7.ブルーゲート

 ----アイス----

 種族『ゴブリン』

 クラス『スワッシュツインズ』

 技能『トラッキング』

 先天『いなし』

 性格『冷静沈着』

 

 生命力【80】

 マナ【30】

 精神力【50】

 筋力【8】

 耐久【5】

 器用【13】

 感覚【10】

 知力【8】

 意思【10】

 魔力【3】

 魅力【14】

 速度【13】

 運勢【2】

 --------

 

「終わったな柚希ちゃんラックが2なんて見た事ねえ」

「まあ所詮は数字ですもの、気にする事はありませんわ」

 ソファーの横から、ゴスロリの時の子が抱き着くように俺に近づいてくる。やばい!俺にはウドンXさんという心に決めた人がいるのに‼いい匂いもするし、ノックダウンしそうだ。

 

 何が始まったのかというとTRPGというのが始まったらしい。やるのは初めてで能力値とか処理もろもろはダイスで決める。ほんとはみんな新作のニューエイジをしたいのだが、新人歓迎はTRPGというのがアビスハイウェイ流だそうだ。

 なんでもその人の性格とか行動指針をはかるのに丁度いいらしく、これでトークスキルとコミュニケーションでの問題点を洗い出してタレントととしての才も測る。しかもこれでロールが決まるとか決まらないとか。

 田舎の学校の卒業生たちがゲート探索者登録する為、王都で登録をしている設定らしい。


 ここは異世界。

 王都の中の酒場で、友達全員がゲート探索者試験に受かった事を喜ぶ為に祝杯を挙げる。

 この緑のちっさいのはフェリア。

 クラスはシェイプシフター、要はカマキリである。

 この黄色い人型のロボットはドラグナ。

 アンドロイドでクラスはバッター。要は金属の不良である。

 俺はゴブリン。チビである。

「みんながゲート探索者になれたんだ!乾杯だぜ‼」

「いぇーい」

「まあアタシが一番強いけどな!」

 ジョッキを鳴らしてこぼれそうになる泡を流し込む。

 

「あいつら、場違いだって気付かないのかな?」

 そう漏らしたのは隣の席の聖デュエロ学園で、同じクラスだったいわばエリートたちだ。やつらのチーム名は『ジェットイーグル』研修で評判のよかった世間が期待する一党である。

「あの補欠がゲート探索者?笑える。枕したんだろうな」

「枕も、何もカマキリだろう?でも補欠の癖に張り切ってるのは……」

 隣の席で大笑いが起こる。それを聞いてため息をつくフェリア。

「気にすんなよあんなの、フェリアは誰よりも大きくなれるように頑張ってきの、アタシは知ってるぜ」

「ちょっとドラグナさん、呑んじゃだめですよ。サビちゃう」

「うるせぇんだよチビ。こういう時にしか呑めないんだから邪魔すんな」

 フェリアは掴んだジョッキが滑るようでよろけて中身を全部ぶちまけてしまった。

 

「とろくさ」

 そのイーグルの一言でどっと隣の席が湧くと同時にスタッフがやってきて、雑巾で濡れた床を拭う。

「すみませんですわ!わたくしもお手伝いします」

 俺もフェリアと一緒に床を拭くのを手伝おうとするとスタッフに断られる。


「おい、デュエロ学園がなくなるらしい!イーグルのみんな手伝ってくれ!」

「どういう事だ?」

 隣の席のジェットイーグルに伝えられた報告を盗み聞きする。

「学園の近くにゲートが出来たらしくて、しかもフローしちまってるらしい」

「知るかよそんな事、慈善団体じゃないんだから他をあたればいいだろ」

「お前たちだって知ってるだろう、デュエロ学園は地方都市だ、そんなところにすぐに救助に向かうゲート探索者なんて……」


 残りのエールを一気に流し込み当たり前の事を尋ねる。

「行きますよね?」

「たりめーだろ」

「はい!」


 馬車を借りて街道を突っ走り、ゲートまで向かった俺たち。ゲートの色を見て驚く。

「ブルーじゃないか」

「当たり前だろう」

 ナッシャーに荒らされたのか、戦闘の傷跡が畑にまで及んでおりすでに近隣住民は避難していた。

「いくのかよ、本当に?」

「こわいんですか?ドラグナさんは」

「ん、んな訳あるか!」

 保証などどこにもない。あくまでも国がゲート探索をしろと命じてるわけではない為にそんな都合のいい物は存在しない。

 

「デューサー着けてるか?」

「二人とも大丈夫だよ」

 鈍いゲートの通過音と共に、いきなりドラグナが爬虫類型のナッシャーに襲われる。とっさに首を庇って腕で防いだが……ドラグナさんは依然のしかかられていてまずい状況だ。

 だめだ、俺の足が動かない。

 魔法も使えないし、短剣じゃこの分厚い鱗に刃は刺さらない。

「あぁっ‼クソったれ」

 友達じゃないか、ドラグナは。何をじっと観てるんだ俺は‼。

 やっとのごとくうごいた足、ナイフで目を突き刺してナッシャーを大きくひるませる。

 すかさずドラグナは隙をついて手に持っていたメイスで頭部を何度も殴打してナッシャーの息の根を止める。

「ごめんなさい……」

 俺とは違ってすくんで動くことができなかったフェリアはただあやまりつづけた。


「行くんだよ、アタシたちが。それしかないだろう?」

「でも、学園の人たちだってもうみんな避難してるし……先生が来てくれるかも」

「ああ⁉フェリアはアタシらの学園が荒らされてもいいのかよ?思い出の場所じゃねえか」

「いやですわ」

「ならいくぞ」

 ドラグナに返事を返す俺とフェリア。

 今母校を救えるのは俺たちだけだ。


 ゲートには色がある、青が出現してホヤホヤの新しいゲート。赤がもうすぐ閉まってしまうゲート。基本赤と青のゲートに新人は立ち入り禁止である。だけど俺たちは中に入ってしまった。ゲート探索許可証を失効してもおかしくはないが、非常時だからしかたない。多分処分は甘いだろうと俺は考える。

「これを見てください!」

「デカすぎんだろ……」

 そこには縦60横90ほどの足跡が続いてた。

「本当に行くんですか?応援は要請しないんですか?」

「引き返してる余裕なんかねえよ、こいつが外にでたらそれこそ面倒だ。近隣被害を抑える為にこの足跡の主を討伐すんぞ」

「無理ですわドラグナさん、流石にわたくしたちじゃ敵いっこないです」

「僕もフェリアに賛成かな」

 腕につけたデューサーを眺めて、黙りこくるドラグナ。

「足跡は新しいです、すぐに戦闘になってもおかしくない」

 


「アタシの家族はゲートナッシャーにやられた、誰よりもあいつらが怖いよ。だからって見過ごせない」

「……ごめんドラグナ。僕は君についていける実力や勇気なんかないんだ」

 意外にもドラグナはそれを聞いて笑った。

「そうだな、お前はイーグルたちにもう一度応援要請を頼んでくれ」

「わたくしは……」

「フェリア、お前は戦闘には向いてない。だから、ここに間違っても一般人が近づかないようにゲートを見張ってくれ」

 泣きそうな顔になるフェリア。

 俺だってあいつらなんかに頼りたくない。


 俺は急いで王都への道を引き返した。

 イーグルたちの情報を尋ねて回り彼らへと出会うが……。

 

「依頼だろ?金は?」

「これだけ……です」

「こんなので足りると思ってんの?ジェットイーグルだぞ?あのカマキリに倒してもらったら?」

「僕の友達が死ぬかもしれないんです!」

「自己責任だろそんなの」

 大笑いしている彼らと目を合わせようとするが誰一人俺の協力なんてしようとしないし聞く耳すら持たない。

 俺は間違っていた。友を信じるべきだったのだ、こんなやつらなどではなく。

 依頼を頼む時に下した資金で新品の短剣をもう1本購入して、揺れる馬車の中で古いほう短剣の血を拭う。

 間に合ってくれ!

 

 ◇ ◇ ◇ ◇


 間違いを犯したとはアタシは思わない、そもそもイーグルがくるまでの時間稼ぎさえ出来ればそれでいい。この大きな巨体のナッシャーはさっきの奴の親玉だろう。実際に親かもしれない。辺り一面は巣になっていて、ところせまし産卵された卵が群生した花のようにぎっしり並んでいる。

 

 流石にでけぇ20m以上はある。

 アタシを見つけた恐竜はものすごい勢いで突進してくる。

 バットで噛みつき攻撃をなんとか防ぐが、すぐにへし折られる。

 どこにもセーフゾーンなんてない。アタシはただ食われるだけだが、1つよかったことがあると言えばアタシの体は機械でできているから、食えばたちまち腹を壊すだろう。

 逃げようとしたが脚を噛まれて、転倒する。

 これで終わりなんだ、ゲームオーバー。


 カメラのアクセスを遮断した瞬間、ゲートを通る鈍い音が鳴り響いた。

「ドラグナちゃん!」

「おい何してんだフェリア!お前が敵う相手なんかじゃない‼巻き込まれるぞ!」

「わたくしだってゲート探索者なんですから!こんなトカゲ野郎に負けませんわ‼」

 フェリアは必死に小さい体で威嚇を始めると、案外それにたじろぐナッシャー。アタシはその隙をついて無防備になった背中の上に登り、ヒレのような物をめいいっぱい引きちぎる。

 また響くゲート音。

「おせぇんだよアイス」

「お待たせしました、はぁ……はぁちょっと息を整えるんで。待ってください」


 ◇ ◇ ◇ ◇


 当然ナッシャーは言語など理解できないので、背中のドラグナさんを噛んでその場に放り投げると、俺に突撃してくる。

 両手に持った二天の短剣で敵の攻撃の軌道をそらし、ギリギリで回避する。流石に二度目なんてないだろう!

 体勢からして目を狙うのは不可能らしい。なんて運が悪いんだ俺は。


 その瞬間上から赤い大きなカマキリが降ってきた。恐竜の首を踏みつけるようにのしかかる!

「アイスさん!」

 シェイプシフターとして瞬間的に先祖のカマキリに変身したフェリスさんが、恐竜の口をその鎌で大きく開ける、なんて怪力なんだ。

 そうか確かに外皮は硬いけれど!

 回転斬りで口の中に突っ込んで内臓器官を切り裂き、腹を切り開いてその風穴から脱出した。

「おいおい、めちゃくちゃだな。大丈夫かアイス」

 こっちのセリフである。足が千切れてしまったドラグナさんは、はいつくばっているので肩を貸してゲートまで運ぶ。

 途端に煙をあげながら縮んでいくフェリアさん。

「大丈夫なんでしょうかドラグナさんは?」

「ああ、メモリが死なない限りアタシは大丈夫だ。ぶっ壊れたパーツなんて換装すりゃいい」

 かくしてブルーゲートの主ともいえるナッシャーを討伐した俺たちレッドマンティスは新人チームにして前人未到の凶悪なナッシャーを討伐したその功績を称えられて学園から勲章を授かる事になった。


「君たちを育てたのは私だが、偉業をなしたのは君たちなのだ。ミセスフェリア。ミスターアイス、ミセスドラグナ」

 聖デュエロ三世勲章を各自授与されると、俺たちは記念に肖像画を描いてもらう事になった。

「もっと近くによってください」

「こうですか?」

「ちけぇよ」

「アイスさん!ドラグナさん!手をつなぎませんか?」

 喜んでつなぐ俺と、少し恥ずかしそうに照れて繋ぐドラグナさん。


「どうせナッシャーが弱ってたんだろ」

「全長30mあるナッシャーが弱い訳ないだろ?そういえばイーグルの奴らってビビッて逃げたって酒場で聞いたな」

「俺も聞いたよなんて名前の酒場だっけ?」

 そんな会話が聞こえてくる。

 

 酒場の名はレッドゲートだ、あそこにいけばイーグルのやつらがいかに口だけだったかってわかるよ。

 


「ラックが2なのに、柚希ちゃんのダイス運良すぎだろ!ツイストしてんじゃねえかって思ったよ」

「それは私も感じた、横回転を入れてたな白田」

「え?ダメなんですか」

「まあ知らなさそうだから今回甘めにみて注意しなかったが、横回転をかけてトップのダイスの目を出やすくするのは原則イカサマ投げって奴だ。次は気をつけろ」

「すみません」

「まあ、初めてだから仕方ないですわ白田さん」

「いいじゃねえか、初めてやってた割に上手くイカサマできてたぜ」

 そうか、自然にやってたけど横回転が強くかかる分、下になる3面が出にくくなるのか。言われてみればそうだな。


「あの!白田さんってバトロワ配信者のアイスさんだったりしますの?」

 一番困るやつだ、アイスなんて名前のプレイヤーはめちゃくちゃいるからなあ。こういう時人違いとかだと恥をかく。一応に『はいそうです』なんて言いにくい。

「えっと、た、多分」

「声でわかりますわ!収益は⁉どこまで行きましたの⁉わたくしはフォロワーが1000人くらいの時から観てました!」

「コメントとかしてましたか?」

「コメントは恥ずかしいから……」

 そうか、俺があのままの勢いで有名な配信者になったと思ってるんだろう、どう伝えたらいいのやら……。

「あの……白田さんって彼女とかいますの?」

「あ、いや……その、好きな人はいたんですけど」

 ドラグナさんが、フェリアさんを肘でついた。

「すみません……アイスさんと会えたのがつい嬉しくて」


「遅れたわすまん!」

 玄関の方からすり足の小走りで1人の女の子がやってきた。

「ライト、お前はここに泊まったほうがいいんじゃないか?」

「勘弁してください、うちのボーダーコリーをこんなとこ入れたらめちゃくちゃなるで」

「あんたは?」

「アイスハートです」

「ああそうか、君がアイス君かもうドラグナさんとやったんか?」

「1-2だった。アイスの勝ちだったぜ」

「マジか⁉うっわ、やべーやつやんけ、にしてもその服ようにおうとるな」

 軽く会釈すると、関西弁の子は上着を個室へ置きに行った。

「あの方は?」

「ライトニングだ、お前がくるまでは新人だったアビスのメンバーだよ」

 なんか関西の子はかわいいなあ。もっとキツい性格のイメージだったけど、あの子とは仲良くなれそうな気がする。敬語が使えないのはちょっとアレだと思うけど。


「ニューエイジは4対4のゲームだ。この意味は分かるな白田?」

「サブメンが1人でるってことですよね?」

「ああ、だが投票制や指名制などではない、ランクを回してレートの一番低かった奴がリザーブだ」

「アタシでよくねぇか?」

「ダメだ、これは決定事項だ」

「チーム組んでやるにしても1人あまりませんか?」

「2-3に分ける」

「ドラグナと私で1チーム。あとの残りでチームを組め」

「ちょっとバランス悪くないですの?」

「2対3だと思えばそうでもないだろう?」

 確かにそうだ。向こうはデュオ、こっちはトリオでランクを回すんだ。

「とりあえず全員の振り分けが終わるまで回すぞ」

 

 ランクマッチか、セミプロと言っていたがドラグナさん藤野さんペアはトッププロに近い。レギュラー入りなんて考えずまずはみんながどんなプレイヤーか知って連携を考えたり、ツーマンセルで合わせられるように最低限意識してやってみよう。

「準備できたで!」

「わかった!……1つ言っておくが、振り分け時にプラチナ以下の奴は風呂掃除1ヵ月だ」

 割と優しいな。


「もうここでヒーローピックを投票してもらう、被った場合はレートの低いほうが第二候補のヒーローを選べ」

「すみません、僕は誰でもいいんですけど」

「ふぬけた事を言うな、じゃあ白田はさっきのキャラにしろ」

 めちゃくちゃだ、でもまあいいか!見た目可愛かったし声もかっこよかったしなあ。

 俺たち3人はランクを回す前に、マップ研究を軽くする事にした。

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