12.セーブミー
署から持ち出した装備は防弾ベスト2着だった。
藤野さんはエントランスのガラスケースをかち割って、中のウィンチェスターショットガンを取り出す。ご丁寧に弾丸がシェルベルトに入ったままである。
「ちょっと何してるの⁉」
「緊急要請でな、さっさと行くぞ白田」
騒ぎの中ウラルに乗り込んで逃げるように走り出す。
「天国ってどうやって行くんですか?」
「高速道を進めばそこにある、天国区だ」
なんだそれは、しょうもない。なんかもっと天使とかが出てきて階段とか登るのかと思っていた。
後続車の車間距離がやけ近い、いやぶつけてくるつもりだ。
「後ろ!」
舵を切って衝突を躱すと、車窓をあけた向こうにいるトンプソンを持った、顔面入れ墨野郎と目が合う。
「応戦しろ白田!死ぬぞ!」
加速するウラルをかすめるトンプソンの弾。
左腕に被弾してしまい血が流れだす。
まずいぞ、ウィンチェスターはレバーアクションだ。
サイドカーにマウントして片腕でコッキングしながら運転手を射撃した。だが防弾ガラスのようで、弾丸は貫通しない。
「防弾ガラスでどうしようもないです!」
「砲弾カラスがトーシローまな板?」
そんなボケいらないから!なんだこの人、天然かよ。コーヒーショップで働くのは藤野さんには無理そうである。
「ぼうだんガラス!」
「開いた窓に撃ち込んでやれ」
「あの、殺人とかで逮捕されないですよね?」
人を殺したくなんてない、震えだす俺の指先。
「懸賞かかってるやつらだから寧ろ金貰えるぞ」
ブレーキを踏んだウラルを追い越すように射線がピタリと合わさった。外さない。
中の奴らは散弾で一網打尽だった、後部座席も人は乗ってなかったのでクリアである。
「よく知ってたなウィンチェスターの使い方」
「僕がよくゲームで使ってましたから」
「そうか、だからか。それはムギ警視総監が遺した記念品みたいな銃だ」
ムギさんが遺してくれたのか、これを……。
ウラルが止まる、ここなんだろう麻薬シンジケートのアジトは。
「あの顔を覚えているか、お前が自分に似ていると言っていた奴の顔だ」
「はい」
「あいつが伊佐木仁。ようはハイバリューターゲットだ。殺しても構わん」
「わかりました!」
「白田、なんか元気だな。声がいつもと違うぞ」
「そうですか?」
「人を殺して嬉しそうにしてるやつは初めて見たよ」
照れ笑いしてしまう。
「私がウィンチェスターを使うから、リボルバーはお前が持っていろ。あと裏口でお前は待っていてくれ、私が正面から制圧する」
「一緒に行った方がよくないですか?」
「怖いんだよ!FFされるのが」
なんか悲しい、俺がそんな事する訳ないのに。
「あと気をつけろよ、天国で寝るとやばい事になる」
「どんな事になるんですか?」
「知らなくていい」
指示通り、裏口で待つ俺。
窓を割って侵入する藤野さん。ドアからじゃないのか。
銃声が聞こえる、ウィンチェスターの音しか聞こえなかった。
俺はここで待っているだけなのか?いや、挟撃だ。シンプルイズベスト、行くべきだ。
一階の避難ルートを塞ぐ形、そうだライトさんがいつもやっていた役割だ。ずっと盗もうと何度も彼女のリプレイを観ていた。
ゆっくりと裏口のドアを開ける。
高価そうな絵画が壁に並んでいる、汚い金で芸術品を買うなよ。
足音を殺して周囲の気配を探る。
物音は二階だ、この建物は二階建てで屋上はない。
一階の階段が1しかないならそこを抑えればいい。
角をでようとした瞬間に突き当たりがハチの巣になる。
「僕ですよ!白田です‼」
「大声をだすな」
「階段はいくつあります?」
「1つだけだ、通路は片道だったか?」
「はい、僕は階段を抑えます、必要ならカバーもします」
「私を撃ったら訴えるからな」
「撃ちませんよ」
