三族協商(竜ー翼ー拳)
(全員、伏せなさい!!)
長が言い終わる前に空から声が降ってきた。
その声が耳に入ったその場にいた全ての者が
各々の意志に関係なく強制的に地面に伏せさせられる。
この感覚…マギアが暴走した時と一緒だ。
(女神様、どうしたんですか!?)
女神様の返答を待たず僕はその答えを知ることになる。
黒い波動が空をなでるようにしてどこからともなく放たれた。
それは竜人族領の空を覆い、
徐々に日の光が弱くなっていく。
影がうごめき、そこから竜人族の形をしたナニカが現れた。
「現在より私が長の代わりとして指示を出す。
子どもを直ちに安全な場所へ。
戦える者は臨戦態勢、何があっても後れを取るな。」
ジェリアが叫ぶ。
この状況の中でも彼女は冷静だった。
「お前が出しゃばるんじゃない。
お前はまだ長の候補になっただけなんだぞ!!」
誰かが叫んだ。
その声を無視してジェリアは指示を出し続ける。
「リリィ、あんたの格納で子どもたちを安全な場所まで…
そうね、ゼルキアのところまで飛ばせるかしら?
あのバカなら守ってくれるはずなのよ。」
「そうは言っても飛ばせるのは視界に映る範囲までで…」
「じゃあ飛ばしなさい!!」
そんな無茶な…
ただでさえ消耗してるのにそんなの…
「リリィ、お願いよ…」
ジェリアが僕の手を握る。
僕がそんな目に弱いの知ってて…
「あ―ッ、もう分かった。やればいいんでしょやれば。」
『消滅』だってできた。
今ならもう一段階上を目指せるのかもしれない。
手を突き出し集中する僕に
影から出てきた魔物が邪魔できないように竜人族たちが立ちまわる。
ジェリアも僕の肩に手を置いて
力を流し込んでくれている。
(みんな、ありがとう…絶対助けるからね。)
「次元跳躍」
一ヶ所に固められた子どもたちの足元に魔法陣が現れ、
上下から魔法陣で挟み込むようにしてその姿は消える。
(うまくいったか…)
(何がうまくいったと言うのじゃ小娘。
我の元にこのような童どもを送り付けよって。)
「ジェリア、無事にうまくいったみたい。」
頷くジェリアは次の瞬間、僕の耳に向かって叫んだ。
「襲撃よ、子どもたちは任せたわ。
傷一つでもつけて見なさい。ただじゃおかないから。」
それだけ言うと影と戦う同士たちの所へ飛び込んで
一瞬のうちに魔物を叩き潰し消滅させた。
僕の耳は通信するためにあるんじゃないんだよ…
「リリィ、あんたはけが人の治癒を頼むわ。
そっちに送ってるから。」
そういうやいなや彼女は片手で格納を使い
けが人を僕の所へホイホイ投げつけてきた。
いつも通りガサツって言うか…
けが人なんだからもうちょっと丁寧にさ…
治癒をかけるとさすがは竜人族、
人間と比べて傷の直りが速かった。
それに受けた傷も人間なら致命傷になりかねないようなものでも
その体表の鱗で軽減してしまうのだろう。
回復した竜人族たちは意外なことにお礼まで言ってくれた。
まさか部外者で且つ決勝まで出ちゃったため
嫌われているものかと思っていたが…
「強き者には敬意を、
助けてもらった者には感謝をするのは当然」とのこと。
誇り高く、関わりにくいとも思ったけど
そうでもなさそうかな。
「ちょっと待ってください。」
再び戦おうとする彼らを引き留め、
目の前に整列させる。
「女神の祝福の力の片鱗、我らに与えたまえ。『祝福』」
何が起きたか分からない様子で
キョトンとする彼らの背中を軽く叩いて送り出す。
「頑張って、勝ってください。
僕たちの誇りにかけて。」
「あぁ我らが敗北することは決してない。」
そう言うと彼らは再び戦地に赴く。
その姿は一瞬で加速したのだろうか、すぐに見えなくなった。
◇◇◇
