6.サプライソルジャー
そんなもんとったらダメだ。
そもそも生えていた方がお得やん。
「チャック空いてるわよ」
あの時からずっと……⁉ああ、恥ずかしい。
まあでも幽霊のだからとっても大丈夫なのだろうか、多分ちゃんと生き返った時はついてるはずだ。
「できたら、取りたくないです」
「そんなに大したものじゃないでしょ、少し痛いけれども私もやっとことあるからね」
「ええ⁉藤野さんも経験済みなんですか⁉」
「割と最近はオーソドックスよ、この子たちだって経験あるわ」
なんてこった、こんなめちゃくちゃかわいい子たちが生えていたのか!
聖槍だ、彼らは元戦士だったのだ。
でもこんなに可愛くなれるなら悪くないかもしれない。
「わたくしも痛かったですけれど、最初だけでしたわ」
近くの女の子に励まされるが……怖い物は怖い。
「最近のはレーザーでやるらしいぜ」
レーザーで⁉あれか、なんか腫瘍摘出の時とか焼き切るみたいな事を聞いたことがある。そんな感じなのか!絶対痛いじゃないか、ダメだよそれは!
「何を泣いているんだ白田」
「だって……男の証みたいなもんですよ……それがなくなるのは悲しいです」
「そう?最近のアイドルとかみんな抜いてるわよ、韓流男性アイドルとかでもみんなそうよ」
し、知らなかった!ちょっと内心ゲイっぽいなあと思っていたんだ。
「あれ?でもゲイなら生えていたほうがいいんじゃないですか?それともホルモン的なアレで?」
「ゲイ?ホルモン?何の話をしているの?」
股間を指さす俺。
そのジェスチャーを見て静まり返ったチームハウスからは、ヘッドセットからロビーの待機BGMが聴こえた。
「抜くのは毛だ、アゴ髭」
「え?」
「白田には女装をしてもらう」
まるでなんかあれだ、俺が勘違いしてたみたいじゃないか。だましやがってよお!
「お前の甘い顔なら大丈夫だ、男のファンだって文句は言わないだろう」
「喋る時はどうするんですか?」
「普通に喋れ」
「オフラインとかだとバレますよ」
「性自認は女という設定でお前はデビューするんだ」
そんなめちゃくちゃな。
「自分が言っている意味わかってますか?下手したらポリコレうるさいですよ?」
「ここは幽界、幽界に現世のルールを持ち込む方が無粋だろう」
「これをとりあえず着てください!わたくしが選んだんですこの服、白田さんに絶対似合うって思って♥」
アニメとかで観た事がある、イタい女が着る服だ。なんだっけこういう服、ゴスロリ?だった気がする。俺は絶対にこんなバービー人形が着る服なんか着ない。29だぞ、なんの罰ゲームだ、お笑い芸人などではないのだ。
「着たくないです」
そう俺が言うと、ゴスロリ服を持ってきた女の子は泣き崩れてしまった。ああなんかこれ既視感ある、小学校とかで隣の席の女の子を泣かせちゃった空気だ、それだ。
「すごいですわ、見てください!めっちゃかわいいじゃないですか白田さん♥」
メイクしてウィッグも着けてもらって、マスクをしていざ鏡の前に立ってみるとあら可愛いゴスロリ女の子。俺ってめっちゃかわいいじゃん。しかもこの服もシックでオシャレだ。なんだこの可愛いすぎる幽霊、惚れそう。
ピースサインで決め顔も作っちゃう。
「まんざらでもないみたいじゃないか柚希」
その藤野さんの一言を聞いた俺の口角は少し上がった気がした、こっちの世界にくるのはまだ早いと自分に言い聞かせる。扉だ、扉が開きそうだった。
「白田にはイベントでもそんな服を着てもらう」
「はあ?」
「なんだ白田、地獄に行きたいのか?」
なんか卑怯だ。
だけど、プロになるのが俺の夢だった。どんな形でもその願いが叶うなら、踏み出してみたい。俺にも出来ないかなって何度も夢見てたんだ。
「はっきり言うがアビスハイウェイは決して実力派のチームではない、タレント系のセミプロ志向だ」
「俺は、本物のプロになりたいです」
「来世で叶えろ、セミプロを舐めるな白田。世間一般で言えばそれ一本で食っていける奴らがプロ、でも私は公式の試合に出る選手はすべて私と同じ土俵で戦っている同じ選手だと敬意を払っている」
「まずその舐めた考えから潰さないとな、なあドラグナ、相手をしてやってくれないか?」
藤野さんの声に気迫が入る。ドラグナ?あの自殺したっていう……一線級の狙撃手だ。日本のFPS界の歴史に名を残して若くして消えていったドラグナと撃ち合えるのか。死んで良かったとは思はないが、良い土産話になる。
「やあ柚希ちゃん、用意しな」
やはりこの人はドラグナだったのか。ドラグナは現役時代で見た感じと若干雰囲気は違うが同じ見た目のままだ、幽界では年を取らないのだろう。
「あの白田さん、ドラグナさんは実力で言うとアビスの裏エースですわ、セミプロなんて言ってますが幽界日本トッププロ級の……」
ゴスロリを選んでくれた子が説明するが、それは俺が良く知っている。
「おい白田、私は正直いまでもお前がアビスハイウェイに入る事を反対している。この1on1で勝てないようなら、生き返った後プロになるなんて夢は潔く諦めろ」
「ルールは1対1の3ラウンド戦で2本先取したら勝利だ。第一はピストルのみ。第二はアサルトのみ。第三ラウンドはスナイパーのみで闘ってもらう」
3本の内2本はフルオート射撃の打ち合いじゃない。これはショート、ミドル、ロングの各レンジで撃ち合うまでの持って行き方を確認する為の試合だ。
「なあ柚希ちゃんってローセンシだろマウスパッド足りるか?あともっと手と指の力抜いたほうがいいぜ」
ドラグナさんはかなり男勝りな喋り方である。
「こうですか?」
「できれば綿あめとか柔らかい物イメージしてみな、それで形を崩さないような感覚で、ああそんな感じだよ」
「あの、ドラグナさんってスナイパーめっちゃ上手い人ですよね?」
「私の事知ってんのか?嬉しいねえ、まあ媚びたって手は抜かないぜ」
ドラグナの戦い方は典型的な狙撃手タイプで自分から攻めるタイプではない。事実上1敗したらスナイパーラウンドに持ち込まれて確実に俺の負けだ、俺は狙撃銃をここ数年握っていない。
「今回ヒーローのレベルは0にセットして、ユーティリティーや投擲物も禁止とする、破った時点で敗北だ。いいな?」
「爆弾の設置は?」
「スポーン無しのチームデスマッチで行う、制限時間は60秒」
正直勝敗なんてどうでもよくって、ドラグナさんと撃ち合える事が嬉しくてたまらない自分もいる。制限時間が少ない分防衛的な立ち回りのドラグナさんが不利だが、ド正面から戦いたい。
後ろからとか、横からとかじゃなくってこの人の守備を破りたい。
フィーリングでピックしたが俺のヒーローのコードネームはスノウブラックと言うらしい。支援系のヒーローだが、見た目は若い日本人女性でアタッカーみたいにクールだ。
「あの、同じ銃で戦うんですか?」
「いや、各自強いと思う自分に合った銃を選べ、銃やオプションにかかる金額は今試合無視する、だが防具や装備品はユーティリティに属するので買うな」
いざ始まるとなれば、今までの自分の経験なんかが役に立つのかっていう不安が押し寄せてくる、あの狙撃は本物だから。
マップは潮風香る港町、若干入り組んだ室内戦とやや広めに設けられた道路を挟んでの市街地戦マップだ。中央のL字になっている大通りを抑えることができる民家周辺での交戦になる。問題は室内をとるか建物外周をとるかだ。
ピストルは俺が普段使いしそうなフルオート射撃可能なG18を購入する。対室内戦でなら勝機はある。民家の中に入ってもらったらドラグナさんを仕留めることが出来るはずだ、だがそれ以外での勝利法はない。
デバイスは未だキーボードの打鍵感ですら馴染んでないが、そんなものは言い訳にはならない。早く環境になれて体調管理もしないとすべてがチームの負担に替わる、それがプロだ。
ロード画面が切り替わりモノクロから徐々にぼやけていた視野が色づいていく。
ショートレンジでの撃ち合いまたは室内戦。それ以外勝てないのは明白なので足音を探りなら気配を殺し、マップの外周をカーバーを渡り歩くように反時計周りに移動する。以前やっていた走って撃つゲームじゃないが、このゲームには珍しくリーンとスライディングの両方がある。一見攻め有利にみえるが、スライディングしながらだとADS射撃が不可能なシステムになっているので、SMGやSGを少し使いやすくする程度のシステムだろう。
ドラグナさんを先に視認した。定点はしておらず、彼女もリレーランナーのようにマップを周回している。だが距離が離れておりこのレンジで発砲すると逃げ切られる可能性がある。
周回軌道を逆方向に切り替えて、遭遇しそうな室内を抑える。
足音が聞こえる。ドアの入り口で止まるが音は一切立てていないので気付かれない──来た!
隙を逃さずに射撃するが、ショルダーピーク⁉フェイントで完全に釣られてしまった。急いで後退するが流れるような連射で胴体に一発貰う。
音的にリボルバーだ。ヘルスは残り44しかない。あと一発胴体に貰えば終わりだが、向こうも室内戦を避けるように移動を始める。
取り逃してしまった、最悪の展開である。
逃げ切って判定勝負に持ち込むつもりだ。時間切れの場合はヘルス有利なほうがランウドを取る。
逆に言えば逃げ腰なのは、ヘルス有利でも武器による室内ディスアドバンテージがあると向こうも感じているからだ。
彼女は冷静なプレイヤーだからもう二度と室内には入らないし逆回りの周回をする猶予ももはやない。
踏み出すしかない、前へ。
弾倉交換している暇すらない。ナイフに持ち替えて最大速度でスプリントを決める。スプリントやスライディングがある分他の爆破FPSより、マップが若干広いからこの場合は俺が不利でしかない。
いた、中央のL字を堂々と通っている。
発砲した。恐らくは2射ヒットしたが、このレンジでどれだけ削れているだろうか?逃げ続けるドラグナさんを追うが、カウンターを警戒しなければならないので、コーナーは慎重に気配をうかがう。
足音はここで止まったのだ、ここで彼女もケリをつけるつもりらしい。スタンドオフだ。
スライディングしながらコーナーを出る。オフアングルなんて知るか。
リボルバーの精度が悪いのか腕に一発もらいながらも、そのまま詰まれた木材のカバーに滑り込んだ。
のこり5秒しかない。最高速でスプリントしながら詰める俺、それを完全に迎え撃つ体勢のドラグナさん。
決着はあっさりとついた。
俺の勝利だ、スライディングで距離を詰めてからショートレンジでの電撃戦を持ち掛けて、頭に2発撃ちこんでなんとか勝利した。
一本リードだ。
「ドラグナさんが負けるところ久々に観ましたわ、白田さんがんばって!」
疑問があるとすれば、最初の室内戦で逃げ腰だったことだ、あそこでドラグナさんがスライディングしてきたら、それこそ怪しかっただろう。
選定した武器の差によるエリアプレッシャー勝負での勝利だ。
各ラウンドはサイドチェンジが行われる。
ARは使いやすそうなHK416を購入し、2-4倍スコープとフォアグリップにフラッシュハイダーを装着する。
ARラウンドとSRラウンドは室外戦である。十中八九SR戦は早期決着がつくだろう、おそらく2人とも中央のL字での打ち合いになる。
実戦を想定して本来Bサイト内のエリア防衛を仮定し、待ち構える。
来るだろうか?ドラグナさんだったら1本取られてる分、より慎重に攻めてきそうだ。案の定Bであるがショルダーをかましてくる。釣られそうだった。
瞬間俺が敗北した。
理解が追い付かない速度で胴体キルを決められ、流石に唖然とする。
どうして?
恐らくは1回目のピークで視認され、そこに決め撃ちが入ったのだろうがリリースされてまだ3時間ほどしかたっていないゲームでここまで出来るのか?もはや人間の業ではない。こんなんで負けたらどうしようもないというか、もう勝ち目がない。
そうか、キルログを見て理解した。アーマーがないからM16のバースト射撃でワンタップキルされたのか。
にしてもおかしいレベルの決め撃ちだった、まるでマップの構造を熟知しているような動きだ。
……まさかピストルラウンドで逃げるように周回していたのは、射線とカバーの位置を記憶する為に時間ギリギリまでマップを探索していたのか?なら1回目の室内戦で攻めてこなかった理由にも納得がいく。
そうか、ARラウンドとSRラウンドの2本を確実に取る為ドラグナさんはほぼピストルラウンドを捨ててマップ研究の時間に当て、通る射線の角度とカバーの位置の確認をしていたんだ。
絶望のスナイパーラウンドが始まる。
このチームでもやはりドラグナさんが狙撃手だろう。俺がもしSRを持つとしたら対エコか支援用としてである。
セミオートのドラグノフを購入し、416と併用できるさっきと同じスコープを装着する。
「おい、試合を捨てたのか白田。ボルトアクションを買え」
「でも、実戦ならこっちを買うかなって」
「どうしたよ柚希ちゃん」
一旦タイムが入って、話し合いになる。
「聞けドラグナ、こいつドラグノフを買ったんだ」
「マジかよ、1on1はボルトじゃないと、負けちまうぜ?」
「でもドラグナさんがアビスのスナイパーでしょう?僕がSR持つ時ってアンチエコか、エコでドラグナさんがスナイパー買うまでの費用を抑えたいシチュエーションじゃないですか?」
「確かにうちにセカンドスナイパーはいないが、お前はそれでいいのか?セミオートで勝てるほど、ドラグナのスナイプは甘くないぞ」
「どっちにしろボルト対決のほうがどうしようもないですよ」
「いいんだな白田」
「はい」
「柚希ちゃん、アタシはDSRを持つ。それもマップのミッドで待っていてやるから真正面からこいよ、射貫いてやる」
「わかりました」
DSR-1は重く手振れが大きく、ドラグノフと同じく精密射撃向けの狙撃銃ではない。アーマーを装備した敵を胴体撃ちでも倒せる高火力というメリットはあるが、取り回しは最低レベルだ。
カウンタースナイプには自信があるし、俺はボルトスナイパー向けの選手でない事は自分が一番よく知っている。
最後のラウンドが幕を開けた。
一瞬で決着は着く。
顔出しはほぼ同時だが、リーンでピークしている俺のドラグノフのほうが覗き込みは若干早いだろう、俺だってトリガーを引く速さには自信がある。
刹那の攻防、俺のカメラに空割く弾道線がめり込む。
結果は俺の勝利に終わった。
一瞬だった。ドラグナさんが決戦場を宣言してくれていたのが大きいだろう。もしヘルメットを購入できるルールだったら俺の負けだった。
席を立ったドラグナさんが俺の方に来て手を差し伸べる。
「やるじゃねえか」
「ありがとうございます」
「すごいですわ!ドラグナさんに勝ってしまうなんて」
「顔出しの場所宣言してましたからね」
「よくあんなブレまくるドラグノフで当ててきたな」
「このゲーム、息を止めた時に照準が一定の軌道で揺れるんですよ」
「おいおい、まさかそれを利用して照準が安定する前に狙撃したっていうのか?」
「はい」
「藤野先輩、話が違うじゃねえか。アタシがこいつにスナ教えるんじゃないのかよ、まるっきり逆だぜ」
「そうかもな、白田にはアビスの星になってもらう」
半分死んでるのになんか比喩が不謹慎じゃない?
「その……あれだ白田、煽るような真似をしてすまない」
「あ、いえ」
「白田はオタク気質だからな、チームメンバーと仲良しごっこなんて事にならないよう気を配ってくれ、全員がライバルだと思っていい。あとはっきり言っておくが、アビスハイウェイはメンバー感恋愛禁止だからな」
「女性しかいないのに?」
「白田は男だろう」
軽い自主練とチームハウスの案内が終わった後。俺の胸は高鳴っていた。
チームハウスにはお風呂があるらしく、うきうきである。藤野さんの家では入れなかったのだ。なんでも自分が使っているバスタオルを俺に使われたくないらしく、告白してもいないのにフラれたような気分で落ち込んでいた。
だが、風呂場からはドライヤーの音が聞こえている。
これは……!サービスだ間違いない。ドアを開ければそこには俺にゴスロリ服を選んでくれた女の子とかが裸で髪を乾かしていて、キャーえっちですわ~!ってなってしまう奴だ。思わずゲスな笑いを漏らしながらもドアを開けた。
「あ?なんだ柚希ちゃんかよ、使用中の札になってる時はノックしないとダメだぜ」
ちくしょう!すでにスポーツウェアを着用していたラフな格好のドラグナさんが髪を乾かしていた。よく見ると肩に黒い炎のようなタトゥーが入っている。
悔しさのあまり思わず、床に拳を叩きつける。
「おいおい、AR負けたのがそんなに悔しいのかよ。まあ結局は柚希ちゃんが勝ったんだからそんな完璧主義だと何かとめんどくさいぜ?」
女性の裸が見たかったんですよ。なんて口が裂けても言えるわけはなく、ただ俺はくやし涙を流すのだった。
「聞いたよ、柚希ちゃんは車両事故なんだってな、まだチャンスはあるからがんばろうぜ」
ドラグナさんはなんていい人なんだ。それに比べて俺は……。
「ドラグナさんはどうやって死んだんですか?」
ふいに漏れたその質問をした後に、聞いてはいけなかったと悟るには数秒もかからなかった。
「すみません!変な事聞いてしまって」
「気にすんなよ、アタシのほうから言い出したんだ。彼氏がちょっとアレでな。薬厨って奴だよ、オーバードーズで死んじまったんだ」
「あれ?僕は自殺したって聞きました」
「そうなってんのか、事務所が護ってくれたのかもな」
そうだ、確か事務所では自宅で死亡したとだけ発表されていた。それがSNSで広まって自殺になったような。
「弱かっただろ?」
「え?」
「アタシだよ、現役の時よりさ。知ってんだろアタシの事」
「はい」
「現役時代は試合前に必ずドーピングしてたからな、それでアタシが地獄行きのところを藤野先輩に救ってもらったんだ。ちょっと柚希ちゃんにあたりは強いけど悪い人じゃないんだ、勘弁してやってくれ」
ドーピング?あのドラグナが?
「信じらんないって顔だな、昔は検査とかあんまりなかったんだよ。だからバレなかったんだ。もともとはADHDの治療薬、要は集中力を高めるやつさ」
どうしてそんな事するんだよ……あんたは十分強いじゃないか……!
「なんでそんな事するんですか、ドラグナさんはそんなのしなくても強いじゃないですか‼」
「アタシは柚希ちゃんが思ってるほど良い選手、いいや良い人間でもないんだ。チームのエースだった私は当時のプレッシャーに耐えられなかったんだ、心が弱いから誘惑に負けたんだ」
そんな事って……。
「強かったです、ARラウンドもピストルラウンドだって」
「SRは微妙だったみたいな本当の事言うなよ!ちょっと気にしてんだ流石に」
「DSRの方が覗き込み遅いですよ」
「あ?そうなのか……柚希ちゃんは武器研究を先にしてたんだな」
そうだ、ARラウンドで負けたのはマップ研究が甘かったからだ。
「リリースしたてだから、シーズン終わりに銃には調整入るだろうからな、あと送りにしてたんだよ。それが裏目にでちゃったか~」
負けるべくして負け、勝つべくして勝つ。それを知ろうとする事は重要だ。エラーが起きた時に修正箇所を把握するのに近い。
自分の負けを素直に認める事が出来るプレイヤーは強い。経験上皆ものすごい速度で上達していくのだ。
「シャワーだろ?へへ、一緒に入るかあ?」
「えっ⁉いいんですか!喜んで‼」
「そこは遠慮しないか普通、あと目線キモいぜ」
チームハウスには屋上があり、ここでユニフォームや普段着などを干すらしい。
良い日差しで気持ちい。
「いきなり呼び出してすまない白田、実はお前宛の荷物を盗んだ奴にめぼしがついたと連絡が入ったんだ」
「マジですか」
「容疑者は伊佐木仁、現世では脱法ハーブの売り子で現在は氷獄に逃走してしまったらしい」
「そうですか」
「すまない、氷獄はほぼ治外法権になっていてな……その」
「いいですよ別に」
「とりあえず私がなんとかするが、まあ期待はしないでくれ」
「ありがとうございます」
「白田、お前本当にやるのか?」
「ええ、僕にはこれしかないですから」
「女装をしてるから白田を馬鹿にするやつもでてくるだろう、だがお前の為だ。耐えてくれ」
「はい、でも正直馬鹿にしてたのは僕のほうでした。心の底ではセミプロを舐めてたんだと思います。じゃないと本物になりたいなんてあの場で言えない」
藤野さんにダイニングへと案内されると、ラノベみたいなイラストが描かれた2冊の本と、筆記具にサイコロ……カジノチップ等がテーブルに置かれていた。新人歓迎で賭け事でもやるのだろうか?
「これが柚希ちゃんのやつな」
渡された用紙を見ると、筋力とか体力とか書いてある……種族ってなんだ?
「まあアタシも初めては緊張したぜ」
RPGのキャラのステータス表みたいだ。
「今回マスターは私がやろう」
「やったのですわ!白田さん、よろしくおねがいします」
そういえばゴスロリの子の名前聞いてなかったな、まあ人の名前を覚えるのは難しいので。こいつ覚えてないんだって思われたくないから俺は名前を聞かない主義だ。
「二刀流、二刀流が最強なんだぜ」
「もちろん白田さんはヒーラーですわよね⁉」
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