第18話 魔素溜まりで絶体絶命

 「領主が来る… まさか私たちを処刑するなんてことはないですよね」


 「まさかな。だが王子も来るってのが気がかりだな」


 「貴族の考えてることなんて分からない」


 みんなもこの状況に動揺しているようだ。


 「とりあえず上に行きましょ…」


 ゴロゴロガシャーン!!


 そこまで言いかけたところで天井が崩れてきた。けが人はいないようだが、俺とリーメル、サフランとゴッダさんの間に壁ができてしまった。


 「二人とも大丈夫ですか!」


 「大丈夫だ!怪我はしてない!」


 「おいお前ら何をしてる!早く上に戻れ!」


 音を聞いた看守が引き返してきたようだ。


 「あの、天井が崩れて友達が奥に取り残されちゃったんですけど」


 「看守さん助けるのを手伝ってくれませんかい」


 「そんな奴隷の命より、領主様をお出迎えする方が重要だろ!お前らが遅れたら俺の評価に関わるかもしれないんだ。早く来い!」


 ひどい言いようだな。今日もサフラン達には”身体能力強化”と”攻撃・守備力強化”をかけているが、鞭で叩かれたら可哀そうだ。


 「サフランたちは先に行っててくれ。俺らは自分で抜け出して、すぐに後を追うから」


 「…分かりました」

 「気をつけてこいよ。連鎖して崩れることもあるから」


 そう言って二人の足音は遠ざかっていった。


 「よしリーメル。俺がこの岩を柔らかくするから一緒に掘っていってくれ… リーメル?」


 返事が聞こえないので振り向いてリーメルの様子を確認すると、呼吸を荒げて体調が悪そうにしている。


 「どうしたリーメル?体調が悪いのか?」


 「ケホッケホッ。頭が痛い」


 咳と頭痛か。風邪でも引いたのだろうか。栄養のある食事をちゃんと食べれていないし、屋外に設置された檻で寝ているからな。


 リーメルはそのままその場に座り込んでしまった。


 「おい、大丈夫か…」


 というかその症状ってもしかして…


 ここであることに気づく。リーメルが座り込んだ地面の横にさっきまではなかった穴ができているのだ。おそらくさっき天井が崩れた時に現れたのだろう。どうやら下に空間があり、そこと繋がっているようだ。


 いやな予感がするので、リーメルを抱えて離れようとしたが、直後にその穴が広がって俺たちは下の空間に落っこちてしまった。建物1階分ほどの高さしか落下しなかった上に、付与術で強化してあるのでケガはない。


 だがもっと重大な問題が発生した。


 「ケホッケホッ。これは… まずいな」


 俺もリーメルと同じ症状が出た。この頭痛はこの施設に来てすぐにも味わったことがある。初めての石堀りの最中に奥で魔素溜まりが出てきてしまったときだ。


 つまり今俺たちは魔素溜まりに落っこちてしまったのだ。魔素溜まりに突っ込んだ時の致死率は、ほぼ100パーセントである。


 「リーメル、大丈夫か…」


 返事はない。俺の意識も薄れていく。



◇ ◇ ◇ ◇


 

 サフランはゴッダと看守に続いて地下に出た。

 遠くには数百人の奴隷が整列させられて、土下座をしている。


 その横には大半の看守たちが立って整列しており、他の看守は奴隷の周囲を囲むように点々と配置されている。


 「お前たちも早く並ぶんだ」


 看守の指示に従って奴隷の列の最後尾に並ぶ。


 「あ、お父さんとサフランじゃない。あれ、フルヤとリーメルは?」


 ゴッダさんの隣にはナッカが座っていた。土下座したまま顔をこちらに向けている。こんなにたくさんの奴隷がいるのに隣になるなんて、すごい確率だ。


 「あんちゃんたちは地下が崩れて離れ離れになっちまってな。すぐに後を追うと言っていたんだが」


 「遅いですね… ジュウリ様の力ならすぐに抜け出せると思ったんですけど」


 「ねえそれって、魔素溜まりの被害にあってたりしないわよね」


 「そんな!」


 サフランは立ち上がって地下に戻ろうとする。

 だが看守がそれを許してくれなかった。


 「何をしてる貴様!もうすぐ領主様が来るんだ!大人しくしろ!」


 サフランは鞭で叩かれてしまった。

 だが諦めない。


 「友達が魔素溜まりの被害にあったかもしれないんです!助けにいかせてください」


 「お前ら奴隷の命なんて今はどうだっていいんだよ。そもそも魔素溜まりに遭遇したんなら、今さら助けに行っても手遅れだろうが。ほら早く座れ。領主様が見る場所を血で汚したくないんでな」


 サフランが頭が真っ白になった。ジュウリとリーメルが地下から戻ってこない。死んでしまったかもしれないのだ。

 今夜脱獄して一緒に遠くに行くという幸せな話を今朝までしていたというのに。


 サフランの目からは涙が流れてくる。スラムに住んでいた時も、ここで奴隷をしていたときも、ほとんど涙なんて流してこなかったというのに。


 「嬢ちゃんしっかりしろ。あんちゃんがそんな簡単に死ぬわけないだろ。きっと他のアクシデントがあったんだよ」


 ゴッダの慰めを聞いても、サフランの心は全く晴れない。

 こうなったら看守の制止を振り切って地下に戻ろうか。ジュウリとリーメルが死ぬのなら、私も魔素で死のう。


 そこまで考えて立ち上がろうとしたときに、この場全体の空気が変わった。


 領主が乗った馬車がこの広場に到着したのである。

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