第12話 何とか耐えた人狩りの洗礼

 次の瞬間俺は先ほどまで回していた車輪に突っ込んでいた。人狩りの蹴りで吹っ飛ばされたのだ。


 想像以上の威力だ。

 だが死ぬことはなかった。体が弾性を持ったことでダメージを大幅にカットすることに成功したようだ。走馬灯様様だな。


 「ケホッケホッ」


 「これで生きてんのか… かなり丈夫なようだな。ならこれはどうかな」


 人狩りは腰から剣を抜いてさらに追撃しようとしている。

 剣はまずいんですけど。斬撃を防げる付与術なんてまだ覚えていないし、何よりさっきの”弾性付与”で魔力が空になっている。


 だが人狩りの剣が俺を襲うことはなかった。人狩りと一緒に歩いていたおっさん看守が人狩りを制止したのだ。


 「グルフ君、その辺でいいよ。貴重な労働力を無駄にすることないからね」


 「そうか所長」


 そう言って人狩りは剣を収めた。というか俺がただの看守だと思っていた男はこの施設の所長だったようだ。


 「それでどうだった?この男の力は」


 「闘気も使えるが反乱の心配をするほどではない凡人だな。魔力の総量も大した事なさそうだし。空から落ちてきて無事だったのも看守がクッションになって奇跡的に助かっただけだろ」


 「それは何よりだ。奴隷の中にはこいつを天から遣わされた救世主だと思っている奴もいるみたいだから一応調べてもらったんだ」


 サフランとリーメル以外にも俺を神や救世主だと思っている奴がいるのか。そのせいで今俺が殺されかけたのだとしたら、いい迷惑だな。

 

 「悪いね、奴隷を売りに来たついでに変な依頼をして」


 「気にすんな。この施設の手伝いをするってのが領主から依頼だからな。もし何か起きても俺が対処するから心配するな。じゃあ俺は外で獣でも狩ってくるかな」


 そういうと人狩りは俺に一瞥もせずにどこかへ去って行ってしまった。もう俺への興味は失ったのだろう。奴にとって奴隷はそれほどの価値しかないのだ。


 どうやら人狩りはこの所長からの依頼で俺の強さを計っていたようだな。空から落ちてきたばかりに散々な目にあった。


 車輪に突っ込んだまま一息ついていると、今度は所長が寄ってきた。


 「だが念のためにこれを着けておこう。貴重な魔道具なんだがな。近々領主様が視察に来るから万が一があっては困る」


 そう言いながら俺の首に鉄の首輪を装着させた。


 「こ、これは…?」


 「町の外壁から50メートル離れると爆発する首輪さ。これで脱獄なんて考える気はなくなるだろ」


 なんてもんを着けてくれだぁ!!

 だが文句を言ってもどうしようもない。どうせ鞭で打たれるだけだ。



 「ほら!貴様らはいつまでここに居座るつもりだ!さっさと労働に行け!ふん、グルフめ。魔素回収装置まで壊していきよって、あの狂犬めが。修理しなきゃならないじゃないか」


 所長は鞭で俺とサフランたちを脅してから、ブツブツ何かを言いながら管理棟へと去っていった。


 「大丈夫ですか?ジュウリ様」

 「骨折れてない?」


 車輪に突っ込んだ俺の元へ二人が駆け寄ってきた。サフランが俺の腹の痛みを回復してくれる。

 車輪の中心に集まった魔素に少し触れてまた頭が痛くなったが、これは時間経過で治るだろう。


 「ありがとう。全員命は無事で済んでよかったよ。この首輪は大問題だけど」


 少し会話した後に俺らはそれぞれの作業へと戻る。ゴッダさんと合流して首輪について聞かれたので経緯を話した。

 

 「とんでもないのに目を着けられたな。あの人狩りは国のA級冒険者でもあるんだぞ。しかもその首輪は施設の要注意人物にしか着けられないものだし」


 「ああ、そうですか…」


 人狩りかぁ。所長との会話からして奴はこの施設の所有者である領主に依頼されて、ここの用心棒的な役割もしているようだった。

 ここから脱獄しようとするなら、人狩りを倒すか逃げ切るかする必要がありそうだ。しかもこの首輪を外す鍵も見つけなければならないと。


 これはかなりしんどそうだな。人狩りとの遭遇を機に脱出難易度がグングン上がっている気がする。


 だが人狩りのおかげで収穫もあった。


 俺は自分に”身体能力強化”と”攻撃・守備力強化”を付与する。

 そう、先ほどの車輪回しで尽きたはずの魔力が回復しているのだ。


 尽きたはずの魔力がすぐに回復する。この経験は数時間前にもあった。地下で魔素溜まりの騒動があったときだ。

 そして今は魔素を回収する装置へ突っ込んでいたときに回復した。


 ここから導き出されるのは、濃い魔素を吸収すれば比較的早く自分の魔力を回復することができるということだ。


 そこで思いついた俺の新たな技、”魔力付与”。

 大気中に漂う魔素を自分へと付与することで魔力を回復する付与術だ。周囲の空気を集めるイメージで魔素を回収する。あの地下の魔素を吸収する装置が、この新技を思い付くいいきっかけだったな。


 一気に回復させようとすると魔素中毒になって体調不良か死にかけるかするので、多少吸収速度をコントロールする必要はあるのが難点だ。


 だがこれで俺の魔力が少ないという弱点が克服できそうだ。地下で再びゴッダさんと石堀りをしながら、”魔力付与”の練習をする。


 次は脱出に役に立つ新たな付与術を考えていこう。脱獄するときに人狩りと再戦することになったとしても負けないために。

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