨日の夜に思いついた新技を試してみることにする。


 「ゴッダさん。ピッケルをもう3、4個貰えませんか」


 「すぐ壊れるから予備なら多めに持ってきてるが。今まとめているのか?」


 俺は「はい」と頷いてゴッダさんから短いピッケルを4個受け取った。


 「あんちゃん、5個まとめて持っても効率アップしないと思うぞ」


 もちろんピッケル五刀流なんて恥をさらすつもりはない。そもそも腕が足りないし。


 「まあ見ててくださいよ」


 そういうと俺は5つのピッケルを縦に並べて「エンチャント」と唱える。すると短いピッケル同士がくっついて1本の長いピッケルとして使えるようになった。


 持ち上げてみるが外れずに安定している。ちゃんと石堀りに使えそうだ。


 「おい、あんちゃん… それはどうやってんだ」


 ゴッダさんを俺の魔法に言葉を失っている。付与術師である俺自身もこんな付与の使い方があるなんて知らなかったから無理はない。


 「これは”粘着性付与”という魔法です。物体同士をくっつけることができます」


 ”弾性付与”をずっと自分の体を守るために使用していたため気づくのが遅れたが、俺は生物以外の物体へも”弾性付与”ができるようだ。昨夜寝る前に檻で実験をしていて気づいた。


 そこからさらに”弾性以外の違う性質”も付与できるのではないかと、試行錯誤した結果できたのがこの”粘着性付与”だ。


 「そんなこともできちゃうんですね!」

 「そのおっきいピッケル私にも作って」


 予備が足りないのでゴッダさんに取ってきてもらって、俺は3人分のデカピッケルを作った。


 さらに俺はピッケルに”硬性付与”と”靭性付与”を施す。

 硬性は文字通り硬い性質で、靭性は壊れにくい性質のことだ。たぶん。

 この両方を付与することで、この低品質のボロピッケルが鋼のような高品質ピッケルに様変わりだ。


 昨日”魔力付与”をイメージですぐにできるようになったときから思っていたが、この地に落ちてきてから俺の付与術の成長スピードが格段に上がっている気がする。


 帝国で訓練をしていたときは、状態異常耐性や火炎耐性の付与を覚えるのに、葵の召喚獣の麻痺攻撃や楠木さんの炎の魔法を1週間ほど分析する必要があった。

 だが今の俺ならイメージ次第ですぐになんでもできそうな気がする。もちろん”付与”の概念の範疇でならという条件付きだが。


 この力を上手く活かせば、カーラに”凡才”と言われ、教官にも他人のサポートしかできないと言われた付与術師でもうまく戦えるかもしれないな。


 しかしなぜ急にこんなに付与術が向上したのだろうか。

 何か成長の条件を満たしたとこかもしれないが、今の段階でははっきりと分からない。まあなんでもいいか、力を得れるのならどんな理由だろうと。


 3人は早速俺の作ったデカピッケルで石を掘り出した。ついでに全員に”身体能力強化”と”攻撃・守備力強化”もかけておく。


 「あんちゃんこれは使いやすいぞ!」

 「地下には看守も来ないからやりたい放題ですね」

 「これで効率よく働いて余った時間で休憩できる」

 「サボるためにこれを作ったわけじゃないぞ」


 リーメルはことあるごとに手を抜こうとする。いつか看守にバレないか心配だ。


 「ではなぜこんな便利な道具を作ったのですか?」

 「まあまずリーメルの効率化という考え方はあっている。効率的に掘ることができれば、高頻度で地上に出ることができて気持ちがいい」

 「そんなくだらねえ理由でわざわざピッケルを作ったのか?」


 くだらない理由とは失礼だなゴッダさん。ドワーフはこういった地下での作業なんかに慣れているらしいが、少なくとも人族はずっと地下にいたら気が狂いそうになるのだ。エルフや獣人はどうか分からないが。


 まあデカピッケルを作った本当の理由は別にあるんだけどね。


 「今のは労働環境面での使い方です。本命は脱獄面の使い方」


 「「「脱獄!?」」」


 3人の声が重なる。地下で働く他の奴隷に聞こえたら困るので、あまり大きい声は出さないでもらいたい。この3人は看守に密告するようなことはしないと信用したから話しているのだ。


 「このピッケルで地下を掘り進めて壁の外に出るという計画なんですが、どうでしょう」


 この中で最も長く奴隷をしているゴッダさんに意見を伺う。


 「あんちゃんまだ脱獄なんて考えてたのか。やめておいた方がいいってのに。その作戦は正直微妙だと思うぞ」


 「微妙ですか。それはなぜ?」


 「たしかにこのピッケルとあんちゃんの支援魔法があれば、普段の数倍のスピードで掘ることができる。だがそれでも壁の外にたどり着くには最低1か月はかかるだろう。だがあんちゃんにはまだ言ってなかったが、1週間に一度看守が地下の検査をするんだ。その時にもし抜け穴を作ろうとしてるバレたら即処刑よ」


 「よし、この作戦はなしですね」


 地下でよからぬことをしてないか看守がチェックしないはずがなかったのだ。危ねえ、ゴッダさんに相談せずに始めてたら処刑される羽目になるとこだった。


 看守のチェック面だけでなく、たくさん地下を掘るということはその分魔素溜まりに遭遇する可能性が上がるという問題点もあり、この作戦は廃止になった。

 

 この作戦が無理と判明して、俺だけでなくサフランとリーメルも「なんだ、脱獄は無理なんだ」と落胆している様子だった。ゴッダさんと違ってこの二人には外に出たいという気持ちが残っているのかもしれないな。


 結局このデカピッケルは、最初にリーメルが言った、効率的に働いて余った時間でサボるという使い方をすることになりそうだ。


 

 


 「じゃあ午後からはブロック運びの仕事をするぞ」


 午前の石堀りが終わると俺たち4人は別の仕事をすることになった。奴隷に昼休みなんてものは存在しない。まあデカピッケルのおかげでサボりまくっていたからそこまで疲れてないんですけどね。

 ちなみにデカピッケルの付与は解除して、証拠は一切残さなかった。


 「ブロック運びっていうと昨日サフラン達がやってたっていう奴?」


 「そうですよ。地下で錬成魔法で作られた石材を地上に持ち出す労働です」


 「私たちが昨日殺されかけた労働」


 リーメルが余計な情報まで与えてくる。こんな冗談っぽく言えるということはトラウマになっていないのだろうか。強メンタルすぎる。


 「というか錬成魔法って?」


 サフランが言った気になるワードについて質問する。これに答えてくれたのはゴッダさんだった。


 「もうすぐ錬成現場に着くから、俺らの説明を聞くより自分で見た方が早いだろ」


 そう言われて俺たちは地上から、石堀り場のところとは違う大階段から地下へ下りていく。こちらの階段の横には坂道も併設されているようだ。車椅子の人に配慮しているというわけではなく、石ブロックとやらを引きずり出すためのデザインなのだろう。


 俺たちはゴッダさんたちと地下へと下りていった。

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