第4話 訓練といじめ

 さらに1週間もすると全員が自分の戦い方を見つけ出して、訓練も本格的になってきた。


 この期間で新しくできるようになったことは、”状態異常耐性付与”と”炎耐性付与”だ。どちらも葵と楠木さんの協力のおかげで覚えることができた魔法だ。


 ”状態異常耐性付与”は毒や麻痺なんかの予防になる魔法。

 ”炎耐性付与”は炎による攻撃のダメージを軽減する魔法。


 「古谷くんの”炎耐性”はなかなか便利ね。葵の魔獣たちに私の炎が格段に効きづらくなったわ」


 「葵の魔獣にも付与ができるのに気づいてくれた楠木さんのおかげだよ」


 「友達の成長を手伝うのは当然の事よ」


 「”状態異常耐性付与”もいいよね。私のチュータの麻痺毒が雪ちゃんに通らなくなったし」


 「それも葵が練習に付き合ってくれたおかげ… というかチュータってもしかして、そのネズミの名前?魔獣に名前ってつけるもんなの」


 「かわいいでしょ」


 実戦に出た時に魔獣の生存率が分からないから、あまり情が移りすぎるとよくないと思うんだが。もしかしたら使い捨ての兵隊なのかもしれないし。

 まあ今とやかく言うのも野暮か。


 明日からは王都の外へ出て、魔物相手の実践訓練が始まるらしい。物理職の3人組と合体して、物理魔法混合6人組を1パーティとして戦う。


 俺には攻撃力がなくて他の5人のサポートしかできないが、みんなの勝利のために自分にできることを頑張ろう。

 

 こうして夕方の訓練終わりに3人で城へ戻っていると、突如城の窓の方からバスケットボール大の火球が俺の元へ飛んできた。

 そしてそれは俺の腹へクルーンヒットする。


 「ぐへっ!」

 「大丈夫!柔理くん!」

 「いったい何が!?」


 二人が心配して駆け寄ってくる。

 訓練着が丈夫なことと、訓練の時にかけていた”火炎耐性付与”がまだ継続していたので大怪我にはいたらなかったが、衝撃が凄まじかった。

 まるでタイヤでぶん殴られたような衝撃が脳にまで響いた。

 

 「待ってね。今、私が回復魔法をかけてあげるから」


 ビーストテイマーは使役する魔獣のサポートのために回復魔法にも適性があるので、その力で葵が俺の傷を癒してくれる。

 楠木さんはというと、火球が飛んできた城の窓の方を睨んでいるようだ。


 その視線の先、3階の窓に人影があった。その顔のあたりが金色に光っているように見える。こいつがおそらく俺を攻撃した犯人だろう。


 「あなたが犯人ね!待ちなさい!」


 楠木さんは城の壁を走って上り2階の窓へ飛び乗ると、そこからさらにアクロバティックな動きで人影のあった3階の窓へ飛び込んでいった。相変わらず凄まじい闘気の練度だ。


 教官曰く、楠木さんは魔法職のグループで訓練しているのにも関わらず、今や闘気の練度が物理職の上位勢に匹敵しているらしい。


 「すごいよね凛ちゃんは。昔から体操をやっていたからってのもあるのかな」


 俺と同じ感想を葵も抱いていたようだ。


 しかしそんなことよりも、俺を攻撃した犯人の正体は誰だろうか。

 もちろん俺には心当たりがある。一ノ瀬王輝いちのせおうきだ。この世界に来てから絡んでこなかったので、もういじめに飽きたのかと思っていたが。


 城に勤めている人間からいつの間にか悪意を抱かれていたという可能性もなくはないが、クラスメイトで俺にこんな仕打ちをする奴なんて一ノ瀬以外にはいない。

 根拠はそれだけでなく、あの人影の顔元にあった金色の光だ。あれは奴の魔眼の色と酷似していたように思える。


 「ねえ柔理くん。もしかして今の犯人に思い当たる節があるんじゃないの?」


 顔に出ていたのか、葵がそんなことを聞いてきた。いじめられてる現場を見られたことだし、試しに相談してみるか。


 しかしこれを言ったところでどうなるだろうか。一ノ瀬はクラスの人気者で、人望も厚い。

 俺が「犯人は一ノ瀬であいつは実はいじめっ子なんです」なんて言ったところで信じてもらえないんじゃないか。

 まだ犯人が一ノ瀬だと確信があるわけじゃないし、今は黙っておいた方がいい気がする。

 

 「いや、全く見当もつかない」

 「そう… 困ったことがあったらちゃんと私に相談してね。命を預けあう同じグループの仲間なんだし。それに…」

 「それに?」

 「犯人は捕まえらなれなかったわ!」

 「「うわ、びっくりした!」」


 俺と葵の真横に城から楠木さんが飛び降りてきた。さっき飛び込んだ3階の窓から出てきたのだろうか。強靭すぎる。


 「きっと美女二人に囲まれた古谷くんに嫉妬した男子生徒の仕業ね。次また同じことをしてきたら容赦しないわ」


 「あ、ありがとう。でも無理はしないでね」


 「そうだよ凛ちゃん。柔理くんも。みんな無理せず全員無事に、一緒に元の世界に帰ろうね」


 こうしてこの事件の犯人を見つけることなく、俺たちは訓練場を後にした。

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