第3話 班決めと訓練

 玉座の間での才能鑑定を終えると、俺たちは別室へ移動して服を着替えさせられた。


 これから早速戦闘訓練をするのに制服は不都合だからだ。

 訓練用の服は上が白色で下が紺色で体操服のようなデザインをしている。


 着替えが終わると城の外の訓練場に移動した。

 学校のグラウンドほどの広さで、茶色の土が敷き詰められている。


 訓練は物理職と魔法職に分かれて行うようだ。


 魔法職が訓練場に全員集まるとピンク髪の女魔導士の教官がとんでもない指示を出した。


 「では訓練を始める前に、まずは3人組を作ってみましょう。できたグループから私の前に並んでくださいね」


 どうしよう。魔法を使いこなすより難しい試練を課されてしまった。


 俺は最近まで骨折で入院をしていたので、まだ自分から気楽に話せるような友人ができていない。

 しかも俺はこのタイミングで自分から話しかけれるほどコミュニケーションが高い人間でもない。


 委員長の石岩君とはそれなりに話せるのだが、彼は騎士なので物理職のグループだ。


 他に知ってるクラスメイトはいじめっ子の一ノ瀬だが、もちろん同じグループになるのは嫌だし、そもそも奴はすでに男友達二人とグループを作っているようだ。


 もうこれは諦めて余った者同士で組もう。もし俺だけ余るようなら教官とペアになってもらおう。うん、それでいい。


 そんなことを考えていると後ろから肩を叩かれた。


 「柔理くん!もしまだペアを組んでないなら私たちと組まない?」


 救世主現る。

 葵が俺に声をかけてくれた。

 

 断る理由はもちろんないので、一緒に組んでもらうことにした。どうやら異世界に来てまで恥をかくことは避けられたようで一安心だ。葵のビーストテイマーが魔法職で助かったな。


 「誘ってくれてありがとう。俺まだ友達ができてなくて途方に暮れてたんだ」


 「そんなお礼なんていいのに。私が柔理くんと組みたかっただけだから。え、なんで泣いてるの?」


 おっと感極まりすぎたな。

 3人組を作らなければならないので、あともう一人必要なわけだが、葵が女友達を連れてきてくれたようだ。


 「あ、この子のことを紹介しないとね」


 葵の隣に立つ茶髪ハーフツインの女性。身長は女子にしては少し高めで、引き締まった体をしている。大人しめの葵と違って、明るくて気が強そうな雰囲気だ。

 