ゆっくりと階段を上がる藤野さんをカバーするように、角にリボルバーをマウントする。
「いるぞ右だ!」
瞬間顔と銃を出す敵に1発弾をめり込ませる。そのまま急いで駆け上がる藤野さんを追うように続く。
とどめを刺す藤野さん。銃声が鳴ってから右側の部屋から気配がした。
「左にもいる可能性がある、左を抑えてくれ」
「了解」
左に足を運ぶと、恐らくはシャワールームとその反対にリビングが広がっていた。電気は付いている。
心臓がはじけそうになる。ショルダーピークなんて使えない、木造だと弾が貫通してきそうだ。
スマホの内側カメラを使ってリビングの様子をうかがう。藤野さんのほうでドアを蹴破るような音が聞こえた。
同時にやたらめったに俺の隠れている壁に乱射が始まる。
こっちの相手は1人だろうが、武器の銃声がなんかおかしい。セミオートなのに壁に開いた穴はウィンチェスターのようだ。
オートマチックショットガンか?トンプソンでも不利なのに。
「藤野さん‼サイガかなんか持ってます!」
大声で叫ぶと、壁にまた連射が始まる。急いでシャワールームに逃げ込む。
足音が近づいてくる、この歩幅、藤野さんのものではない。
ドアを閉める。シャワールームには鍵がある。
「おい腰抜け野郎‼殺してみろよ」
それ聞いてリビングからシャワールームへとたどり着く足音。
俺は仰向けになり寝そべるような姿勢でドアに向かってリボルバーを構える。
震えているのか俺の手は。でも不思議と恐怖よりか実銃を本物の人間に撃てるのが楽しみでならない。
震えが止まる。
3発ドアに射撃が入り、半壊するドア。
敵のシルエットは頭の中でどこにいるか、ウォールハックのように浮かび上がる。ここだ!
2発撃ちこむと、ドア越しの相手は呻きを漏らした。
ドアを開けて、手から離れたサイガを蹴って銃口をハイバリューターゲットに向ける。やっぱり俺に……似てないな。
「残念だったなシャワーから出てきたのが男で」
「助けてくれ……俺は、天国で静かに暮ら──
2発は腹部、残りは左胸と最後のは頭に撃ち込んで黙らせてやった。
不思議と高揚感が湧き上がってくる。人を殺すのって割と楽しいじゃないか。サイガを手に取って藤野さんの援護へと向かう。
「藤野さん!そっちへ向かいます」
「こっちは厄介だ」
右方面は開けたシアタールームみたいだが、入り口に近づこうとすると威嚇射撃が始まって中に入れない。
「悪い奴は仕留めました」
「伊佐木か」
「はい」
「すでに応援を要請したが、どうする?」
「自分はこれありますよ」
オートマチックショットガンを見せると、藤野さんは階段の方を指さした。
穴だ、ショットガンで穴をあけてクロスを組むんだ、言わなくてもわかる。
足音を殺して、階段へと向かいフルオート射撃で穴をあける。意外とサイガの反動はおとなしい。
すかさず、藤野さんがウィンチェスターで1人しとめるが、穴の隙間から思いっきり何発か貰ってしまった。トンプソンだ。
大丈夫だ、ひどく痛むが……防弾ベストを着用している。
大丈夫だ、大丈夫なはずだ。耳が、世界が遠くなる。
色褪せていって、痛い。
ウィンチェスターの発砲が聞こえた。
「クリア!」
急いでこちらに駆け付けてくれる藤野さん、かっこいい。ヒーローみたいだ、最初はなんだこの偉そうな女なんて思ったけど。今や俺の憧れの人だ。
「しっかりしろ白田!止血する‼今救急を呼ぶからな」
なんで泣いてるんだ藤野さん。
勝ったんだ俺たちは。試合はどうなったのだろうか……少し心配だが、ドラグナさんがいるのだ。きっとなんとかしてくれているだろう。
ああ、今やっとわかったよ死にたくないとかじゃない、生まれ変わりたいんだ俺は。
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