14.ディアーリスポーンズ
アラームの音が重く頭に響く。
病院だここは。
「白田さん!」
「痛いって!」
俺に思いっきり抱き着いたのはフェリアさんだった。ナースコールを押して俺が起きた事を知らせる。
「ここは幽界?それとも天国ですか?」
「幽界ですわ、おはようございます」
話を聞いた限りでは、俺は丸1日眠っていたそうだ。
ぐっすりである!
「よう柚希ちゃんちょっと待ってな、光のやつが遅れちまってよ」
「ドラグナさん!」
「抱き着くなよ気持ちわりいな!」
藤野さんとライトさんがトロフィーを運んできた。でっか!
バン!とドアの上にぶつかる。それをみて笑いが止まらない俺とドラグナさん。慌てる藤野さんの表情が目に入ってさらにツボにはいる。
「優勝おめでとうございます!」
「いやいや逆だよ、優勝おめでとう柚希ちゃん。あと無事に目覚まして良かったな」
優勝したのだ。あんな馬鹿でかいトロフィーをわざわざここまで運んできたのか。よっぽど俺に見せたかったのだろう。
トロフィーには、【NA:FL SEA:1st アビスハイウェイ】と彫られている。
「試合は?あの後どうなったんですか?」
ドラグナさんが緊急助っ人に来た後、ライトさんフェリアさんたちと協力して徹底的にアブソルゼロという選手を潰しにかかったらしい。
ベテランリザーブの師匠と呼んでる人がフェイクをかけたりして、陣形を乱しながらブラストを潰し続けると。DSRと高額のショットガンを購入しつづけなくてはならない、コバルトクロウのエースゼロの資金枯渇が始まり、そこから一気に形勢逆転したそうだ。
「それとな、コバルトクロウは薬をやってたらしい。チームのリザーブの告発と伊佐木の関係者の供述から明らかになったが、検査反応をすり抜ける新薬をつかっていたんだ」
「なるほど、どうりでなんか血の気が多いと」
「監督とドーピングしていた選手、裏金で動いていた運営連中も全員捕まって地獄行きだそうだ」
「まあドラグナさんとわたくしにかかればあんな奴コテンパンでしたわ!」
「うちもがんばったんやで」
ドラグナさんは二重エントリーの為、賞金や戦績に反映されることはなかったらしいが、トウフさんからそれなりの菓子折り貰ってまんざらでもなかった様子だった。祝杯をチームハウスであげたのだが、ドラグナさんは遠慮していて俺が無理やり引っぱって中に入れて祝勝パーティーとTRPGをした。
今度はライトさんとも一緒にやったが、イカサマ投げとかしないと割と理不尽な賽の目を引くもんである。
まあでも、それがなんか楽しいというか。
そしてみんなで一緒に屋上で写真を撮った。
「そうだ、勲章授与式が明後日あってな」
会場は思ったよりちゃんとしている。
ドレスコードこれでよかったのだろうか?ゴスロリ服はやばいんじゃないか?