 この子には見覚えがあるな。俺がここに召喚されて葵に押しつぶされてる時に「葵なにしてるの!」と俺を助け出してくれた子だ。


 「楠木凛くすのきりんよ。よろしく。あなたが例の古谷ふるやくんね」


 「こちらこそよろしく。古谷柔理ふるやじゅうりです。その”例の”ってのは?」


 「それはもちろん葵の…」


 楠木がそこまで言いかけたところで、葵が慌てて彼女の口を押えて話を遮ってしまった。


 「そ、そんなことより早く整列しなきゃ二人とも。教官さんに怒られちゃうかもよ」


 たしかにずっと話し込んでいるわけにもいかないな。

 おそらく葵を交通事故から救ったというエピソードについて楠木さんは話そうとしたんだろう。

 特に追求することもなく、葵の意見を採用して俺たちは話をやめて列に並ぶことにした。


 この時すでに並んでいた一ノ瀬と目があったが、速攻で逸らす。なんであいつはこんなに俺を見てるんだ。いじめるタイミングを見計らってるのか。


 全ての3人組ができたとこで訓練が始まった。

 まず教官が魔法のコントロール方法をザックリ説明し、あとはグループ内で教えあうという流れだ。


 「違うわよ!もっと”流れ”を感じるの!血みたいに」


 「凛ちゃん、そんなこと言われても… そもそも血の流れすら感じられないし」


 「楠木さんは感覚派なんだね」


 俺たちのグループ内では楠木さんが一番早く魔力の扱い方のコツを掴んだが、教えるのは苦手そうで結局教官がアドバイスをしにきてくれた。


 3日の訓練を経て全員が魔法を使う感覚を身に着けると、次は各々の才能に合った魔法を教官に教えてもらう。

 俺は付与魔法、葵ならテイム魔法、楠木さんなら火炎魔法だ。それをグループ内で高めあうのだ。


 「見てみてこれ!大車輪斬り!」


 楠木さんは空中で回転しながら、炎を纏った剣を振るっている。とんでもない身体能力だ。

 彼女の才能は”魔法剣士”。剣と魔法に適性があり、剣に魔法を纏わせて戦うこともできるんだとか。

 しかしそれにしても、あの回転はすごすぎないか?跳躍して着地するまでに4回転くらいしてる。人間をやめてしまったのだろうか。


 「どうやら彼女は”闘気”を纏っているようですね」


 「闘気?」


 楠木さんの舞を見ていた俺と葵に女教官が喋りかけてきて、葵がそれに反応する。


 「闘気とは魔力のコントロールで身体能力を上げる技術です。普通は物理職の才能持ちが訓練して身に着けるものですが、彼女は感覚で最初から使えちゃうみたいですね。”魔法剣士”が物理要素もある才能ってのもありますが」


 「なるほど天才という奴ですか」


 楠木さんに負けていられないと、俺と葵は教官に教えを乞う。

 葵のビーストテイマーは魔力で魔獣を手懐けるというもの。

 もちろんあまりに格上の魔獣には効かないので、今は帝国が捕縛していた狼とネズミの小型魔獣を1体ずつもらって操る練習をしている。

 

 さらには魔獣を使役すること以外にも、魔獣の援護のために補助魔法や回復魔法が使えたり、魔獣と意思の疎通をすることもできるらしい。わりと万能で羨ましい職業だな。


 そして俺の付与術はというと、残念ながらそこまで大したものではなかった。カーラに”凡才”と言われただけのことはある。


 魔法で自分や他者を強化したり、魔法効果を付与したりすることができる職業で、今の俺ができるのは、”身体能力強化”と”攻撃・守備力強化”くらいだ。

 ”身体能力強化”は対象の運動能力自体を底上げする魔法。

 ”攻撃・守備力強化”は、魔力の膜を武器や体の表面に纏わせることで攻撃力と守備力が強化される魔法。

 

 たしかにあるに越したことはないし、便利な魔法ではある。

 だけど物理職の皆さんは、自分で練り上げた闘気でほぼ同じことができてしまうらしい。


 「闘気を纏って身体能力が向上しているクスノキさんに、フルヤくんが”身体能力強化”をしても、効果が重ね掛けできるわけではありません。重ね掛けをするには莫大な魔力がいるので。あと”攻撃力強化”と”守備力強化”に関しても闘気で同じようなことができてしまいます」


 「ええ… じゃあ戦場で僕の仕事はないんですか。闘気が苦手な魔法職の人たちを強化するっていうのはどうですか?」


 「戦略的に後衛の魔法職に”身体能力強化”が必要になることはほぼないですね。あるとしたら前線が崩壊して逃げるときとかでしょうか。でもカーラ様が召喚した英雄たちをそんなギリギリまで酷使することはありませんからねぇ」


 「じゃあ俺いらなくないですか。しかも補助魔法はビーストテイマーの葵にもできることだし」


 それに付与術師の俺には攻撃手段もない。

 練習すれば炎や氷の魔法を覚えることもできるらしいが、付与術師の才能しかない俺の魔法では楠木さんの足元にも及ばない。

 才能と一致した魔法であれば、呪文の詠唱も基本的にいらなくなり、威力も底上げされるが、才能と一致しなければ詠唱必須なうえに威力もそこそこになる。

 つまり俺が必死こいて詠唱してしょぼい炎を出している間に、楠木さんは無詠唱で業火をポンポン生み出せるわけだ。

 

 だが女教官は俺を見捨てずにちゃんとアドバイスをしてくれた。


 「いらないなんてことはないですよ。付与術師にしかできないことだってありますから。例えば”耐性の付与”とか」


 「地味は余計じゃないですか、地味は。しかしなるほど、耐性の付与ですか。たしかにこれなら俺の才能にも合うし、みんなを守ることができますね」


 「みんなをサポートできる反面、自分には全く戦闘力がないのが欠点ですが」


 「柔理くんの分まで私が戦うから大丈夫だよ」


 こうして俺の付与術の活かし方が決定した。

 ちなみにこの会話の間もずっと楠木さんは大車輪斬りをして遊んでいた。


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