第2話 才能鑑定

 才能とは具体的には職業の適正を表すらしい。

 戦闘職以外にも非戦闘職の才能までこの世には存在しているらしいが、全ての人間が持っているわけではない。


 それに調べる方法が限定的なので、みな自分に才能があるのか、どんな才能なのかを手探りで調べていくのが一般的らしい。


 まあこれは俺たちが元いた世界と同じようなものだな。


 だがカーラによって異世界から召喚された英雄の俺たちには全員に戦闘職の才能が与えられ、しかもカーラの水晶によってどんな才能があるのかを調べてもらえるので、一般人よりも格段に速い速度で成長することができるんだとか。


 カーラが玉座で順番に生徒たちの才能を見ている間に、こんなことを女帝の側近の黒騎士レオが説明してくれた。


 そんな話を聞いているうちにクラスメイトたちの才能が次々と判明していく。


 一人ずつ女帝の元へ行って自分の才能を見てもらい、戻ってきたら自分の才能をクラスメイトに報告するという流れだ。


 委員長の聖騎士にはじまり、剣聖、重戦士、回復術師、大魔導士、魔法剣士、精霊術師など様々だ。


 どれも戦闘向きでカッコいい才能ばかり。


 おそらく魔物との戦闘のために召喚された存在であるから、全員が戦闘向けの才能になるように調整されているのであろう。女帝がかなり高レベルの召喚術師なのが伺える。


 クラスメイトたちの才能を耳にするたびに、自分の才能への期待も増していく。


 先ほどまで絶望一色だったクラスメイト達だが、ゲームのように職業が判明していくのに男子たちが興奮していき、その熱気が女子にまで広まって全体が楽し気な雰囲気で包まれていった。

 これから待ち受けているであろう過酷な現実を受け入れるために、無理にテンションを上げているのかもしれないが。

 

 俺はわりと心からワクワクしている。特別な力を使えるなんて男心をくすぐられるからな。

 それに一生走れないかもしれないと診断された足が完治したとあって、久しぶりに自由に運動ができるとウズウズしている。


 「私の才能はビーストテイマーだったよー。なんか可愛くない?動物園の飼育員さんみたいで」


 「女優じゃなかったんだ。残念だな」


 「向こうの世界での才能は女優なんです!」


 女帝の元から戻ってきた葵から報告を受けて軽口をたたく。

 

 葵はビーストテイマーか。そんな飼育員さんなんて可愛らしい感じの職業じゃないと思うけどな。いずれは巨大な魔獣を操ったりもできるのではないだろうか。


 俺もそんなカッコいい才能がほしい。



 「おー、これは!」


 突如として女帝が大声をあげた。

 俺たちは談笑をやめ、黙って女帝の方を注視する。

 

 というのも女帝がここまで大きなリアクションをしたのは、これが初めてだったからである。剣道部の男子生徒が剣聖というレア才能だと判明したときにも、ここまでの反応はしなかった。


 そんな女帝がここまでのリアクションをするとは一体どんな才能なんだと、皆が気になるのも無理はない。


 「お前の才能は魔眼師だ。鍛えればこの世のあらゆる魔眼を使えるようになるだろう。期待しているぞ」


 魔眼師か。

 てっきり勇者とか魔王とか、ゲームでお馴染みの職業が出たのかと思ったが。

 だが女帝がここまでの反応をするということは相当レアな才能なのだろう。

 

 そんな才能の持ち主は……げっ

 一ノ瀬王輝いちのせおうきじゃねえか。


 サッカー部のエースで高身長イケメンのクラスの人気者。読者モデルなんかもやっていて女子人気もすごいらしい。(俺調べ)


