8.フォワードアシスト

 空爆なんてすぐに出来るものじゃないし、時間がかかるので防衛サイドのリテイクを仮想して、どうエリアの主導権を握り、広げていくかと各第一志望のヒーローの特性を研究しあう。

 俺のピックしたスノウブラックは、防具の購入費用を抑えたり、値段は張るが強化ボディーアーマーをチーム全員が購入できるなど、シンプルなバフ系のユーティリティが目立つ。

 だが、これはなんだ?

 

「対空ドローン用のタレットか、役にたちそうかそれ?死にスキルやない?」

 ライトさんの言うとりかもしれないが、カバーに使えそうである。とりあえずいろんな場所に設置できるのか、上に乗って段差のように使ってショートカットできるエリア等があるのか探さなければならない。

「あかん、乗られへんやんけ!これ精々爆弾の近くに置いてカバーにしながら設置解除ぐらいやで」

「ここはどうですの?この自動ドア」

 近づく時のみセンサーで開く自動ドアにタレットを置くとドアは開いたままだった。

「これ射線通るから、相手からしたら不意打ちの死角になりませんの?」

「割と細かい使い方が出来るかもしれませんね」

 タレットはカバー寄りの性能で、耐久値はほとんどないが一時的にグレネードの爆風もしのげるみたいだ。どっちかというと、グレの回避手段なんかに使うのがベターだろう。

「あれ?なんかグレの軌道おかしくないですか?」

「なんや?確かになんか重心がズレてるような回転やな」

 下り坂にアンダースローで転がすと、途中で止まる。

「レシーバーに判定があるんだこれ」

「取っ手のことですの?」

 1つ発見をした事はグレネードの判定処理が球体じゃないという事だった。


「めずらしいですわ、サイドスローがありますわよ」

「サイドスロー?」

 確かにサイドスローっぽい投げ方をするな……無駄に細かい。

「そろそろいっとくか?」


 マッチングはスムーズである。まあリリース初日にしなかったら……もうそれは。

 相手チームもにたようなヒーロー構成だった。デュフェンダー2にフレックスっぽい役が1、あとアタッカー系のヒーロー。

「アイスは何が得意武器なんや?」

「ARですかね?」

「アイスさんのARはドラグナさんに負けてましたわ」

「おいおい嘘やろ、じゃあSRとったんか⁉観たかったなあ」

 

 プロが2人もいるので、振り分け戦なんて正直試合にもならなかった。

 圧倒である。

 ライトさんの動きはラーカーに近く、かなり上級者の立ち回りでマップの中央やシフトで使いそうな狭い通路などを占領したり、ハイドしたりして敵を分断させるような立ち回りをしていた。野良だと一番厄介な相手だし、情報共有も的確で素早い。俺にない連携力を持っている。

 この人から盗まなければならない。

 フェリアさんは性格に似合わず室内戦とミドルレンジの制圧が上手い。十中八九この人が室内に入ってしまったら野良ではリテイクなんて不可能だ。


「あ!ブラストですわ‼なんかこういうミラーマッチだとプライドをへし折らないと気がすみませんのわたくし」

 ブラストはショットガンをサイドアームに選択できるヒーローだが、このゲームのショットガンは格闘武器に近い性質を持っている。


「フラッシュの使い方を教えてやりますわ!」

「ずいぶん張り切っとるな、ええやん!もっとやれ!」

 しかし、射程2m内でほぼ全弾頭に当てないとキルできないショットガンをよくもあんな簡単に扱えるよなあ。

 アブソルゼロという名前のブラスト使いの人は対面でボコボコにされ続ける。

 ライトさんが、敵のフォーメーションをあらかじめ掴んで、そのポジションの弱い場所をフェリアさんが突き続けている。野良だとスイッチング対応するのも難しいだろう。こういうゲームではボイスチャットをオフにしてやる人もいるし、当然汚い言葉も飛んでくるので、それを非難するいわれはない。

 俺がソロ専だったのも、対戦ゲームの民度の低さに起因している。

 このゲームはサブアカウントの作成が有料なので、若干ではあるが暴言などでペナルティ食らわないように気を付けるやからもいるだろう。


 2戦目は完封だった。

 しかしアブソルゼロさんは全体チャットで、FK this gameと打っていた。暴言を吐いたり、態度の悪いプレイヤーがいるとそいつと協力したり、勝つ意欲がそがれる。これはプロでも同じであり、態度の悪いやつは風のうわさで配信界隈まで耳に入る。

 この2人、いやアビスのチーム全員は心配なさそうだ。


「あ!またあのブラストですわ!」

 マジかよ、可哀想に。

 リテイクの仮想練習なんか必要なく、爆弾を無視した狩りが始まる。

 3戦目もなんとかゼロという名前のブラストを集中的に攻めて圧倒したが、ブラストが試合放棄して離脱し、敵チーム降参という形になった。

 アンインストールするんだろうなあ。

 

 その後も連勝を重ね、ついにランク振り分けが終了する。

 一番恐れていたドラグナスケアペアと当たらなくてラッキーと思ってしまった。風呂掃除は嫌だ。

「お前たちも終わったんだな」


 スケアクロウ:ダイアモンド2300P。

 ドラグナ:ダイアモンド2160P。

 フェリア:プラチナ1920P。

 ライトニング:プラチナ1580P。

 アイスハート:ゴールド1220P。


 あ?おいおいおいおい、掃除じゃん俺。

「気にすんな。柚希ちゃんのキャラは強さが数字に出るタイプじゃねえよ」

「まあ確かにドラグナの言う通りだな、風呂掃除の件はなかったことにしよう」

「いいんですか⁉」

「まあ、数字で強さなんて判断できんからなあ」

「わたくしが最下位だと思ってましたわ、よかった」

「交流戦はどうすんだよ?アタシはオブザーバーでもいいぜ」

「そこまで言うのなら任せよう、特に相手のヒーローのシナジーや、キラーピックを探してくれ」

「了解」

 しかし交流戦の相手はなかなか決まらなかった。


 ライトさんにコーヒーを淹れてもらう、コーヒーはやはりブラックが一番いい。

「そういえばめちゃくちゃいいモニターですよねこれ」

「ああ、スポンサー様の奴やからなあ、オフでも多分使われるでこれが」

 めっちゃいいなあ、なんかこういう会話に憧れてたんだよなあ。

「ライトさんってめちゃくちゃ上手いですよね、報告もちゃんとしてるし」

「あたりまえやろ、プロやぞ」

「すみません」

「でもなあプロいうても、実はうちちょっと炎上してもうてなあ。スケアさんにアビスやめる言うたんやけど、そんとき必死に引き止めてくれてなあ」

「なんで炎上したんですか?」

 ライトさんは苦笑いしながら「それ聞くんか?」と答えた。

 気になるし、地雷ワードがあるかもしれないから聞くべきだ。いや、でも本人が結構気にしてるからダメなのかな?うーん、悩みどころではあるが結構フランクな人なので踏み込んでみよう。


「聞きたいです」

 肩を落として大きく天井を見上げると彼女は、暗い顔をして当時の出来事を話してくれた。

「まあ、人種差別発言でなあ。そん時はイライラしてたし何回も中国のチーターにスナイプされたからつい言うてもうたんや」

 うわあ、よく首飛ばなかったしスポンサー離れなかったな。

「スポンサー離れなくてよかったじゃないですか」

「いや2社離れたんよ」

 座ったままライトさんは泣き崩れてしまった。

 彼女からすると当時の出来事がフラッシュバックするのだろう。まるでその時を再び体験するように記憶が蘇ってしまうのだ。

 背中を撫でて大丈夫ですよというが、あまりうまく慰められない。


「おい!何をしている白田!」

 まってくださいよ!これなんか既視感ありますって!

 

「まだ気にしていたのかライト」

「だって……だって」

「誰でもあんなしつこくストーカーされたら嫌な気分になる。私はお前の発言は確かに間違っていたと思うが、不可抗力みたいなものだからそこまで気にするな」

「ほんとすんませんスケアさん……」

「謝らなくていい、お前は誰よりも練習してきただろう。そんな事で辞めるのはもったいないんだ。反省して、態度を改めれば周りの目も変わってくる」

「うちは……みんなに迷惑かけてまうのいやなんです」

「迷惑な訳あるか、迷惑な奴というのは頑張ってる人の足を引っ張るような奴の事だ。ライトはそんな奴らとは違うんだ、チームの事は気にするな」

 何回もライトさんはこうやって泣いているのだろう。独りの時もきっと。すこし考え無しに炎上事を聞いてしまった……もっと軽い物だと思ったが、本人はチームに火の粉がかかってしまって、それをかなり気にしていて……ここにいずらいのだろう。

「そうだった……交流戦の相手が決まったぞ」

「なんてチームですか?」

「コバルトクロウだ、最近できたてのチームだがスポンサーが1社ついている」


 そうか、セミプロと言ってもアビスの選手はトッププロに近い実力を持つ人たちばかりだ。練習相手がなかなかみつからなかったのだろう。強いチームと戦う事を実力差のあまり敬遠してしまうチームは多い。

 

「練習にならないですわ!さっき2回も戦いましたもの」

 相手チームには振り分け戦の時、ボコボコにしたアブソルゼロさんがいたのだ、なんか気まずいぞ。

「じゃあわかってるんだな。交流戦であり、リベンジマッチな訳だ!本気でかかれ」


「おいライト、アイスはどんな感じだった」

「撃ち合いはどのレンジでもバケモンやわ、ただ報告遅いのが現状最大の改善すべき点やな」

「他には?」

「欠点は報告くらいや、組んだことないのにカバーも早いし言う前からこっちのしたい事理解しとるから正直ドラグナさん級やと思うよ」

「ロールはディフェンダーを任せたいんだが、みんなはどう思う?」

「アタシはフレックスが最適役だと思うけどな」

「わたくしもドラグナさんに賛成です」

「うちはなんとも言えんかな、自分から攻めるような戦い方はしとらんかったし、性格面でいうとサイト内ディフェンダーで各マップのリテイクエンター兼任がええと思う」

「お前自身はどうなんだアイス」

「どっちでも……」

「おいおい、ふざけてんじゃねえぞアイス、フレックスだよなあ⁉」

「いいやこいつは考えて動くタイプだから、アタッカーには向かない」

「ああ⁉観てなかったとは言わせねえ、アタシに勝ったんだぞ」

 なんかドラグナさん偉そうじゃない?負けたのになんか自信満々だ。

「じゃあ両方やります!メインがディフェンダーで、フレックスも時々やる感じでいいです」

「うちはそれがええと思うよ」

「まあ本人がいうならよしとしないかドラグナ」

「そうだな」


 コバルトクロウ対アビスハイウェイの交流試合が始まる。

 こちらが設置側でエンターはスケアさんでシンプルにサイト内ラッシュから各自クロスを組んで防衛するという作戦だ。

「アイスのキャラ、スノウブラックだったか。組んでみると割と強いな」

「同感やで、ベストとメットが安くなるのは強い。逆に言うと攻撃系スキルないのが欠点やろうな」

 シンプルイズベストだ、ウルフに少し似ている気がする。


「私がコンタクトするまで仕掛けないでほしい」

「了解」


 一瞬の攻防、電撃戦なんて物ではなくワンショットでスケアさんが敵を落とす。

「コンタクト‼S字クリア」

「ミッドからもう足音聞こえるで2人やから、サイト内1人未満や」

 やっぱりそうか、ライトさんは情報戦に徹している感じのプレイヤーだ。単独で動き回れるのも、ある程度敵のフォーメーションが見えているんだ。


「マーケットはわたくしが押さえます!」

「そこは混むから時間だけ稼いで、後退しつつ迎撃もしてくれると助かる」

 報告が上手くできないというか、全部この人たちに任せているような感じだ。何かしないと!

「ロング抑えます!」

 

 ドン!とショットガンの音がしてログが流れる。

 フェリアさんがアブソルゼロさんを倒したのだろう。

「サイト内クリアや!」

「設置にはいる」

「マーケット2人入りました!」

「了解ですわ!」

 フェリアさんも強いな、というかフェリアさんがゼロさんに勝てるという事前情報をとっていたのが大きいだろう。

 室内戦でフェリアさんがいるエリアを制圧できる訳もなく相手チームはラウンドを落とす。

 

「資金潤沢だな」

「わたくしがアイスさんのドラグノフ買いますわ」

「ありがとうございます」

「次はミッドからマーケットをとるぞ、SRが買える金額だから敵は出てきずらい。マーケットのエントリーはフェリアに任せる、私はT字を抑える」

「うちはさっきのフェイクいれるで」

 俺は何したらいいんだ、何も思いつかない。

「あの、僕は何したらいいんですか?」

「ミッドのロングを抑えろ、ドラグノフにしかできない、あと一応だが動きがない時は裏も警戒してくれ」

「了解」

 お、怒られるかと思ってドキドキしたけど聞いてよかった。


 無常にも第一ラウンドを落とした場合、第二ラウンドも落とす場合が多い。この手のゲームでは勝利したチームのほうが資金面で有利になっていく、通称マネーシステムの深みだ。当たり前のように第二ラウンドも問題なく先取する。

「なんか変な感じやで、さっきからシフト狩りが上手くいかん」

「セカンドラウンドはそんなもんだ」


「次はBサイトにいくが、相手はフルバイだろう。Bサイトまでの通路はL字でロングというラッシュに向かないサイトだ。だがなんとかして撃ち勝てアイス」

「うちはミッドから攻めてみる」

「了解」

 スナイパーでエントリーするのってこんな緊張するのか!ドラグナさんならどうやって鼓動を沈めてるんだろう。

 入ろうとしたタイミングでフラッシュが飛んできて、視線をそらして直撃を回避すると目の前には4人全員が突っ込んできた。

 一瞬の決着。

 素早くカバーに入ったスケアさんのAKMで2人、俺のドラグノフのヘッドショットで2人奇麗にログが並ぶ。


「タイムだ、ちょっと話がある藤野先輩」

「なんだ、手短にな」

「敵の配置が明らかにおかしいぜ」

「それはうちも思ってた、1人もシフトでうちのところけえへんもん」

「どういうことだ?」

「言いたくないんだが、その……相手の監督がゴースティングしてんじゃねえかって疑ってるんだアタシは」

「なるほどな、フルバイで1サイトしか守らず、しかもカウンターラッシュのような作戦をとってきたのも頷ける」

「どうするんですの?」

 結局試合は続行する事になり、なんの問題もなく勝利したが明らかにこちらの動きを読んで、いや観ているような動きだった。怪しいが、どうするんだこれ。

「一応試合の再現観るだろ?」

「ああ、頼む」

 明らかに不自然な防衛のフォーメーションだった。常にボムのキャリアーのサイドに選手が多くさかれており、ミッドに潜んでいたライトさんの場所は1人も通ることなく、またフェリアさんが潜伏している場所も事前に知っているような移動をみせている。

「悪質ですね相手のスポンサーに報告したほうがいいんじゃないですか?」

「やめろアイス、こういうのは放っておくんだ」

「そうだぜ、揉め事になるのは避けるのがプロだ」

「まあわたくしたちが勝ちましたし!」

 フェリアさんはうっきうきである。よほどミラーマッチで全勝したのが嬉しいのだろう。


「もう夜遅いな、泊まるのかドラグナ」

「片づけはもう終わってるよ、柚希ちゃんが使っていいぜ」

 なんの話だろうか?

「言ってなかったな、アタシはもう他のチームに移籍してるんだよ」

「え⁉嘘でしょう?」

 

「本当だ、楽しかったよ波」

「沢山世話になった、ありがとう藤野先輩」

 そういって2人が抱き合うと、フェリアさんとライトさんも続いた。

 俺も入りたいが、入ったらなんかダメな気がする。


「柚希ちゃん!今のところアタシの負けだ、だけど次は負けないぜ。SEAで待ってるからな」

「SEAってなんですか?」

「お前、そんな事も知らねえでプロになるつもりなのかよ」

「まあわかるやろ、デカい大会やで」


 差し出されたドラグナさんの握手に応える。

「まあ柚希ちゃんなら案外優勝しちまうかもな」

 そう笑って彼女はチームメンバーに手厚く見送られた。

「そういえば、藤野さんグレネードなんですけど」

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