第20話 満を持して救世主登場

 これにはナッカも驚きだ。労働から解放されて父と死ぬと思っていた矢先に、突如王子のペットとして生きていくことになってしまったのだから。


 「恐れながら申し上げます王子。その奴隷はどうやら強力な魔法を使うのでやめておいた方がいいかと」


 所長に耳打ちされた男爵が進言するが、王子は聞く耳を持たない。


 「ジェナスにしつけさせるから大丈夫だ。あまりに強いならジェナスとバトルさせるのも面白そ…」


 「俺の娘に手を出すんじゃねえ!ぶっ殺すぞ!」


 「ひいっ!」


 楽しそうに喋る王子を遮って、ゴッダが王子に殴りかかった。


 こんなことをしたら殺されると分かっていたが、娘の危機に体が勝手に動いていた。ゴッダに後悔はない。


 だが王子を殴ることは叶わなかった。

 二人の間に人狩りが割って入ってゴッダを切り倒したのである。


 「お怪我はないですか?」


 「びっくりしたなぁ。ナイスだ人狩り」


 「ゴッダさん!」


 急な展開で人狩りが闘気を纏っていなかったことと、午前の労働でジュウリが残していった”攻撃・守備力強化”のおかげで即死は免れた。それに気づいたサフランはゴッダに回復魔法をかけようとする。


 だが人狩りがそれを許さなかった。


 「このガキ!てめえも何勝手なことしてんだ!」


 蹴り飛ばされたサフランは痛みで立ち上がれない。

 次は王子の手から解放されたナッカがゴッダの元に駆け寄る。


 「ナッカ… 守ってやれずにすまない…」

 「パパ!パパ!くっ!」


 ナッカは王子と人狩りを泣きながら睨みつけた。


 「ひぃ!なんだこいつの目は。これだから調教済みの奴隷しか買うなと言われていたのか。もういい、この女奴隷も俺が殺す。人狩り、俺がやるから剣を貸してくれ」


 「どうぞ。反撃されそうだったら助けますんで」


 人狩りから剣を受け取った王子がナッカの元に歩み寄ってくる。


 この状況からナッカが助かる方法はないだろう。


 奴隷施設活気で満ちさせたフルヤの力なら、この状況もどうにかなったのかな。でももういいか。パパと一緒に死ねるなら。もう疲れたし。サフランには申し訳ないことをしたな。

 そう思いながら、ナッカはゴッダに抱き着いて斬られる瞬間を待つ。


 他の奴隷たちはその状況を見守っていた。自分たちもすぐに殺処分されるのだろうと、この世に救いはないのだと絶望した。


 サフランは痛みで体が動かないが、泣きながらナッカたちを見ていた。誰か私たちを助けてくれないかな。いやこの施設にそんな人間がいるわけがない。二人が死んだら次は私だ。


 頭ではそう考えているが、サフランは救いを求めて小さく呟いた。この願いは叶わないと分かっていながらも。


 「誰か助けて…」


 次の瞬間。


 ドーーーーーーーン!!


 「えっ…!」


 ここから少し離れたところの地面が突如として爆ぜた。地下まで続く大穴が空いている。


 この場にいる全員が、何が起きたのだとその方向を見る。ナッカに斬りかかろうとしていた王子も手を止めてそちらに見入っている。


 一番最初にそれに気づいたのはサフランだった。


 「あれは…」


 大穴の真上に一人の男が浮いていた。左手に少女を抱えた少年。


 ジュウリとリーメルだ!

 どうやったのかは分からないが、地下から二人が戻ってきたんだ。


 次いでナッカもジュウリの姿を確認する。太陽の逆行を浴びながら宙に浮かぶその神々しい男を見て、二人はとっさに叫んでいた。


 「ジュウリ様!」 「フルヤ!」


 「「助けて!!」」


 次の瞬間、目にもとまらぬ速さで飛んできたジュウリが人狩りと王子を蹴っ飛ばした。


 「ぴぎゃっ!」

 「ぐぁっ!」


 王子は「ぎょっ!」と男爵も巻き込みながら、乗ってきた馬車に突っ込み大破させ、人狩りは詰まれた石ブロックに突っ込んで砕き割った。


 二人は胸がすく思いだ。他の奴隷たちも自分たちの敵を倒してくれる救世主が現れたのだと理解した。


 「生きててくれたんですね。それにまた助けてくれた…」

 「ありがとう… 助けてくれて」


 サフランとナッカは泣きながらジュウリに話しかける。


 「大丈夫か二人とも」


 このジュウリの言葉で今の一連の出来事をようやく理解した所長が叫んだ。


 「ど、奴隷の反乱だーーー!!」


 その声に即座に反応した騎士や看守たちが剣を抜く。


 ジュウリによる奴隷解放の戦いの火ぶたが切られた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る