 だが俺はこいつが嫌いだ。別に嫉妬してるとかじゃなくて、いじめっ子だからだ。いじめのターゲットはもちろん俺。


 俺は足の怪我の入院のせいで入学式にも参加できず、ようやく登校できたのが7月の頭。3日前からだった。

 そんなドキドキ初登校中の俺の松葉杖を蹴っ飛ばして「邪魔だゴミ」と吐き捨てたのが、この一ノ瀬との出会いだ

 それ以降、ちょくちょく俺に嫌がらせをしてくる。もちろん他の人にはバレないように陰湿なやり方で。被害者の俺だけがこいつの本性を知っている。


 だが表では人当たりのいい人気者であるため、俺がいじめられたと誰かに訴えたところで無駄だろう。むしろ嫉妬で一ノ瀬を陥れようとしていると、俺の方が非難されそうだ。


 現に真面目で誠実な委員長に相談したが、「彼は真面目でいい人だから君の気のせいじゃないか」と言われてしまった。もっとも委員長が人を疑うことをしない聖人だからというのもあるかもしれないが。


 女帝の才能鑑定を終えて階段から降りてくる一ノ瀬。その目は妖しく金色に光っており、さっそく魔眼の才能が発揮されているようだ。

 心なしか俺の方を見ている気がする。まるで獲物を見下すような冷酷な目で。


 「さすが王輝だな」

 「やっぱ一ノ瀬君ってなんでもできちゃうんだね」

 「何あの目!めちゃカッコよくない?」


 他のクラスメイトからは好評なようだが、俺はあの力の矛先が俺に向くのではないかと肝を冷やした。


 一ノ瀬がさきほどまでいた玉座の方を見ると、女帝と側近の黒騎士が会話をしている。


 「皆なかなか上等な戦闘の才を持っていましたね。さすがは陛下の召喚術です」


 「ああ、助言をくれた”赤髪の魔導士”のおかげだな」


 「ですが目当ての能力を持つものはいませんでしたね。やはりなにか発現に条件があるのでしょうか」


 「まあしばらくは様子見か。"魔眼"も育てなければならぬしな」


 あれ、なんかもうお開きする雰囲気全開じゃないですか。俺はまだ才能を見てもらってないのに。


 「あのー、すみませーん」とおれは急いで玉座の階段の元まで走り、まだ才能を調べてもらっていないことを伝える。


 「そうであったか。ではこちらへ」


 なんだか面倒そうに返答する女帝カーラ。魔眼師が誕生して満足したのだろうか。後味よく締めたいからお前の鑑定はやらなくていいよとでも言いたげだ。


 ここはぜひとも一ノ瀬以上の才能を出して見返したいものである。女帝の鑑定が終わるのをドキドキしながら待つ。

 

 鑑定はカーラが召喚した手のひら大の水晶で行われる。しばらくすると水晶が光り、それで鑑定結果が分かるようだ。


 光の色は白か金だった気がするが違いはなんだろうか。

 剣聖や魔眼師が判明したときは金色だったので、レアな職業や強力な職業の場合は金色に光るのかもしれない。


 まるでソシャゲのガチャのようだ。


 もし本当にガチャみたいなシステムだとしたら、金のさらに上に虹色とかあるかもしれない。

 もしかしたら余り物には福がある展開で、俺の色は虹色に…


 白だった。普通に白だった。

 金ですらなかった。


 結果を見た女帝はけだるげに口を開く。


 「出たぞ。お前の才能は”付与術師”だな。凡才だ。魔力量も最低レベルのようだが、まあ励むがよい」


 「あ、そうですか。ありがとうございました」


 魔眼師の前に鑑定してもらえばよかったと俺は後悔した。

 俺は玉座に座る女帝に礼を言うと、階段を下りてみんな元へ戻る。


 階段の下で待つクラスメイトたちは一ノ瀬の話題で盛り上がっており、俺への関心は全くないようだ。

 ただ葵一人だけが俺の鑑定結果に興味を抱いて、見守っていてくれている。


 そんな葵の横顔を一ノ瀬が睨んでいる気がするのだが、俺の気のせいだろうか。

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