第9話 奴隷施設での出会い

 鞭で打たれた痛みと魔素による頭痛を我慢して次の仕事へと向かう。しばらく歩くと横向きに地面に突き刺さった車輪が眼前に現れた。サイズは遊園地のメリーゴーランドくらいの大きさだろうか。それが二つ設置されている。


 車輪からは地面と水平に何本も棒が伸びており、その棒を奴隷たちが押して車輪を回転させている。

 次の俺の仕事はこの車輪回しに参加することのようだ。


 ザ・奴隷の仕事といった感じだな。たしかに奴隷って車輪を回してるイメージあるけど、一体何の意味があるんだ。まさか雰囲気のために設置されているわけではないだろうし。


 「なんですかこの珍妙な装置は…」


 「これは地下の魔素を吸収する装置だな。地下の魔素濃度を下げるために常にこの装置が回されている」


 ようは地下の空気を換気するための装置だったわけだ。たしかに魔素濃度を下げないと地下での作業が再開できないしな。


 ちなみにこの装置で回収された魔素は、地下の明かりや管理棟の冷房の魔道具なんかに使われるらしい。無駄がない。


 「押す場所が見当たらねえな。あんちゃんは右の車輪で空いてるスペースを探してきな。俺は左に行くから」


 すでに大勢の奴隷が来ており押せるスペースが見当たらないため、俺とゴッダさんは別れて探すことになった。


 傷の痛みに耐えながら押せるスペースを探して車輪の周りを歩いていると、横から「あの!」と声を掛けられた。


 振り返るとそこには二人の美少女がおり、こっちこっちと手を振っている。奴隷のボロキレ服を着て体中汚れているが、葵並みの美人であると見受けられる。歳は俺と同じくらいだろうか。


 だが人族ではないようだな。二人とも人間のものではない特徴的な耳を持っているのだ。長い薄緑の髪をした少女には長い耳が、青い前髪で片眼が隠れている少女には猫のような耳が生えていた。

 両方ともファンタジーではお約束の種族。エルフと獣人だろう。


 「お兄さん、ここが空いてるので一緒に押しましょう」


 エルフの少女が誘ってくれたので俺はそこで車輪回しをすることにした。近くで見るとますます美人だ。奴隷でまともに風呂も入っていないだろうに、花のような香りがする気もする。


 「ありがとう。スペースがなくて困ってたんだ。ちんたらしてたらまた看守に鞭で打たれるかもしれなかったし」


 「いえいえお気になさらず。それでその…」


 「私たちあなたに言いたいことがある」


 二人の少女が俺の顔を見つめている。何か用があって俺を呼び寄せたようだ。


 「なにか?」


 「えっと… あなたが落ち来てくれたおかげで私たちの命が助かりました!ありがとうございました!」


 「ありがとう」


 「俺が救った…?何の話?」


 「空から落ちてきたあなたが看守を倒してくれたんです。もうあの看守に殺されると思っていた時に、あなたという救世主が舞い降りてくれました」


 「神様が降臨したかと思った」


 落ちてきた俺が殺したという看守の被害者だったのか。

 空から自由落下したんだから舞い降りたなんて華々しい着地ではなかったと思うが、彼女たちにはそう見えたのだろうか。

 だが人を殺してしまったと看守に聞かされたときは動揺したが、それによってか弱い少女が救われていたのか。少し心が楽になったな。


 「その言葉で俺も救われたよ。ちなみに神様ではないけどね」


 「なんだ、神様じゃないのか。ちょっと残念」


 青髪の子は俺を本当に神様だと思っていたようだ。

 いや、緑髪の子も残念そうにしょんぼりした顔になっている。二人とも俺を神だと思っていたようだ。奴隷施設で働かされていたら、そりゃ神にも祈りたくなるわな。


 たしかにここは異世界だし、神様とかが実在して本当に降臨したとしても別に不思議ではないのかもしれない。


 「あれ、お兄さん怪我してるじゃないですか!鞭で打たれたんですか。今治してあげますね」


 緑髪のエルフの少女が俺に片手をかざすと、俺の傷が淡く光りだした。回復魔法の光だ。葵にやってもらったときもこんな感じだった気がする。


 「回復魔法使えるんだね」


 「少しだけですが…。助けてもらったお礼にせめてこれくらいは」


 鞭で打たれた痛みが引いていく。彼女の回復魔法の練度では完治までとはいかなかったが、さっきよりだいぶマシになった。

 魔素による頭痛には効かないようだが、こっちはすぐに自然回復するだろうから問題ないだろう。


 「ありがとう。おかげで痛みが和らいだよ」


 「…」


 なんだろう。お礼をしたのに特に返事が来ない。エルフの少女はもじもじしてるし、獣人の少女は俺の顔をじっと見ている。


 「あの、まだなにか?」


 「えと、名前… あんたの名前を教えてくれますか?」


 なんだ名前を聞きたかったのか。治療費でも要求してくるのかと思ってドキドキしたぞ。


 「俺はジュウリ。二人の名前は?」


 「ジュウリ様…。素敵な名前ですね!私の名前はサフランです」


 「私はリーメル。よろしくジュウリ」


 こうして俺は過酷な奴隷施設にて二人の美少女と知り合った。



 

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