竜人族領大騒動編エピローグ 酒と宴とその他諸々にはご用心
「竜人族ジェリアを次代竜人族族長とする。」
長の声が青空の下に響き渡る。
御前試合で優勝したこと、それに襲撃者を破ったことで
その功績が認められ次代族長に任命された。
とは言っても彼女が族長となるのは何十年も先の話。
「そんなに」と思った僕は未だ人間の感覚が抜けてないんだろう。
人間と亜人では時間の感覚も違う。
これから竜人族が少しずつでも変わっていくことを願おう。
「さぁ今日は宴よ。
リリィもクソガキも楽しんでいきなさい!!」
その夜、僕とルロイは彼女に連れられて領の中心に向かった。
そこには数多もの樹が組まれ、火を灯した物の周りで
竜人族たちが集まって宴を開いている。
その中に放り込まれた僕とルロイは
あっという間に竜人族の注目の的に。
やれ「強さの秘訣」だの「魔法について」だの…って酒臭っ!!
いつになくフレンドリーだなと思ったら、
全員酒に酔ってベロンベロンになっている。
それでも強さに関することを聞いてくるのはさすが竜人族。
せっかくだからと天術目録を出そうとしたら、
その腕にギュッと誰かが抱き着いた。
ホールドして絶対に離すまいという意識をひしひしと感じるほどの腕力。
「あのねルロイ、悪ふざけは…」
「この子は私のなのっ!!
盗っちゃイヤッ!!」
(ジェリア―――――――――――ッ!!)
何がどうなったのか顔を真っ赤にしたジェリアが僕に抱き着き、
それだけでは終わらず頬ずりまで始めた。
「ちょっと、助けてくださいよ。」
「ジェリアの家は全員酒に弱いからな。
酒の匂いを嗅いだだけでこうなるんだよ。」
(お母さ―――――――――――んッ!!)
心の中で助けを求めるも
そんな都合のいいことは起こらない。
ジェリアママが「うふふ」と笑っている姿が容易に想像できた。
(じゃあルロイは…)
ルロイが連れていかれた方を見るも
ルロイも真っ赤になって倒れている。
お前もかよ!!
「なによリリィ。私がいるのにキョロキョロして…
私じゃ不満だっていうの?私は嫌なの…?」
意識的か無意識か。
いやこれは無意識だろう、
酔ってない時でも無意識にやってくるんだから今もそうに違いない。
それにしてもこんな美少女が…
ずるいよなぁ…
「はいはい、ジェリアがいてくれて嬉しいよ。
嫌じゃないよ、大好きだよ。」
「やったぁ。あのね私もね、リリィのこと大好き。」
(守りたい、この笑顔…)
人生二度目の「守りたいこの笑顔」
一度目と二度目が両方幼馴染とか反則だろ…
そしてこのやり取りを聞いていた竜人族たちが勝手に盛り上がって
僕とジェリアの二人をまとめて一緒に胴上げしたのはまた別の話。
大変だったんだからね。
一つ言うなれば酔った竜人族に胴上げさせてはいけない。
どこまで飛ばされるか分かったもんじゃないから。
◇◇◇
寝れなかった。
酔ったジェリアの可愛さと、例の胴上げのせいで
全く違う方向に同時にドキドキして寝れなかった。
そして今も僕の片腕は彼女にホールドされたまま。
どうしよう…
「…もう朝なの。頭痛っいわね…」
もぞもぞと起き始めてジェリアに少しいたずらしてみよう。
昨日あれだけやられたんだから
ちょっとくらい許してくれるよね。
ジェリアと目があった。
「おはようジェリア。昨日は随分可愛かったね。」
寝起きということもあるのかキョトンとしている。
今、必死に記憶の中から昨日のものを探してるんだろう。
少しすると顔が徐々に赤くなり始めた。
うん、どうやら思い出したみたい。
「昨日みたいに僕のこと大好きって言ってくれてもいいんだよ?」
さらに顔が赤くなった。
おっと紅玉炎みたいですネ…
「あ・ん・た・ねぇ…」
布団から飛び出す。
命の危機を感知したから。
「待ちなさい!!その記憶、全部消してあげるから!!」
「次期族長がこんなはしたないことしてていいの?」
「そんな事より記憶消す方が先だぁぁぁぁぁ!!」
こんな緊張感のない日々が
この厄介事だらけの竜人族領で続いていきますように。
そう願わずにはいられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます