第32話 戸籍の問題

「目覚めたばかりなのにすみません。

私は対未確認敵対生物対策省の職員で中井と申します」


そう言って目の前の女性が名刺を差し出す。

とりあえず両手で受け取る。


「えっと、初めまして 霧島志鶴きりしま しづると言います」


ちなみにこの名前は配信で決まった。

神様達に名前案を募集して、僕が良いなと思ったものをピックアップ。

あとは神様達に投票してもらった。


この名前を作った神様にどうしてこの名前にしたのか聞いたところ


:なんとなく響きが良いから


とのこと。

理由はアレだけど、使っていく内に愛着が湧くでしょ。


「霧島志鶴さんですね。体調はどうですか?

大丈夫だとは聞きましたが、やはり直接お会いすると心配で」


「本当に大丈夫ですよ。見た目ほど痛くないですから。

まぁ片足が使えないのは少し不便ですが」


ほんとに不便。

本音を言うとさっさと神癒のイヤリングを使ってしまいたい。

歩くために一々杖をつかないといけないんだよ?

気を抜くと普通に右足も使って歩こうとしてしまうし、早く治ってほしいなぁ。


「怪我についてはとても申し訳なく思っています。

魔法少女の到着が遅れてしまったばかりにこんな怪我を負わせてしまいました」


「……頭を上げてください。事情を聞いても良いですか?

何故魔法少女の到着が遅れてしまったのか」


「……まだ報道されていない内容なのですが、全国の前線基地近くの街が魔物の襲撃に遭ったのです。魔法少女達はその対処に追われてしまいました」


うん?それだけ?

基地でベルゼが暴れたことにはノータッチ?

これは……政治が働いたかな?


「それで魔法少女の到着が遅れたのですか?全ての魔法少女がですか?

それほど魔物は強いのですか?」


ちょっと突っ込んでみよう。

あくまで一般人が知ってそうな範囲で、でだけど。


「いえ、そうではありません。その魔物はとても厄介な特徴がありまして。

それの対処に手間取ってしまいました」


ふーん。あくまで強くはなかったと主張したいのね。

まぁ確かにワーム達は弱かったしね。

ベルゼも防御方面はピカイチだけど攻撃方面はあんまりだし。


「そうなんですね。あの、私の他に救助された人はいますか?」


「はい。霧島さんの他には四名ですね」


「……田中さんは、無事ですか?」


田中さんとは破壊した街にあった児童養護施設の職員の人の名前だ。

僕はその人に懐いていたという設定。

と言っても事実を知る人はいないけどね。


「……救助された方達の中に田中さんはいないですね。

おそらく……」


「そう、ですか……。

すみません。今日はもう帰っていただけますか?」


「はい。今日はお時間を頂き、ありがとうございました。また後日お伺いします」


返事はしない。

その方がそれっぽいからね。

ついでに涙を流してみる。


パタンと音を立てて部屋の扉が閉まる。

そして遠ざかっていく足音。

……行ったな。


「ふぅ。どうだった僕の演技?」


古参の神その3:敬語のメルヘスちゃん良い……!

:ちゃんと騙せてたねぇ

フェシズ:完璧よ!!

:なんかニヤニヤしちゃった


「うんうん。綻びはなさそうだね。

あとは日数を使って信用を勝ち取るだけだ」


:信用?

:あー、あの問題か

:戸籍ね

古参の神その1:実際、戸籍はどうするんだ?


「戸籍はね、無戸籍でゴリ押すことにしたよ」


:えぇ……

古参の神その2:それ、大丈夫?

フェシズ:大丈夫なのかしら?

:急に脳筋解決w


「まぁまぁ聞いてよ。

無戸籍の人は珍しいけど、いないわけじゃないんだ」


:え!?そうなの!?

:てっきりいないものかとばかり………

:ちなみに無戸籍の理由は?


「えーとちょっと難しいんだけどね、離婚して新たに結婚して子供を授かったとするでしょ?でもその子が結婚後一定の期間内に生まれた場合は前の夫の子供と看做されちゃうんだよ」


:ふむふむ……

:なるほど。

:でも、それの何処に無戸籍者になる要素が?

古参の神その3:なんとなくわかったわ

古参の神その1:俺も

古参の神その2:だね〜

:え、全然わかんない……


「まぁ簡単に言うとね?離婚の理由が前の夫のDV……家庭内暴力だったとしたら、奥さんは嫌なわけだよ。生まれた子の戸籍は前の夫の戸籍に組み込まれるわけだから。戸籍上の親になったら子供の養育費の支払い義務が生じちゃうから、前の夫とトラブルになっちゃうかもだから、敢えて出生登録をしないってことがあるんだよ」


:あー……それは

:複雑だなぁ

:昔から婚姻とか子供はトラブル多いからねぇ


「あとは、最近だとスラムの人間も無戸籍者として扱われるみたいだよ。

戸籍を管理する街がなくなっちゃったからね」


:あっなるほど

:こっちはシンプルw

:最初からこちらで良いんじゃ……


「あはは、確かに。でもスラムの方の無戸籍者は戸籍を取得しにくいんだよね。

だから僕はこんな壮大な計画立てて戸籍をゲットしようとしてるんだよ」


:え、何で?

:どっちも同じ無戸籍者じゃないの?


「シンプルな話だよ。スラムはとっっっても治安が悪いんだ。

ストリートもびっくりの犯罪の横行っぷり」


:あー

:そんなに治安悪いの!?

:というかその口振りは実際に見にいった感じ?

フェシズ:何ですって!?


「あー、上空からチラッとね。なんか、もうすごかった。

あそこだけ違う時代かってくらいすごかった」


:そこまでかw

:めっちゃに気なる!!

:逆に興味湧いてきたw


「まぁスラムはまた使う場面があるだろうし、その時までのお楽しみって事で」


:ええぇ……

:待てませーん!!

:見たーい!!

古参の神その1:と言うか今のメルヘスはどっちの無戸籍者か分からなくないか?

:あ

:確かに


「お、よく気が付いたね。そう、今僕はどっちの無戸籍者か分からない状態なんだ。街を徹底的に破壊したのはこの状況を作るためだったんだよ」


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お久しぶりです。テストも無事に帰ってきたので、ちょくちょく書いてたのをまとめて一話にして投稿しました。戸籍のところは所々ぼかしたり、要約して書いてますが、ちゃんと調べてます。


あと説明で長くなりそうだったので一旦切りました。

明日にでも続き書こうかな。

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