第21話 魔力付与の真価
「大丈夫か二人とも」
サフランとナッカが助けてと叫んだので、とりあえず近くにいた人狩りと性格の悪そうなボンボンがいたので蹴っ飛ばしたが、これでよかったのだろうか。
人狩りはともかくボンボンは知らない人だったんだが。まあ剣を振りかぶってたから悪人でしょ、問題なし。
「ど、奴隷の反乱だーーー!!」
俺を見て焦った様子の所長が叫んでいる。人狩りを蹴飛ばしたくらいで反乱は言いすぎだと思うが、ここまで来たらやるしかないか。
この反乱に勝てば全ての奴隷を解放することができる。そうしたら今度こそ後ろ髪を引かれることなくこの施設から脱出できるだろう。
「よかったジュウリ様。無事だったんですね… ゲホッ」
「おい大丈夫か!腹を蹴られたのかあいつに。それにゴッダさんも!」
サフランは土で汚れた腹部を抑えているし、ゴッダさんは胴体を大きく斬られている。ゴッダさんは重体だが、まだ生きてはいるようだな。”攻撃・守備力強化”をしていてほんとよかった。
「怪我をしてるとこ悪いが、ゴッダさんの傷を治してあげれるか。お前の怪我は俺が治すから」
リーメルは気を失っているだけだから心配しなくていいという説明もして、サフランには回復に徹してもらうことにする。サフランの腹部の蹴られた傷くらいなら、さっき思いついた”自己治癒力強化”ですぐ治るだろう。
「分かりました… でももう看守たちが!」
「フルヤ!騎士たちが全員こっちを狙ってるわよ!」
こっちの面倒も見ないといけないのか。というかこの施設に騎士なんていたっけ?お偉いさんでも来てるのかな。
やることが多いが、今の俺なら問題なくこなせるだろう。
「エンチャント!」
俺は迫ってくる看守や騎士たちの周囲の地面に”粘性付与”をする。
「ぐわっ!」
「なんでそんなとこでこけてる…うわっ!」
「隊長!この辺の地面がおかしいです。足がくっついて…」
「何をやってるんだ!貴様らは!」
これで時間稼ぎ完了だ。所長も次々に転んでいく兵たちにご立腹な様子。
しかしこの程度の足止めは、そのうち脱出してきてしまうだろう。こいつらの相手は俺以外に任せるとするかな。
なんか大事になって、俺の今夜の脱出作戦もパーになっちゃったし、もう全部滅茶苦茶にして全員で脱獄してやる。
今日の夜になるまで大人しくしておかなかった看守たちが悪いのだ。
この大失態で全員が職を失ったとしても知ったことではない。
俺は全ての奴隷の足枷に”軟性付与”をかけ、さらに全員に”身体能力強化”と”攻撃・守備力強化”を施した。
「おい、足枷が外れるぞ!」
「あれなんか力が湧いて…!」
「何が起きてるんだ!」
「これは労働中にもたまに感じたことがある…」
突然のパワーアップに戸惑う奴隷たち。申し開けないが騎士や看守たちの相手は彼らにやってもらうことにしよう。
「聞け奴隷たち!もう支配されるのは終わりだ。自分たちで自由を勝ち取れ!立って戦え!」
俺は地上に脱出するために編み出した新技の”形状付与”で奴隷たちの周囲の地面から土塊の剣を生み出してやる。もちろん”硬性付与”と”靭性付与”で鋼並みに硬く壊れにくい武器になっている。
地下で生き埋めになったときに上に脱出しようとしたが、”軟性付与”をしたところで掘っても掘ってさらに上から次の岩が降ってきてキリがなかった。あのままでは生き埋めになっていただろう。
そこで編み出したのが”形状付与”だ。ナッカの錬成魔法。物体の形を変える魔法から着想を得た力で、対象に新しい形を与えることができる。
「おい、あの人って先週ここに空から落ちてきた…」
「この力はあの方が授けてくれたのか…?」
「やっぱ救世主様だったんだ!」
「俺は戦うぞ!みんなでここから逃げるんだ!」
「やるぞーーー!!」
奴隷たちは土の剣を持つと互いに鼓舞し、看守たちへ立ち向かっていった。
「あの男だけでなく他の奴隷まで!?」
「なんだこいつらの力は…!あいつが原因なのか」
「付与術にしても、こんな高性能なことって…」
「なぜ奴隷なんかに負けているんだお前らは!ただの支援魔法の使い手が奴隷に混ざっていて油断しただけのこと!まずあの元凶の男から殺すのだ!」
所長が俺を狙うように指示を出している。俺が”形状付与”地面をぶち破ってきたり、人狩りを”弾性付与”で蹴飛ばしたりした時点で、ただの支援魔法という評価はおかしいと思うが。
おそらくそれも承知の上での兵への檄なのだろう。敵兵たちは警戒しながら俺を狙おうとしている。
だが奴隷たちが頑張ってそれを阻止してくれているようだ。
奴隷たちは元から労働で鍛えられていることもあって、騎士相手でもそれなりに戦えている。さて次はこっちの問題を解決しなければ。
「ダメですジュウリ様。私の魔法ではこんな深い傷はとても…」
ゴッダさんの傷はかなり深刻なようだ。おそらく人狩りにやられたのだろう。
だがこの場で回復魔法を使えるのはおそらくサフランだけなのだ。彼女にどうにか頑張ってもらわなければ。
「泣くなサフラン。俺も手伝うからまだ諦めちゃダメだ」
そういって俺は座ってゴッダの回復に勤しむサフランの肩に手を乗せると、”魔力付与”をして魔力を分けてやった。いつも俺が大気中の魔素を自分に取り込むのを、今は自分から他者へとやっている。これでサフランの回復魔法の力も底上げされるはずだ。
「力が… 魔力が湧いてきます!これなら」
「魔力をサフランに供給してるの?そんなことまでできるなんて… でも大丈夫なの?大量の魔力を一気に渡したらサフランが魔素中毒になっちゃうんじゃ」
「大丈夫だ。それも付与で対策してある」
俺は魔素中毒の対策としてサフランに”状態異常耐性付与”をかけてやっている。これによってノーリスクで魔力を供給し続けることができるのだ。
先ほど地下でリーメルと共に魔素溜まりに落っこちて死にそうになった俺は、思いつく限りの付与術をやけくそで自分とリーメルににかけまくった。今までに使ったことがあるものから、新しく作ったものまで。
魔力なら周囲の高濃度の魔素のおかげですぐに満タンになるので、かけたい放題だった。
薄れゆく意識の中で打開策がないかと必死に魔法をかけまくった。
そんな中であの状況を打破してくれたのが、”状態異常耐性付与”だった。これによって魔素への耐性ができた俺たちは地下で死なずに済んだのだ。
帝国での訓練で、葵が特訓に付き合ってくれたおかげで習得できた”状態異常耐性付与”。彼女との絆が俺の命を守ってくれたのだ。
そしてそこから”形状付与”で地上への穴を作り、”浮力付与”と”
ちなみにこの地下の魔素溜まり事件で俺が得たのは、”形状付与”だけではない。
実はこの”状態異常耐性付与”で魔素中毒の心配がなくなったことで、俺は常に全力で”魔力付与”で魔力を回復することができるようになった。
今までは魔素中毒にならないようにギリギリの回復速度を維持していたが、もうそんなことをする必要はないのだ。
常に魔力が全快になるので、少ない最大魔力量という俺の弱手も完全に克服できた。しかもこの潤沢な魔力のおかげで、全ての付与術の威力も格段に上がった。
俺は地下からさらに強くなって戻ってきたのだ。
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