第11話 人狩りとの初戦

 「よし!そろそろ地下の魔素濃度も落ち着いただろう。こちらの車輪の者は元の仕事に戻れ!」


 しばらくサフランたちと話しながらやっていた車輪回し労働は、看守の指示で終わりを迎えた。


 「じゃあ私たちは石ブロック運びに戻りますね」

 「ジュウリも一緒に来る?」

 「いや俺は石堀りだから。それに教育係の人に指示を貰わないといけないし」


 二人とは今日はここでお別れかな。

 そう思った時に異変を感じる。二人がどこか遠くを見て、震え出したのだ。さっきまでの笑顔もなくなってしまっている。


 「どうした二人とも?体調が悪いの?」


 「あ、あれ…」


 リーメルが指さす方を見ると、二人の男がこちらへ歩いてきていた。一人は俺がこの施設で目覚めたときに傍にいたおっさん看守だ。


 だがもう一人は見覚えがない。こちらもおっさんだが看守のおっさんと違って引き締まった体躯をしている。服装も看守の物とは違う動きやすそうなデザインで、腰には剣を装備している。奴隷ではなさそうだな。


 「冒険者か?」


 「あ、あいつは人狩りです。私たちをここに誘拐してきて張本人の」


 そういうことか。それで二人は急に情緒が不安定になってしまったのか。このまま接近して絡まれても面倒そうだな。


 「二人とも、もうここから離れよう。次の仕事場に向かわなきゃ」


 俺は二人を落ち着かせて、人狩りが視界に入らないようにしてここから離れさせてあげることにした。

 だがここで予想外のことが起きる。


 「ちょっと待てそこの奴隷」


 「なっ!」


 まだ遠くを歩いていたはずの人狩りが、一瞬にして俺たちの目の前へ立ちふさがるように飛んできたのだ。おそらく魔法の類ではなく闘気で強化した脚力による移動だろう。

 身長が180センチ以上と俺より10センチも高く、目の前に立たれるだけでとてつもない圧を感じる。


 「な、なんですか。この二人に何か用ですか?」


 もしかしたらこいつが以前捕まえたサフランとリーメルにちょっかいを出しに来たのかもしれない。俺は二人を守るように後ろに下げて人狩りに問う。


 「その二人?いや別にそいつらに用はないが?誰だよその奴隷」


 「誰だよって… 自分がスラムから捕まえてきた人たちでしょ」


 「たしかに最近はスラムで人狩りを楽しんでるが、そんなゴミの顔をいちいち覚えているわけないだろ」


 「お前…!」


 つい怒りで言葉が乱暴になり、俺は人狩りを睨みつけていた。


 「ハッ。奴隷のくせになかなか意気がいいな。俺はお前に用があって来たんだよ」


 「俺に…?」


 「お前が空から落ちてきて無事だったっていう男だろ」


 碌なようではないだろうから、念のために”攻撃・守備力強化”で体の表面を魔力でガードしておこう。


 これである程度の攻撃は防げるだろう。それにしても人狩りは俺に何を…


 「がっ!」


 「「ジュウリ!」」


 人狩りの出方を伺っていたところ、突如として腹へ衝撃が来た。


 

 何が起きたのかすぐには理解できなかった。衝撃で胃液を吐き出し、地面に膝をつく。すると目の前には突き出された人狩りの片膝があるのが確認できた。

 俺はどうやら腹に膝蹴りを入れられたらしい。


 とんでもない威力をしていやがる。胃がつぶれたかと思ったぞ。


 守備力強化をしていてこの衝撃か。していなかったらどうなっていたのだろうか。


 「ほう、この膝蹴りに耐えるか。とっさに闘気を纏ったようだな。だがそんななまっちょろい闘気は格上の闘気は防ぎきれねえぞ」


 俺のは付与術による強化で闘気ではないのだが人狩りは勘違いしているようだ。帝国の教官が付与による強化は闘気とほぼ同じと言っていたし、違いはないのかもしれない。


 「この攻撃は耐えれるかな」


 人狩りは膝蹴りした脚を今度は後ろに引いていく。今度は前蹴りで俺の顎か胸あたりを蹴るつもりだろう。

 そんなものをまともに喰らったらひとたまりもないぞ。まずいまずいまずい。このままじゃ殺される。

 だが俺の付与術ではどうしようもないんじゃないか。足も動かない。


 後ろではサフランとリーメルが「やめて!ジュウリが死んじゃう」と泣き叫んでいる。


 俺はここでこいつに蹴り殺されるのだろうか。

 女帝と一ノ瀬のせいで葵やみんなを傷つけて、転移させられて空から落ちて、そこで奴隷になって蹴り殺される。走馬灯のように今朝からの怒涛の展開を思い出す。


 クソッ!なんで俺がこんな目に合わなきゃならないんだ!

 ん?空から落ちて?


 ここで俺は思い出した。空から落ちてきて無事だった理由を。いつの間にか新しく覚えていた”弾性付与”の存在を。


 人狩りに蹴られる直前に俺は自分の体に”弾性付与”をする。残りの全魔力を使ったこの技に自分の命を預けることにした。


 ドガーン

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