「数が多すぎるわ。本体叩かないとキリがないわよ。」
「本体って言ってもどこにいるのさ!?」
ジェリアが相変わらず影の魔物を叩き潰し
引きちぎり、片っ端から消滅させているのに一向に数が減っていない。
僕も上空から『消滅』でどうにかできないものか模索しているものの
影の魔物は減るどころか増えてきている。
「陽光が完全に消えたらこいつら無限に湧いて出てくるわ。
その前に本体叩かないと…」
「っても、こいつらが邪魔で探せねぇぞ!!」
「そこをどうにかすんのが巨人族のあんたの仕事でしょ!?」
「無茶言うんじゃねぇクソ女。
俺だって手一杯だっての!!」
陰に囲まれてよく分からない技で叩きのめしているルロイ
聞けば「波動懸」だの「昇竜拳」だの叫んでいる。
どこでそんなの覚えたんだ…
とはいえその威力は絶大で
上空から見れば一部分だけやけに魔物が少ない部分がある。
つまりそこでルロイが戦ってるってわけだ。
「それにしてもこいつら竜人族と比べて
弱っちすぎないか?一発殴ったら消えてくんだぜ。」
「そりゃそうよ。
竜人族はここまでもろくない、のッ!!」
答えながら背後の影にジェリアが回し蹴り。
何体も巻き込んで蹴られた魔物は吹っ飛んで消滅した。
フィシカルだけ見たのならルロイに並ぶほどの強さ。
それに魔法が乗るんだからその力は計り知れない。
「リリィ、まだ大丈夫?」
「全ッ然大丈夫。」
嘘、大丈夫なんかじゃない。
ジェリアと半ば本気でやり合って、すぐのこれだから。
さっきの治癒だけでもかなり持ってかれた。
やっぱり決勝でのあれが原因なんだろうか…
「クソガキ、あんたここいらの奴らまとめて一掃できる?」
僕の様子を見抜いたのか
キッと僕を睨んだ後ルロイに向かって彼女は叫んだ。
「誰にもの言ってんだ?やってやるに決まってる。
リリィ、俺を連れて上空まで飛べ!!」
あっちからこっちに指示が飛び、
気を失いそうなのと負わせて頭がパンクしそうだったが
なんとかルロイを抱え上げるところまでは聞こえた。
襲いかかる影の隙間を縫って、ときには翼で影を切り裂きながらも
最後の力を振り絞ってルロイを上空まで連れて行く。
「お前ら全員退逃げろ、じゃねぇと巻き込むぞ!!」
蠢く影が一望できる高さまで来た時
ルロイはそう叫んだ
「総員退避!!」
竜人族がいないことを確認すると
「じゃあ俺はここで。」
そう言うやいなやルロイは僕の手から抜け出して
地面に向かって落下を始める。
「リリィのを見てピンときた。
俺もなんかよく分からんアレをやる。」
(まさか…)
拳を固く握り、陰に打ち付ける直前の数秒間、
その時間ががとてつもなく長い時間のようにさえ思えた。
音をなくした世界は白く染まる。
その世界を打ち破れるのは発動者ただ一人だけ。
「 」
叩きつけられた拳は轟音を発し、
地面を抉り、千切り、蒸発させる。
一瞬の間だけ音が消えていた。
僕のを見てピンと来たってこれのことかよ…
衝撃波第二弾、第三弾によって
現れた魔物がことごとく吹き消されていく。
空から見ると壮観壮観…じゃなくって本体探さないと。
「見つけた…」
ジェリアが駆けだした方向、
ルロイの一撃で霧散した黒い波動の残りが引いていく。
その方向が全て同じだった。
「こんなことしておいて…
ただじゃおかないんだから…」
ぼそっとジェリアがつぶやいたのを聞き逃さなかった。
いや聞き逃せなかった。
危険センサーでも備わってるんだろうか…
(怖ッ…関わりたくないなぁ。)
心の声がもれなくてよかったと今日ほど思った日はない。
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