「凶悪な麻薬組織相手を勇気を奮って掃討した次の者たちに栄誉を捧げるものとする。藤野梅警視監」
一際藤野さんは奇麗でクールだった。
「白田柚希、一日警察署長」
俺が勲章をゴスロリ服につけてみせると、会場に笑いが起きた。わりと気分は悪くない。
式が終わった後、口座には莫大な額の霊貨が振り込まれており、優勝賞金の分け前と懸賞金の……名前はなんだったか。いちいち殺した相手の名前なんてどうでもいいだろう。FPSプレイヤーが覚えるのは自分より強い奴の名前だけだ。
ちなみに、藤野さんとトウフさんは昇進したらしく、とてもお二方嬉しそうにしていた。
そして藤野さんから、俺がこの世界へ来たに時説教されていたあの一室で、なんとか氷獄から奪い取ったというムギさんから俺宛の荷物が届けられる。
「よかったら私にもみせてくれ」
それは一枚のきらびやかな金の刺繍が入った黒い封筒だった。
金の蝋でおされたしっかりとした封を丁寧に開けると、ムギさんの直筆と思われる手紙が入っていた。至極達筆である。
「それ特注らしいぞ」
--------
『柚希さんへ』
猫が手紙を書くなんてびっくりしてるだろうけど、ぼくは字を学びました。日本語はとても難しかったですが、この世界を人間が定ぎするとしたら冥界にあたるんでしょうか。冥界はとてもきびしい所でしたがぼくはここでもうしばらくはたらけば転生というものができるみたいです。
初めは天国行きをすすめられましたが、見学してもみんなあまり楽しそうには見えませんでした。
人間はみんな悪いから沢山の人が地ごくへ行くそうです。だけど人間がみんな悪いなんてぼくはそう思いません。
亡くなって冥界に来てから知った事なんですが、ぼくの医りょう費と呼ばれる物のために、いつもずっと家にいる柚希さんが一生懸命働いていた姿や、自分で買ったゲームやパソコンを売ったりしている光景をガイドさんに特別に見せてもらったりしました。
最近はどの仕事も研修中のうちにやめてしまったりしていた柚希さんが、ぼくのためにいつもよりがんばって働いているのを観て、そのお礼をしたいと想ってこの日の為に特別なチケットを用意しておいたのでぜひ使ってください、必要がなければ換金できるので。またお会いできる事を楽しみにしています。
ではぼくは、お先に失礼します。
追伸 毎日の注射は確かにきらいだったけど、そのおかげで少しだけみんなと過ごす時間が増えて、今思えばとてもそれが幸せでした。
ありがとう柚希さん。
『むぎより』
--------
封筒に同梱されていたもうひとつの代物は1枚の小さな紙きれというには上等な作りだった。黒く少し厚みのある紙に手紙と同じ金色の字で『地獄発▶現世行き』と書かれ、下の方に心停止しない限り有効と記されている。
「読んでいいですよ」
「ああいや、やっぱり無粋だ。やめておく」
例えばかっこいい主人公というのは、恋人を救う為に何度でも這い上がったり、弱い者を護る為に戦い続けて、時には自分の運命すら切り開いていく絶対負けない正義のヒーローなのだろう。
俺は……そうだ、掴んだ幸運を無くしてしまわない為に。
深呼吸をすると、世界がまた色濃く鮮やかに、くっきりと見える。
「私が地獄まで案内してやろう」
「その前に1ついいですかね」
地獄がどんなところかというと、発電所と刑務所が合体したような場所だった。囚人がエアロバイクみたいなので必死に電力発電するらしい。
ここは地獄でも、結構いいところらしく新幹線が通っており、そこから乗り継ぎして現世の肉体へと帰る事ができるそうだ。
なぜ地獄にあるのかというと、刑期満了した囚人が粗悪な世界へ落とされる為にあるそうだ。
「白田さん、楽しかったですわ!」
もうフェリアさんは泣いていない。だけど、ついさっきまで泣いていたのだろう、目の周りが赤くなっている。
「すぐにもどってきたらあかんで」
ライトさんは配信者に再び転向するそうだ、なんでも決勝戦での最終ラウンドで俺が考えたイカサマ投げグレネードで1v4クラッチをかまし。そのおかげでセカンドブレイクしそうなくらい今幽界ではホットらしい。
「お前なら上手くやれるぜ、勝ち逃げなんてズルしやがってよ」
ドラグナさんは渋谷サムライドッグスで再びSEAにエントリーするそうだ。彼女の目は以前にも増して灯りがともっている。
「白田、お前最高にかっこよかったぞ」
藤野さんは笑顔が増えた。なんでも恋人を探し始めたそうで俺でも若干メイクに気合が入ってるってわかるぐらいだ。
みんな活き活きとしている。
俺は、俺は生き返ったら。俺は、逆戻りしてしまうのだろうか。
アビスのみんなに綴った手紙を渡す。本当はリザーブの師匠にも渡したかったのだが、誰にも言わずにもう転生してしまったらしい。クールな助っ人である。
涙があふれて止まらないのだ。新幹線が止まる。
「ありがとうございました、お先に失礼します」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます