裏返し

「あれ? カードが落ちてる」


 学校帰りの途中で、一枚のカードを拾った。トランプカードかなと最初は思ったが、至って柄はなくシンプルな長方形のカードだった。


 何となく裏返してみるとそこには‥


『君はこの世界の出来事が全て現実だって思ってる?』


と文字が書かれていた。


「なに‥これ?」


 今起きていることが全て、リアルじゃなければ何だって言うのか。それとも、夢だとでも言いたいのか。


 僕は試しに頬を思い切り摘んだ。神経が摘まれている所に集中し、痛みが増す。耐えられず僕はその指を離した。ジンジンと刺激し、見なくても腫れているのは間違いない。


「あれ、また落ちてる‥」


 目の前に再び、先程と同じカードが一枚落ちていた。僕は難なくそれを拾い上げ、裏返した。


『例えば、君の空想世界が現実に変わったらどうする?』


「どうするって言われても‥‥それはそれで、嬉しいかな」


 するとまた、目の前に同じカードが。僕は何も考えずに拾い上げる。


『なら、妄想全てが現実になればいいってこと?』


「まぁ、望んでいることなら叶ったら嬉しいだろうな」


 そして再び歩くと、また同じカードが一枚。


『じゃあ、これは?』


「これ?」


 カードを何枚も拾っていくうちに気がつくと僕は見慣れない街を歩いてしまっていたみたいだった。


 しまった。拾うのに夢中になって、寄り道をしてしまった。どうしよう。これは、帰るのが遅くなるな。


 僕は拾った何枚かのカードを見つめる。誰とも会話をしてないのに、まるで自分の独り言が誰かに聞こえてるみたいで妙な気分だ。そのせいでか、札に書かれた内容も会話のキャッチボールを返すかのように自然と続いた。


 カンカンカン。 甲高い音が僕の耳に鳴り響く。ふと、顔を上げると数十メートル先に踏み切りがあった。警報用スピーカーの音がカンカンカンと、電車が来るのを合図している。

 遮断桿も徐々に下がり、歩行者を通らせないように阻止している。が、しかし、そうはいかなかった。


「あれ‥? 線路の中に、人が居る‥」


 遠くからではっきりとは見えないが、明らかに人の姿がそこに佇んでいた。何やらフラフラと歩いており、昼間から飲酒でもきて酔っているのだろうと僕は考える。

 だがしかし、そこで嫌な予感がした。


「待って、今そんな所にいたら‥!!」


 最悪な光景が脳裏に焼き付く。その瞬間、背筋がゾォっと寒気を起こし血の気が引くのが分かった。近くで、電車のサイレンが鳴る。


 あぁ‥!! まずい!!


「!」


 僕は思わず目を逸らした。


 電車は勢いよく走り去り、僕の目の前からいなくなる。途中、ガゴんと鈍い音が聞こえたのは気のせいと言いたい。が、その数十秒後。踏み切り辺りに人集りができた。


「そ、そんな‥‥」


 僕はここから動けず、呆然と立ち尽くしていると背の高い女性がこちらに向かって歩いてきた。ハイヒールの底を思い切り鳴らし、地面を蹴る音が心臓の鼓動と調和して更に体が震える。


 そして、僕の真横を通り過ぎる時。


「あんなやつ、居なくなって当然なのよ」


 女性は低い声で呟き、歩き去っていった。


「‥‥え?」


 今のって‥。


 ひらり。


 目の前に、誰が落としたか分からないカードが都合良く落ちる。僕はそれを恐る恐る拾い、裏返した。


『知ってるかい? 妄想が全て叶うと言うことは、みんなの願いが思い通りになるってこと。その裏を返せば、自分が消したい相手を消すことだって。ね?』



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

空模様 @mimume

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説