第5話 女帝からの呼び出し
翌日。魔物討伐演習が始まる日。
俺たちは食堂で朝食を済ますと、その場で待機するように命じられた。
昨日の訓練後に誰かに火球を撃たれたという話は、一応女教官に相談したが、一ノ瀬が女帝のお気に入りなためうやむやにされるかもしれない。
当の一ノ瀬の姿を探したが、食堂内に見当たらなかった。犯人かどうか確かめようと思ったのだが。
そういえば最近は訓練時間以外で一ノ瀬を見かけることが少なくなった気がする。女帝のお気に入りということでVIP待遇をされているのだろうか。
しばらくすると黒騎士レオが食堂に入ってきて、こう言った。
「フルヤジュウリ。今からお前はカーラ様と面談してもらう。他の者はここで待機しておくように」
え、なんで俺が女帝と面談なんて。
「お前何やらかしたんだよ」と一緒に朝食を食べていた周囲の男友達たちから、まるで職員室に呼び出されたかのように小馬鹿にされる。こいつらはこの3週間の異世界生活で仲良くなれた連中だ。
「なんもしてないって」と笑いながら俺は食堂を後にする。
レオに先導されて玉座の間までやってきた。この異世界に召喚されたとき以来一度も来ていない部屋だ。
玉座の間にはまだ女帝が来ていないようだったので、しばらく待つように黒騎士に言われた。
思えば黒騎士レオは顔立ちがどこか日本人に似ている気がする。黒髪だし、もしかしたら彼も女帝に召喚された日本人なのかもしれない。
そんなことを考えていたら女帝が現れた。広間の右奥に設置された、おそらく寝室へと繋がっているであろう階段から。後ろに一ノ瀬を連れて。
え、どういうことだろうか。一ノ瀬は最近女帝の部屋で過ごしていたのか。魔眼師ということで女帝に気に入られているのかと思ったが、普通に男として気に入られたという説も浮上してきたな。
見てはいけないものを見てしまった気がして動揺するが、それを悟られないように女帝の言葉を待つ。
女帝がゆっくりと歩いて玉座の元へたどり着いた。一ノ瀬はその横に立つ。
女帝カーラは俺を見て言葉を発した。
「さて、朝からお前だけを呼んだのには理由がある。お前の処分について伝えるためだ。それに関してまずオウキから話がある」
処分?
俺が何か気に入らないことでもしただろうか。何か罰を与えるってことか。
でも俺何か悪いことしたっけ?
俺は唐突の宣言に頭が混乱する。
とりあえず嫌な予感がしたので、もしもの時のために”守備力強化”と”状態異常耐性付与”を自分にかけておく。
付与術には適性があるので無詠唱での発動が可能なのだ。
「おはよう古谷。まずは君に伝えておくことがある。昨日君に火球魔法を撃ったのは僕だ」
「っ!やっぱり一ノ瀬くんだったんだね。でもなんでそんなことを?この世界に来る前から君は俺に嫌がらせをしてきてたよね」
やはり昨日の犯人は一ノ瀬だったか。他のクラスメイトがいないから白状したのだろう。
二人で話せる機会がせっかくできたのだから、彼の動機を聞いておこうと思う。これから魔物退治なんかをするときに命を預けあう仲間だから、こういった負の人間関係は清算しておいた方がいい気がする。
「君が何も持っていない凡人のくせに、僕が欲していたものを持っているからかな。本当は君が一人の時にいじめたかったんだけど、昨日は我慢できなくて」
何を言い出したのだろうか、こいつは。
「僕はこの完璧な容姿と才能で、自分が望むあらゆるものを手に入れてきた。それはこの世界に来ても変わらない。一流の才能に女帝の恩寵まで手に入れることができた」
まさか完璧超人。誰もがうらやむスーパースターだ。
そんな彼がなぜ俺を嫌うのだろうか。
「そんな選ばれし人間である僕が欲してもなお手に入らなかったもの。それをただの凡人の君が持っている。それがどうしても許せなかった」
「俺が持ってるもの?付与術の才能のこと…じゃないよな」
「そんなくだらん才能の話なわかがないだろ!そうやって自覚がないのも腹立たしい!伊織葵のことに決まってるだろ」
葵?なんでこのタイミングで葵が出てくるんだ?
唐突なことで理解が追い付かない。
だがその間にも一ノ瀬は話を続けている。
「伊織葵は、この僕の愛の告白を断りやがった。「他に好きな人がいるから」と。クラスメイトの女共に聞いてみたところ、どうやら伊織はお前のことが好きらしいじゃないか。訓練のグループ決めでも、僕の誘いを断ってお前と組んでいたしな」
え、葵が俺のことを好き?
何かの間違いじゃないのか。あんな美人な子が。
いや違うな。本当は薄々気づいてはいたんだ。葵の俺への反応を見れば。
だけど俺はそれに気づかないふりをしていたんだ。
ちょっと仲良くしてくれたくらいで勘違いなんかしないよ、っていうスタンスでいたから。
それに事故から助けてくれたから、その恩返しに仲良くしてくれてるだけという可能性もあったし。
だがまさか本当に俺のことを好いていてくれたとは…
「邪魔な君さえ消えてくれれば、葵は僕のものにできる。最初は日本の法が通じない異世界に来たのを利用して、君を僕の手で殺してしまうことも考えた。だけどカーラ様がありがたい助言をしてくださったんだよ」
一ノ瀬は言葉を止めて、そこから先の言葉をカーラに委ねる。
「我の名において、フルヤジュウリ、お前を処刑することにした」
「なっ!そんな横暴が許されるわけない!人の命をなんだと思ってるんだ」
「許される。ここは我の国だからな」
葵が俺のことが好きだから俺を殺す?
気に入った男が望んでいることだから俺を殺す?
なんでそんなしょうもない理由で俺が殺されなきゃならないんだ!
「国や国民が許しても、俺のクラスメイト達はどうかな。俺たちはお前にそこまで厚い忠義があるわけじゃない。そんなことをしたらお前に反旗を翻すかもしれないぞ」
俺のこの脅しを聞いても二人は余裕そうな態度だ。
「たしかにそうかもね。急に理由も聞かされずにクラスメイトが処刑されたとなれば、他の子たちも納得がいかないだろう。それにそれでは葵がいつまでも君のことを思い続けてしまうかもしれない」
そこまで分かっていて、なぜそんな余裕な態度でいられるのだろうか。
この気味の悪い二人に自分の命が握られていることを感じ、背中から冷や汗が止まらなくなる。
「そうさ、処刑の理由がないからみんな納得しないんだ。だからみんなが納得できる理由を作ればいい」
一ノ瀬は腰に差していた自分の剣を俺の足元へ放った。俺を銃刀法違反で捕まえて処刑するつもりだろうか。ここでは日本の法が通じないと自分で言っていたのに。
すると突然、一ノ瀬の目が金色に光った。魔眼を発動したときの輝きだ。
これとほぼ同時に俺のはるか後方にある広間の扉が開かれた。後ろからは大勢の人の気配がする。クラスメイトたちの話し声だ。
俺はクラスメイトたちにこいつらの横暴を聞かせるために振り向き、声を上げようとした。
だが声が出せない。体も動かしにくくなっている。
「僕の”沈黙眼”とカーラ様の”絶対支配権”の力だよ」
「お前たちのような自我を残した召喚兵を何の枷もなく放置しておくわけなかろう。この”絶対支配権”でお前の自由は奪わせてもらう」
俺はこいつらの魔法によって体の自由を奪われた。
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